【全文】カープ 新井監督に聞く 1年目の戦い そして来季は?
- 2024年01月16日
カープの新井貴浩監督に単独インタビュー!初めて監督として挑み2位に躍進した1年目の振り返りから来シーズンの構想までたっぷり語りました。その一問一答です。
(NHK広島放送局記者 横山悠)
“現役時代より野球のことを考えた”
就任1年目はどんなシーズンだった?
選手みんながよく頑張ってくれたシーズンでした。
初めて監督を務めて感じたことは?
決めないといけないことがたくさんあるなと。
もちろん試合中の采配にしても選手起用にしてもそうですが、グラウンドにいない時でもファームの選手との入れ替えや、ファームのスタッフとの話し合いもそうですし、決める量がたくさんあると感じました。これはこのポジションを経験しないと分からないのではないかと思います。
シーズンの開幕前に『苦しいときに選手を照らす光になりたい』と話したが、その姿は見せられた?
どうなんですかね。これは自分自身では分からないんですよね。選手やファンの皆さんがどう感じたか、だと思います。私はありのままで素の自分を出して、1年間突っ走ってきた。それがどう映っているのかというのは分からないです。
監督の大変さは想像どおりか、想像以上か?
うーん、想像どおりですかね。選手がよく頑張ってくれたので、もちろん苦しい時もあったがうれしい時のほうが多かったのかなと思います。
苦しい時の気分転換は?
趣味がないので…。強いていえば、みんなでお酒を飲むことかな。でも飲み過ぎてもいけないですし(笑)。シーズン中は遠征先でもスタッフと食事をしながら、ずっと選手やチームのことを話していました。充実していました。
365日野球漬けだった?
そうですね。プレーヤーの時より今の立場のほうがはるかに多いですね、野球のことを考えている時間は。常に寝る直前まで頭の中にありますから。
心がけたのは“挑戦できる雰囲気作り”
選手は、「首脳陣からの『ミスを恐れるな』という後押しが力になった」と言っていた。心がけていたことは?
背中を押してあげるということですよね。
野球はミスがたくさん起こるスポーツなので、ミスをしてもまた挑戦できるような空気、雰囲気を作らないといけないと思っていました。選手が萎縮してトライできないような環境は絶対に作ってはダメだと思っていました。トライしてエラーしてそれを繰り返しながら少しずつうまくなっていくものだと思っていますので。
私自身も選手時代にそういう経験をたくさんしたので、とにかく前へトライしていくぞ、ミスしてもいいからという環境はいちばん大切にしました。
特に機動力は精神面の変化でここまで変わるのかと感じたが、就任前に外からチームを見ていた時と比べて手応えは?
外から見ていて「絶対にもっと走れるはず」と思いながら見ていました。
カープの伝統的な野球は機動力、走者と打者の両方でバッテリーと相手チームにプレッシャーを与えながら戦うのがカープの伝統的なスタイルなので、これは絶対に復活させないといけないと思っていました。
今シーズンの走塁面の評価は?
かなり意識づけはできたと思いますね。ただ、まだまだできると思っています。彼らの力はこんなものじゃないと思っているので、来シーズンが楽しみです。
選手への指導では責めない姿勢を貫いたことへの考えは?
そこは努めて自分で強く意識したわけではないんですよね。自然とそうなったというか、それだけ選手が真剣にプレーしてくれたというのもあると思うんです。
怒ることと叱ることは全くニュアンスが違うと思いますので。怒るというのは自分の気持ちですよね。例えばイライラしてるから物に当たるとか、選手に当たるとか。叱るというのはその選手に対して愛情を持っているからだと思います。怒ることはなかったが、叱るというかそういうのは少しはあったのかなと。
“チームの中心に”小園選手への期待
具体的には?
お前はそんなもんじゃないぞと。これから中心になっていかないといけないんだからもっと視野を広くいろんなことに興味を持ってやっていかないとと言った。
それは小園のことなんですけど。彼はすばらしいものを持ってるんですよね。ですが「もっとできるのに」という思いと、今後のカープを考えるとセンターラインのショートを守っている彼が中心となってチームを引っ張っていくような存在にならないとという思いもありましたので、彼には少しそういう話をしたことがありますね。
新井監督は選手の個人名をあげて評価することが少ないが、それだけ小園選手への期待は大きいのか?
もちろん同じショートを守っている矢野にしても小園に負けるまいと思って頑張っていますし、そこはチーム内で切磋琢磨があってすごくいいと思う。ただその中でも小園の持っているポテンシャルは誰もが認めるところなので。
彼は今までいろんなことを言われてこなかったと思うんですよね。できてきたので。高卒でドラフト1位で競合して入ってくるような選手ですから、小学生の頃からずばぬけた存在だったと思うんですよね。何でもできたと思います。
なのであまり詳しいところ、深いところは指導されてこなかったと思います。それを指導していく、そして広い視野を持つように教育していくのも私の仕事だと思っているので。彼は野球人生でいちばん苦労したシーズンではなかったかと思います。また充実したシーズンでもあったと思うんですよね。
2か月以上もファームにいることは1年目を除けば初めてですし。いろんなことを経験して、特に苦しかったことを経験して、ことしはひと回り大きくなったかな。でもまだまだ彼は日本を代表するような選手になれるものを持っているので、また来年も期待しますよ。
就任前に中継ぎ投手陣の整備をテーマに掲げたが評価は?
