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線路を渡って避難できる?JRと自治体が協議へ

  • 2024年1月16日

日本海溝と千島海溝沿いで想定される巨大地震と大津波への備えが進められる中、海沿いの地域からは避難の際に「線路を横断したい」という声があがっています。JR北海道はこれまでの立場を転換し、自治体側との協議に応じる考えを示したことから、今後、議論が活発になるものとみられています。太平洋に面する室蘭市の現状を取材しました。(室蘭放送局 小林研太)

線路で避難が困難に

日本海溝や千島海溝を震源とした巨大地震で、最大9.4メートルの津波が想定されている室蘭市。なかでも海に近い東部の日の出町などではなだらかな低地が広がり、高い場所もほとんどないため、素早い避難行動が求められています。

室蘭市のハザードマップ(黄色の部分が日の出町)

ただ、この地域の山側には、札幌や函館に向かう線路があります。日の出町の住民が線路の先にある高台に逃げるための通路は、線路の下を通るアンダーパスか、隣の地区にある陸橋の2か所しかありません。この2か所はおよそ1.4キロ離れていて、線路を避けるためには、健康な大人でも最大で10分程度移動しなければなりません。

日の出町の町内会で役員を務める橋本正敏さん(74)は、およそ10年前から線路横断の必要性を室蘭市に訴えてきました。

橋本正敏さん
「この地域に避難指示が出た場合、なかには『線路を横断する許可があってもなくても、私は何が何でも渡って逃げますよ』と話す人もいるんです。でも、それはしてはいけないことですよね。それならば、安全に線路を渡れる方法を事前に準備すべきなんじゃないかと思うのです」

町内会からの声を受けて、室蘭市はJR北海道に打診をしましたが、これまでJR側は、線路の横断を認めない立場でした。市に対しては以下のような返答があったといいます。

<JR北海道から室蘭市への返答>
①システムとして、自動で列車を停止させる仕組みとはなっていないため、即座に列車が停止する保証ができない
②「緊急避難」として、乗客の安全確保のため、より安全な場所まで列車を移動させる可能性がある
③鉄道横断は鉄道営業法第37条で違反行為とされており、津波避難時に限らず禁止されている
以上のことから、地域住民の方々が線路を横断した際の安全確保ができないため、線路横断並びに避難通路の設置は困難である。

要望続けJRが方針転換

その後、2023年10月に状況に変化が生まれました。地域からの熱心な要望が続く中、室蘭市をはじめ、同じような課題を抱える苫小牧市など胆振地方の11の自治体が連名で、内閣府へ共同要望を提出しました。そこで得た回答は、災害時においてはこの鉄道法の罰則に該当しないというものでした。

室蘭市防災対策課 武田学課長
「国土交通省は北海道運輸局を通してこの解釈をJR北海道に伝え、JR北海道も『今後の対策や地域との調整について協議に応じます』と話しているということです。今後、津波対策が前進していくことを期待しています」

JR北海道はNHKの取材に対し、「各自治体が避難経路を具体的に提示し、横断する線路の地点を限定することができれば、緊急性や必要性を精査したうえで横断方法について協議に応じる」とコメントしています。

各地で実現に向けた動き

室蘭市では今後、各町内会の要望を聞きながら、JR側との協議に向けて準備を進める方針です。橋本さんの町内会では避難場所や避難経路などを改めて確認するほか、災害時に線路を横断できる場所の選定を進めるなどして、実現に向けて後押ししていくことにしています。将来的には避難訓練も実施したい考えです。

橋本正敏さん
「JRが協議に応じると言っているので、具体的にどの場所からどのようにして横断をするかといったことを提案していきたいです。今後も避難の準備をしっかり整えて、いざ災害が起きたときに1人の犠牲者も出さない体制を作れたらと思っています」

JRに対しては、道東の厚岸町に続いて、室蘭市の隣の登別市がすでに協議の申し入れを行いました。登別市は「道や周辺の自治体と連携しながらできるだけ早く実現したい」と説明しています。ほかの自治体でも海沿いに線路がある場所があり、同様の動きが広がっていくことが予想されます。

自治体側とJR側の協議では、いかにして安全に線路を横断し、避難できる仕組みを作ることができるかがポイントとなります。能登半島地震では津波による被害が出るなど、津波への備えの重要性が改めて浮き彫りになっており、今後、災害時の線路の横断をめぐる議論が活発になっていきそうです。

2024年1月16日

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