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釧路のアイスホッケー 前例のない年に 北海道ワイルズ・大津晃介が語る1年

  • 2023年12月21日

年の瀬も迫った12月中旬、釧路のアイスリンクでは緑のユニフォームに身を包んだ大津晃介選手ら北海道ワイルズの選手がパックを追っていた。
アイスホッケー、アジアリーグのひがし北海道クレインズの給与未払いに端を発し、選手が離脱、そして11月にはリーグから脱退。選手の大半が加入したワイルズはリーグ加盟が認められず、今シーズン、氷都とも呼ばれる釧路からトップチームが消えた。 前例のないこの年、チームを引っ張ってきたのがキャプテンの大津晃介だ。釧路アイスアリーナの観客席で練習後、およそ40分の時間をもらい、インタビューを行った。
(釧路局 島中俊輔)

気がついたら12月にーーー

もう気がついたら12月という感覚ですね。
7月、8月の頃はとにかく9月に開幕するアジアリーグに参戦したいと焦っていた自分もいました。アジアリーグに参戦したいなら、これもやる、これもやるじゃなくて、遠くばかり見ずにこれをやると決めて、もっと一点張りしてやっていたなら何か違ったのかなと思っちゃいますよね。あまり広く浅く手を突っ込んでも意味ないという部分をすごく感じて、自分にできることを100%やるしかないんだなと。
だからもう今は自分にできることを100%やったうえで、ワイルズというチームが世間に知られて、アジアリーグに参戦できるルートを少しでも切り開けたらいいかなと。自分にできる範囲で100%、いや120%そこに全力を注ぎたいと今思っています。

ワイルズは9月に開幕した今シーズンのアジアリーグ参戦が認められなかった。昨シーズンのクレインズ所属時代にはリーグで40試合が組まれていたが、今シーズンは横浜グリッツとの交流戦や練習試合などにとどまり、トップチームと競い合える試合数は激減した。目標が見えない中で、練習を繰り返す日々が続いた。

目標がないと人間、その日1日100%出しきれないんだなというのを実感した。アジアリーグに出ることとか、試合で活躍することみたいな目標が立てられないじゃないですか。最初のころ、本当に不安だったし、試合勘大丈夫かなとか。でも、そう思う前に目の前の練習をやらなくてはいけなかった。最初はそれを結構おろそかにしてたんですよね。
そこから吹っ切れて『あしたは練習でシュート100本打とう』とか明確に自分の中で目標を作り始めてから、練習が身になってきた。自分たちがコントロールできる、きょう、あしたの練習に何か目標を立ててやっていくことの積み重ねがモチベーションやメンタルを保っていくことができたのかなと思っている。ほかの選手にも差が生じないように、自分はできるだけチーム内をうまく見ながら、ちょっとあの選手、モチベーション下がってるなって思ったら声をかけるといったことをしていましたね。

最大の目標となった全日本選手権

目標が立てられない日々が続く中、一筋の光明となったのが、アイスホッケー日本一を決める全日本選手権の出場だった。日本アイスホッケー連盟がリーグに参戦できなかった選手らのプレー機会を確保するためなどと特例で出場を認めたのだ。
ワイルズの選手たちにとって、今シーズン唯一タイトルを目指せる公式戦。試合に臨む気持ちはこれまでにないほど高ぶったという。

試合を見てもらえる機会や応援してもらえる機会が減ってしまった中で、公式戦という形でアジアリーグ勢と試合ができることが本当にうれしかったし、今まで当たり前に次のシーズンを迎えながら試合ができた中で、トップレベルのチームと試合ができることは当たり前ではないとアイスホッケーができる喜びを改めて感じていたので、全日本選手権に出場できて非常にうれしかったです。
ワイルズの背中を押してくれるファンの皆さんを見ていると、試合は自分やチームメイトのためだけではない部分が非常に大きいと思っているんです。今までの試合も絶対に勝ちたくはあったんですけど、その中でも1番『勝ちたい、優勝したい』と思って臨んだ大会でした。

