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再犯防止へ 鍵は“司法と福祉の連携”

  • 2024年01月29日

刑法犯罪を起こして検挙された人のうち、半数近くにあたる47.9%が2回以上犯罪を繰り返しています。こうした「再犯者」の中には、背景に「依存症」があるケースもあります。再犯を防ぐため、司法だけでなく、「福祉」のサポートを取り入れようという動きが広がっています。

(NHK広島放送局記者 有馬護)

繰り返してしまった犯罪

広島県内に住む男性です。
去年、女性のスカートの中を盗撮しようとした疑いで逮捕されました。盗撮での逮捕は3回目。1回目と2回目の際には罰金刑でしたが、3回目は起訴されて、正式な裁判を受けることになりました。

男性
「ストレス発散みたいな感じで、犯罪を繰り返してしまいました。被害者の方に申し訳ないという気持ちはありましたが、自分の気持ちが出てしまった」

"司法だけでは十分ではない”

男性の弁護を担当した中村麗子弁護士は、犯罪を繰り返す「負の連鎖」を断ち切るためには、司法だけでは十分ではないのではないかと感じたといいます。

中村弁護士
「男性は執行猶予の付いた判決になるかなというふうに思いましたが、もしそうなったとしても確実に再犯になると思いました。彼には医療とか自助グループとか、生活環境を整えるといった福祉的な支援が絶対必要だと思いましたが、そういった社会資源に詳しいのは社会福祉士なので、連携することが必須だと考えました」

“司法のプロ”の弁護士は、逮捕された容疑者を捜査や裁判の段階で支えます。一方で、福祉についての知識や人脈は、十分ではありません。中村弁護士は、“福祉のプロ”と連携することで再犯防止につなげようと考えたのです。

福祉のプロが依存症治療へつなげる

“福祉のプロ”として男性の支援にあたった社会福祉士の田中洋子さんは、弁護士から依頼を受けて男性についての話を聞く中で、犯罪を繰り返す背景に「依存症」があると考えたといいます。

田中さん
「自分が起こした犯罪に、どうしていいのか分からないでいるように感じました。依存症は根性では絶対に治りません。自分が治したいと言っているだけでは絶対治らず、社会に出た途端にやっぱり同じ犯罪を繰り返すんです。だから、治療にきちっとのせてあげることが、本人の将来に一番大事なことではないかと思いました」

社会福祉士の田中さんは、起訴後に保釈された男性に医療機関を受診するよう伝え、みずからも同行しました。男性は医師によって、「依存症の精神障害」だと診断されました。

福祉のプロが裁判でも証言 更生へ一歩

田中さんは、男性が社会復帰できるよう立ち直りのための「支援計画書」を作りました。計画書には、定期的にクリニックなどに通って治療を受けることで、犯罪を繰り返さないようにすると明記されています。

中村弁護士はこの計画書を裁判所に提出しました。
さらに男性の裁判では、計画書を作った社会福祉士の田中さんが証人として出廷し、男性には立ち直る意思があると証言もしました。

裁判所は、男性に執行猶予の付いた判決を言い渡しました。弁護士は、福祉のプロが作成した「支援計画書」が重要だったと考えています。

中村弁護士
「裁判で本人が更生支援計画に積極的に取り組むと述べたことが、執行猶予のついた判決になる1つの要素として判断してもらえたと思っています。専門家である社会福祉士が関わることで、本人が生き直すための環境の調整ができたという点で意義があったと思います」

福祉のプロから支援を受けた男性は計画書に沿って、医療機関だけでなく、アルコールなどの依存症を抱えた人たちによる自助グループの集まりにも参加して、お互いに悩みを語り合っています。男性は自分と向き合うことで、犯罪を繰り返さないと決意しているといいます。

男性
「自分は依存症だと認めて、今まで犯してきたことから回復していこうという気持ちをすごく持つようになりました。とにかく過ちを繰り返さないこと、周りの人に迷惑をかけないということを一番に思ってやっていきたい」

協定を結んで司法と福祉の連携を推進

男性に行った支援のような「司法と福祉の連携」を進めようと、去年9月、弁護士会と社会福祉士会、それに精神保健福祉協会の間で協定が結ばれました。福祉的な対応が必要な容疑者や被告には、早い段階から支援を行うことにしています。
広島弁護士会によりますと、司法と福祉が連携して再犯防止にあたった支援は17件にのぼるということです(2023年12月時点)。社会福祉士も弁護士も、本人の立ち直りを支える態勢づくりを進めることが、再犯を減らす上で欠かせないと考えています。

田中さん
「福祉的な支援から漏れている人を、きちんと福祉の支援にのせてあげることが大切だと思います。判決で執行猶予になろうと、刑務所に入ったあとで出所しようと、地域の受け皿でちゃんと施策や社会の理解に結びつけてあげることが大事になります」

中村弁護士
「再犯を減らすことは被害者を減らすことにもなりますし、再犯者率が高止まりしているのは、社会の生きづらさを示しているとも感じています。社会の中でもう1度やり直していくことができるというのはすごく健全だと思いますし、そのためには“司法と福祉の連携”が非常に必要になってくると思っています」

  • 有馬護

    広島放送局 記者

    有馬護

    2016年入局。宇都宮局を経て2021年秋から広島局に所属。現在は県警・司法担当キャップ。

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