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厚真町の被災地ガイド ~胆振東部地震の記憶を伝えていく~

  • 2023年10月10日

5年前の胆振東部地震で最大震度7を観測した厚真町では、現在、被害の爪痕を町内外の人に知ってもらう「被災地ガイド」が行われています。さらにことし(2023年)、新たに地元の高校生もこのガイド役に加わり、活動を始めました。風化を防ごうと、若い世代へと受け継がれる取り組みを取材しました。(室蘭放送局  小林研太)


記憶をつなぐ「被災地ガイド」

2018年9月6日に発生した胆振東部地震。厚真町では大規模な土砂崩れが発生し、道内で最も多い37人が犠牲となりました。また、周辺の2つの町とあわせ、記録の残る明治以降、国内最大のおよそ4300ヘクタールの森林が被害を受け、林道の整備や植林などが集中的に進められています。

地震からことしで5年がたち、町では主要なインフラの整備はほぼ完了し、復旧から復興に向かって歩みを進めています。こうした中、地震の教訓や命の大切さを伝え、その記憶を風化させないよう、地震の翌年から続けられているのが「被災地ガイド」です。

このガイドを企画したのは、厚真町観光協会で事務局長を務める原祐二さん(53)。大阪府出身の原さんは、2015年に「地域おこし協力隊」として家族で厚真町に移住し、2018年からは観光協会で働き始めました。そして、まもなくして経験したのが胆振東部地震でした。原さんの家族は地震による大きな被害はありませんでしたが、観光協会として予定していた仕事はすべてが中止となり、力を入れていこうと考えていた観光振興に取り組むことはできない状況になりました。こうした中、観光協会には、徐々に全国から厚真町の状況を知りたいとの声が寄せられるようになりました。

厚真町観光協会  原祐二 事務局長
「2018年のちょうど年末、主に本州の方からですが、『現地の視察をすることができないだろうか?』といった問い合わせがありました。まだ当時はそれどころではなかったので『現状ではできることはありません』という返事をしていましたが、さらに翌年になってからはそうした問い合わせもだんだん増えてきました。そこで、誰か案内ができる人がいたほうがよいと思い始め、そうした問い合わせの受け皿となり、役に立てるのではないかと思い、始めることにしたんです」

原さんは、被災地ガイドを始める前に東日本大震災の被災地へ視察に行き、現地の観光協会や語り部を訪ね、ガイドとしての心構えを学びました。厚真町の被災地ガイドは、特に被害が大きかった町の北部にある吉野地区、富里地区、厚幌ダムの3か所を1時間かけて回ります。申し込みは全国からあり、これまでに延べ8000人以上が被害の爪痕を目の当たりにしてきました。


被災地ガイドの思いを受け継ぐ

多くの人が参加し、原さんは活動の意義に手応えを感じる一方で、ガイドの高齢化などに危機感を強めていました。そこでことし、地元の厚真高校の生徒にガイド役を担って欲しいと声をかけました。この取り組みを将来にわたってつないでいくだけでなく、若い世代に地震の教訓を伝えるには、同世代の方が相手に響くのではないかと考えたのです。

原さんの呼びかけに手を挙げたのは2年生の加藤迅さん、1年生の蹴揚葉月さんと木村璃空さんの3人。「自分たちにも何か役に立てることはないだろうか…」と日頃考えていたということで、ことし9月から活動をスタートさせました。

10月2日、2年生の加藤さんが初めてのガイドを務めました。日本海側の苫前町にある苫前商業高校からの依頼を受けて、オンラインで25分間にわたって厚真町の状況や被災地の高校生としての思いを伝えました。

厚真高校2年  加藤迅さん
「地震が発生した9月6日は僕の誕生日だったんです。何がもらえるのだろうとワクワクしながら寝ていたら、急に『ドシン』っていう大きな音とともに揺れがきました。当時小学生でしたが、クラスのLINEで『地震大丈夫だった?』とやりとりをしながら、安心したのを覚えています。今は、大人たちが培ってきた経験からくる当たり前や、『きっと大丈夫だろう』が通用しない時代を生きています。だからこそ常に最悪の状況に備えていくことが大切だと思います」

やや緊張した表情を浮かべながらも、ガイドの大役をやりきった加藤さん。小学6年生だった地震当時の出来事を振り返りながら、その時に自分が感じたことなどを若者ならではの目線で話し、相手の高校生からも共感しやすかったとの反応がありました。

地震の記憶を多くの人に伝え、語り継ぎ、次の災害に備えるために役立てて欲しい。被災地ガイドとしての原さんの思いは、若い世代にも受け継がれています。

原祐二さん
「被災地ガイドを行うことで、もちろん風化を防ごうという思いもありますけど、若い世代がそれを伝えるということがとても重要だと思いますし、またそのことによって町の復興の一助になれればいいなと考えています。また、厚真町の『被災地』という負の側面だけじゃなく、緑豊かでたくさんの農作物がとれるのどかな町だということもPRしていけたらと思っています」

2023年10月10日


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