ピッチャー陣は本当に頑張ってくれました。特にブルペン陣。チームを助けてくれました。終盤までリードしていれば勝てるというものを作ってくれたのではないかと思いますね。
矢崎にしても、島内にしても、大道にしてもそうですし。またザキ(中崎投手)のポジションもすごく大切だった。彼はけがもあったが、ことしは復活してくれましたし、ブルペン陣はすごく成長してくれたシーズンだったと思います。
坂倉選手がキャッチャーに専念、成長ぶりはどう感じる?
彼もこの1年、キャッチャーに戻ってすごく大変だったと思います。私が考えているよりはるかに速いスピードで成長してくれました。
そこは石原バッテリーコーチと二人三脚でやっていく中で、シーズン序盤はミスもあったんですが試合数をこなしていく中で成長してくれたと感じます。
交流戦鬼門?知ったこっちゃない
開幕4連敗スタートだったが心配はなかった?
オープン戦は最下位で、開幕して4連敗で、ファンの方は「おい」って焦ったと思うんですけど、私自身は全く焦っていなかったです。
彼らの力はこんなもんじゃないと思っていましたし、選手がとにかく勝ちたいという前のめりな気持ちを出してやってくれている姿が伝わっていたので、少し空回りしているのかなと。
これがかみ合ってくれば絶対に上がっていけると思っていたので、正直全く焦ってなかったです。
7月には10連勝もあったが勝ち星を増やした要因は?
要因はその前にあると思います。交流戦ですね。
カープは昔から交流戦が鬼門だと言われていましたが、私はそんなの知ったこっちゃないと思っていましたから。絶対に交流戦でやってやるぞと思っていました。
その中で対戦相手が軒並み(先発投手が)表のローテーションだったんですよね。その中で勝率5割で交流戦を終えたのがひとつのポイントになったのかなと思います。
チームに自信が生まれた?
そうだと思います。戦いながら強くなっていくのを私も感じたし、選手たちも感じていたのではないでしょうか。シーズン序盤は若い選手を積極的に使っていたので、「俺たち力がついてきてるぞ」と感じてくれたのではないでしょうか。
勝負どころの夏場に首位阪神に離されたが、シーズン通したマネジメントの難しさは?
そこは私自身も気をつけていたんですがね…。
連戦の中での東京への移動ゲームですとか、移動ゲームの次の日のナイターからデーゲームに変わる日ですとか。選手の体に負担がかかるので、そういった時はなるべく休みを作りながらやってきたつもりだったが、勝負どころの夏場であれだけ主力にけが人が出てしまったのは、私のマネジメントミスだと思っています。そのあたりはしっかりと反省して、来シーズンにつなげていかないといけないと思っています。
阪神との差を埋めるために“おもしろい対策を”
日本一となった阪神の強さはどこに感じた?
まずはしっかりした野球をしますよね。ピッチャーは先発もブルペンも強いですし、選手の層も厚いですよね。なによりスタメンの野手がほぼ固定されて若い選手が多い。しばらくタイガースが強いときは続くのかなと感じましたね。
ただ私たちもCSファイナルステージでは3連敗で負けましたけど、どの試合も紙一重だったと思います。私たちのチームはこれから強くなっていく、これから成長していくチームですので、その点も来シーズンはすごく楽しみにしています。
チームが強くなるためにどのようにマネジメントしていくのかというのは私の仕事なので考えていきたいです。
阪神との差を埋めるためには何が必要?
細かいこと言えばたくさんあります。苦手な投手を作らないとか、同じバッターに打たれないとか、いろいろあるんですけど、そんなことは投手も野手もみんな分かっているんですよね。
そういった中で(阪神は)来シーズン、おそらく同じピッチャーでローテーションを組んでぶつけてくると思います。私がどのように導けばいいのかというのを今、考え中です。
極端な発想で野手はひと回り目はバットを全部振らなくていいよとか、何か対策がないかなといつも考えているので。阪神の森下くんには全部まっすぐでいけとか、何かおもしろいことがないかと考えています。
西川選手が移籍“若手、出てこいよ”
来シーズンのテーマは?