若手とともに成長したチーム

12月7日に開幕した全日本選手権。ワイルズは初戦、香川の社会人チームを相手に11対1と圧倒的な力を見せて勝ち進み、アジアリーグの横浜グリッツとの対戦に進んだ。
この試合、特に印象的な場面がある。同点から勝ち越したあと、大津が相手にパックを奪われるミスが失点につながってしまった。しかしその直後、ルーキーの上野鉄平がゴールを決めて同点に追いついた。大津も「若手が流れを持ってきてくれた」と語るこの場面。この試合で若手の成長とともにチームがやってきたことが間違いないことを感じたという。

若手というよりも、本当に頼もしいチームメイトだなと率直に思いました。自分のミスを仲間が取り返してきてくれるようなチーム力を発揮してくれて、自分自身助けられましたし、その後も若手のプレーでチームも初心にかえらされるというか。チャレンジすることばかりじゃなくて、チームのためにプレーすることを思い出させられた。若手の活躍で中堅やベテランは押されるような、競争心をあおられるようないい雰囲気になっている。チーム内で影響力を与えて与えられてという状況は非常にいい状況だと思うので、若手がぐんと伸びてくるというのは、チーム全体にとっての成長につながるんじゃないのかなと思っています。

同点ゴールを決めた上野鉄平(中央)を囲む

見せたチームの力 だからこのチームが好きだ

横浜グリッツを破って進んだ準決勝は、東北フリーブレイズとの対戦となった。去年の全日本選手権でクレインズと決勝を戦い、敗れている因縁の相手との試合だ。先制ゴールを奪うも、その後逆転を許し、2点を追っている第3ピリオドにチームの強さを見せた。一気に2得点を奪って、同点に追いついたのだ。延長でも決着はつかず、双方がペナルティーショットを打ち合うシュートアウトにもつれ込んだ。そこで見せたのがベンチでの円陣だ。大の大人が肩を組み合い、大声で発破をかける。チームの団結の強さを物語っていた。

1点勝っている状況から、逆転された時、雰囲気悪くなりそうなところだったんですけど、ベテラン中心に『大丈夫だ、大丈夫だ』と言って、今までどおりのプレーを続けることができました。そこで選手が単独プレーに走ってしまったら、多分追いつくことはできなかったと思う。2点ビハインドの状況から追いつけたのはやっぱりチームの底力、本当に勝ちたいという思いが出たのかなと。自分たちのやってきたことを信じて続けてきた結果が、追いついた場面だと思う。
円陣はベンチでもう全員が『よし、やろうぜ』みたいな感じでやりました。はたから見たら『仲良しこよししてるんじゃねえよ』と思う人も、もしかしたらいるかもしれないんですけど。全然もう恥ずかしがらず、『マジで全員で勝ちに行くんだ』という気持ちの表れなだけで。ああいうことを全員で本気でできてしまうのが自分のチームのいいとこだと思っているんです。チームみんなで試合に行くぞってなれる瞬間ってそうそうないので。そこは自分自身もチームメイトに感動させられるし、驚かされるし。
うん、だから、好きですね、このチーム。

敗退も大会に込めた思い ファンヘの思い

しかし準決勝は勝利には届かず、敗れた。今大会、アジアリーグ勢を相手に実力を示したが、惜しくも決勝には進めなかった。
それでも選手たちが躍動できたのは何よりファンのおかげだと大津は話す。ワイルズの練習が始まったこの夏以降、無料で見学ができる練習に必ず顔を出してくれるファンの存在。そして全日本選手権の大会期間中、連日、ユニフォームに身を包んだ人、チームロゴの入ったタオルを掲げる人、太鼓で応援をする人など数多くファンが訪れてくれた。この試合、大津は相手選手との交錯でひざをけがして治療のため一時退場する場面もあったが、試合に出続けた。そこには大会に込めた思いがあった。

