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電力は自前で作る 値下げ待たずに

  • 2023年7月31日

6月のシラベルカの放送で電気料金が値上げされるなかで経営の厳しさに直面する企業の現場をお伝えしましたが、(請求書が届いた…どうする電気料金? | NHK北海道こうしたなか大手電力会社に頼らずに自ら発電して電力を賄っていこうという企業があります。しかもなんと採算に乗る見通しが立っているというのです。どのようにしているのか現場を取材してきました。

その企業は千歳市と苫小牧市で自動車のクラッチの部品などを製造し国内シェアトップ、ヨーロッパやアメリカの名だたる自動車メーカーに部品供給するグローバルでもシェア2位の知る人ぞ知る自動車業界を底支えするメーカーです。

道内でも比較的降雪量が少ない気候条件を生かして工場やカーポートのほか、企業内保育所の屋根に太陽光パネルの設置を進めて、すでに保育所はすべての電力をここで発電した電力で賄えるようになっているということ。さらには800メートル離れた敷地にエスコンフィールドより広い6万平方メートルを超える規模でもパネルを整備しています=写真下=。工場までの送電には電力会社の設備を借りることをせずに自営線として電線まで整備しました。

この背景には、昨年来続く電気料金の高騰があります。決め手となったのはことし4月に基本料金や電力量単価も値上げとなったことでした。同社の場合は去年までは割引額が大きかったということから、負担は去年と比べて倍に跳ね上がっているといいます。その増額は実に年5億円に上るということです。

道外から理解得られず

この負担増をどうするか。まずこの料金水準がどの程度続くのか、ということですが、北海道電力は値下げの見通しを示していないわけではありません。2026年12月に泊原発の再稼働をするとして「再稼働したあかつきには費用が減り安いものに転換できるのでこれで値下げする」(北電の藤井裕前社長)と説明してきました。しかしこのメーカーを経営する伊藤和弘さん=写真下=は、国による再稼働の審査や数百億円に上る原発に関わる費用計上も踏まえ「泊原発が動けば値下げするというが、いつになるかはっきりしない以上、企業としては待っていられない」と懐疑的にみています。

次に価格競争。グローバルで競争にさらされている立場ではコスト削減による価格競争が常です。値上がり分を商品価格に転嫁できなければ競争力は損なわれてしまうといいます。しかし電気料金の値上げによる負担の増えた分について取引先への価格転嫁を要請してもなかなか理解されないものだといいます。それは、北海道の料金水準が全国10の大手電力会社のなかでも1、2を争う突出した料金水準のためだといい(図参考)、素材の価格が上がっていることは理解されても、電気料金の値上がり分については本州の企業から理解されないということです。「お客さんはすべて本州ですから、本州の電力の市場からみるとなんでそんなに電力があがるんだと、北海道でほかに製造しているところありませんからなかなか認めてもらえない」(伊藤さん)とのことでした。

送電も自ら行う

そして考えられたのが自ら発電しより安い電力を調達することでした。しかしいざ大規模な発電をするためには広い敷地が必要です。工場までの送電も考えなければいけません。今回利用した再生可能エネルギーは、作るのもそうですが送ったり使うのが大変な電源です。太陽光や風力など自然条件によって出力変動があり、作るのと使うのが合わずに停電する事態を防ぐために電力が余ってしまった場合はいったん蓄電池に蓄えておいたり、足りないときに機動的に発電できる火力発電などで電力を追加したりしなければなりません。大規模な再エネ電源を送電線につなぐには蓄電池も合わせて整備することが北海道では最近まで求められていたり、送電容量も余裕を確保して運用されてきました。また送電線を使って電力を送る際に電力会社に支払う託送料もあり、なかなか遠い敷地で発電したのを使おうというケースはこれまでほとんどなかったのが現状です。

そこで今回取られた方法がPPA(電力購入契約)と呼ばれる仕組み。発電設備の設置、メンテナンスは外部業者が行い25年間固定価格で電力供給を受けるというものです。北電の送電線を使わないため=写真下=託送料がかからず、現下の高騰した電気料金の水準だとコストは半分以下に抑えられるということでした。

世界から再エネ圧力

さらに自前の再生可能エネルギー活用に舵を切った理由はもう一つあります。ヨーロッパの企業を中心とした脱炭素の要請です。電気自動車での同社製クラッチ導入が広がっているなか、多くの国から二酸化炭素の排出量の削減を求められていて、CO2削減の実績と将来的にはCO2の排出と吸収を均衡させるカーボンニュートラルの計画を具体化し実現を誓約することが取引の前提条件になっているといいます。この会社では自前の太陽光発電がすべて稼働すれば苫小牧にある工場で使う消費電力の2割を賄える見通しだということで、バイオマス発電なども加えて将来2030年に自前の再生可能エネルギーの電力で排出を2019年と比べて46パーセント減らし、2050年にはこれを8割までに上げることを目指しています。こうしたグローバルを舞台とした製造業のトレンドは、自動車業界にとどまりません。例えば半導体では、米国のアップルなどの大手テック企業が再エネ100%利用を部品供給業者に求めています。グローバルでは再エネ利用が製造拠点の必須条件となりつつあるのです。

さらにそもそもの消費電力を減らす省エネがより一層重要になっているとのことで、同社では工場の消費電力を事細かに5分ごとに一覧表示するシステムで電力を“視える化”し、製造現場でも多大な電力消費があるコンプレッサーからの空気漏れを設備を停止せずに発見できる、わずかな空気漏れの音を可視化する装置も開発。こうした省エネによる効果を太陽光などの自前の発電の効果と合わせると、今回の電気料金の値上げによる負担増額分は捻出できる見通しだということです。

さて企業も家計も電気料金の値上がりをいかにやり繰りするか、悩ましい季節を迎えています。みなさんの電気料金いかがでしょうか。視聴者からは7月検針分の料金は消費電力が減ったこともあり去年に比べてむしろ1000円ほど安く済んだという声も届いています。ただ北海道の本格的な電力需要期はむしろ冬。燃料費の価格動向や国からの補助金も10月以降どうなるか分からないなか、次回のシラベルカは暮らしの生活費をテーマに取材進めています。引き続き皆さんから今後取材してほしいことについてご意見も募集しています。

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