優勝して日本一になりたいのでそのためにどうしたらいいのかを考えた時に、(西川)龍馬がさみしいですけど違うチームに行くので、そこがひとつ空いているんですよね。そこで競争が生まれるので全体を押し上げてくれると感じています。誰が出てくるんだという楽しみもありますし。
フィジカル的なマネジメントを今シーズンは反省しているので、来シーズンはもっと主力に休みを与えないといけないと思っているので、そこに入ってくる若手に対して「誰が出てくるんだ。お前たち出てこいよ」と思っています。
西川選手の移籍は前向きに捉える部分もある?
そうですね。彼の穴はすぐに埋まるものではないと思います。でも11月の秋のキャンプでは若い選手の目の色が違うんですよね。ギラギラしているというか、「よーし、俺がそこをつかんでやるぞ」という。見ていてもそういうものが伝わってきたので、彼らの競争が起こすチームに対する化学反応を楽しみにしています。
その中で気になった選手は?
選手の個人名を出すのはあまり好きではないんですが…。
ことしいい経験をした選手だと末包、田村ですとか。彼らはいいキャンプを送っていましたし期待しています。またそれ以外の選手で久保もいい動きをしていたし、あと堂林や(上本)崇司といった中堅も「よし、若い選手には負けないぞ」と思ってくれていると思います。今、名前は出なかった選手でも、すべての選手に期待しています。若い選手は短期的に飛躍するので、その辺りも楽しみにしています。
チームの中心 4番と開幕投手は?
来シーズンの4番候補は?
どうですかね。4番、中軸はなるべく固定したいです。中軸をとっかえひっかえするような感じでは安定した戦いが難しいので。そこは新外国人選手になるのか。堂林はことし4番を打ちましたし、末包もいますし。4番を打てるような選手がどんどん出てきてもらいたいと思っているんですけれども。
シーズン中の状態を見て柔軟に決める可能性も?
もちろんありますね。いろいろな選択肢や可能性を考えないといけないので。そこは選手を見てからになりますよね。
新外国人選手もそうですし、今、名前が出た選手はシーズンオフにもしっかり練習していると思うので、「お、ちょっと変わっているな。またよくなっているな」というものを見せてくれるかもしれないですし。そこはそのつど自分が見て感じたことをやっていきたいと思っています。
開幕投手は誰に託したい?
まだ何にも決めていないんですよ。ここ数年はずっと(大瀬良)大地が開幕投手を務めてきましたが、彼は手術しましたし。彼は右ひじの手術が3回目なので、あまり負担はかけられないと思っていますので。誰が開幕投手になるのか分からないですね。
開幕投手を選ぶにあたって重視するのは?
周りが納得するという意味で、ことしの成績がある程度は基準になるのかなと思います。やっぱり開幕投手は投手からすると名誉なことなので、サプライズ的なものはやるべきではないのかなと。これでサプライズをやっちゃったらどうしよう(笑)。周りが認める投手というのが開幕投手になると思います。
新井監督にとってのエースとは?
自分のためではなくチームのために腕を振れる投手がエースだと思います。
黒田さんの存在というのが、いちばんエースだと感じます。
そういう投手が出てきてほしい?
そうですね。その辺りもことしから黒田さんが投手陣にいろいろなアドバイスをくれています。ことしの投手陣の成長は黒田さんの力も大きかったと思います。
ドラフト1位の常廣投手は即戦力として開幕ローテーション入りを期待している?
もちろん彼にはその辺りを期待しています。また現時点でもすばらしい投手だと思うが、彼の場合はまだ伸びしろがあるので数年後にはチームのエースと呼ばれるような存在になれる投手だと思っています。
秋のキャンプでの手応えは?
みんないい意味でガツガツしてくれていたので、来年楽しみだなと思いますね。みんな使ってあげたいです。
野球はポジションが9つですけど、20個ぐらいポジションがないかなと思いますね。1軍の登録も50から60人ぐらい登録させてくれないかなと。それぐらいみんなかわいいですし、使ってあげたいです。
新井カープが目指す野球は
新井カープ2年目はどんな野球を目指す?
そうですね…。ファンの方に喜んでもらいたいというのがいちばん先に来るんですよね。
楽しんでもらいたい、ワクワクしてもらいたいというのが先に来るので、最後の最後まで諦めないスピリットを感じてもらえるような、そんな試合をたくさんしたいです。
諦めない姿勢というのは新井監督の野球人生と重なると思うが?
諦めたら終わりですから。ミスしてもミスしても、負けても負けても、とにかく前だけを見てトライしていくと。
それは野球だけではなしに人生もそうだと思うんですよね。諦めた瞬間、自分で限界を決めた瞬間に、そこで初めて負けると思うので可能なかぎりトライしていきたいです。
ファンへのメッセージは?
今シーズンもたくさん球場に来ていただいて、たくさん応援していただいて、選手の力になりました。選手の背中を押してくれたと思います。私たちはことし以上に皆さんを喜ばせたいと思っていますので、ことし以上にたくさんマツダスタジアムに来て選手に力を与えていただきたいと思います。