毎日のように練習見に来てくれる方いるんですよ。気分が沈みそうな時や寝れないなというような時も、次の日リンクに来たらまた練習見に来てくれて。1人でも2人でもそういう方からもらえるメッセージは非常に強くて、本当にたくさんパワーもらいましたし、頑張る自分の力の源になった。
大会でもワイルズのユニフォーム着てくれて、タオルを掲げてくださる方、本当にリンクからよく見えていて、本当にうれしかったですし、すごいパワーをもらっている気がした。チームメイトみんなそうだったんじゃないのかなって思います。自分たちのやりたいことを、どん欲に向かっていくゴール前でのバトルを、ファンに見せたかったことが、準決勝で同点に追いつけた場面につながっているかなと思う。
勝ちにこだわって、必死にもがいてもがいて立ち向かっていく姿に何かメッセージを込めたいと思っていました。だからけがはあったけど、正直気にならなかったですし、どうにか最後まで出場したかった。
負けたことに価値なんて生み出したくない、勝って価値を生み出したかったので本当に悔しいんですけど。本当、1人、2人、何十人という人に何かメッセージが届けられたなら良かったかなと思っている。

準決勝敗退後、リンクを出た大津に拍手を送るファン

見通せない参戦 必要と思われる選手に

北海道ワイルズは来シーズンのアジアリーグ加盟を目指している。しかし、未だ参戦を確実に見通せる状況にはない。大津は栃木県日光市出身だが、釧路にこだわってワイルズというチームに加入した。日本代表のフォワードという実力があれば、他地域のアジアリーグチームからも引く手あまただろう。なぜそこまで釧路にこだわってくれているのか。

本当に釧路にアイスホッケーが必要で、見たいと思う人たちが本当にたくさんいるのかどうか。自分たちが必要かどうかというのが大事だと思っている。釧路にアイスホッケーはあるべきだとか、自分たち選手は言えるわけでもない。必要な存在になるため、いろんな行動を起こしていかなくてはいけない。そして『あの選手たちが必要だ』と言ってもらえるような選手にならなくちゃいけないって思っています。
自分は好きという感情が結構大事なんです。人生で小さな嘘を自分にたくさんつき続けてきたし、明日やるって言ったのにやらなかったとか。そんな小さな嘘をたくさんついてきたんですけど、大きい嘘だけは自分につきたくなくて。自分の人生なので、決断の時は誰かに流されず常に自分で決めるようにしていて、その中で決めたことなので。後悔や間違ったと思う瞬間だってもちろんあるんですけど、その中でも『この人生選んでよかった』と思えるようにするのがやっぱり自分の人生じゃないですか。
自分は釧路出身じゃないですけど、だからこそ、釧路はアイスホッケーのまちだと思っていました。それぐらい自分が小さい頃、スケートがあるのが当たり前なまちだったので。
なぜ釧路にこだわっているかと言われたら、なぜこだわっているのかわからなくなる時だってもちろんあるんですけど。でもやっぱり釧路でプロ選手としてスタートしたし、大学まで順風満帆にアイスホッケーをやってきた人生の中で、この釧路のリンクで初めて悔しい思いをしたし、釧路に自分のプロ人生が詰まっている。
自分、1番になりたいんですよ。1番になるの大好きなんですよ。まだこの釧路のリンクで1番になってないんですよ(※注:大津がクレインズに加入した2016年以降はアジアリーグで優勝していない)。だからそこへのこだわりは非常に強かったですね。

「1番が好き」と笑顔で語る大津

「はい上がる」2024年へ

まもなく2024年の年が始まる。どのような1年になるのか、見通せないのが現状だ。それでも大津はパックを追いかけ続ける。

常に前に進もうと思います。ここ3年間ぐらい『ことし以下はない』と毎年言っていたんですけど、常にその以下があったんですよ。今はもう海底にいるぐらいかなと思うんですけど、たぶんまだ全然その下はあるんですよ。だから別に今も沈む必要はない。
1回、谷の底を見ているから、その分大きく飛躍できるぞと。それで、毎日進んでいけば絶対いつかいいところまで行けるかなというポジティブな気持ちが重要なことに気付かされている。
『ことしがどん底だったね』と毎年、言いながらも。『でも、はい上がってきたね』と何年かあと、もう何なら来年言えるよう、毎日進んで積み重ねていくことしかない。

(2023年12月22日 ほっとニュース北海道 放送)

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