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短歌を詠みたくなる!「ひるまえ短歌」 12月は【掃除】がテーマ

来年2月のお題【豆】締切は2/11。記事下部のフォームから、どしどしご投稿ください!
  • 2023年12月20日

平日11時40分から放送中の「ひるまえ直送便」。
新コーナー「ひるまえ短歌」では、第一線でご活躍中の歌人・東直子さんをレギュラーゲストにお招きして、短歌の楽しみ方レベルアップできる技法を教えてもらいます。

 

約40名の参加者の前でトークする東直子さん(写真中央)

広島出身の東さん、放送日前日にも広島市内でトークイベントをされるなど、県内でも活動をされています。イベントでは参加者が事前に詠んだ歌を集め、1首ずつ発表しながら東さんの評をもらう、という時間もありました。

実は私(担当ディレクター)もこのイベントに参加して、短歌を1首、東さんに講評いただきました。
(元々短歌は好きで作ったこともあったのですが、誰かに見せたのは初めてです!)
誰かに短歌を読んでもらうこと、歌の印象や感想を教えてもらうことは、こんなに嬉しいことなのか……!と初めて実感いたしました。

普段はわざわざ口に出せないような想いも歌にそっと忍ばせてみると、東さんが読み取ってくださる。文意を口に出してもらうことで、“あ、私ってそう感じていたんだ、だからこの歌を作ったんだ……”という再発見もあり、そんな歌を会場の皆さんが笑顔で受けとめてくださる……とても素敵な時間でした。
 

「ひるまえ短歌」も、皆さんにとって素敵な時間になればと思います。
ぜひぜひ、いろんな想いをこめて(時には勢いで!)短歌を投稿してみてください!

 

さて、本題に戻ります!
引き続き、短歌を勉強中の出山アナ。
(前回の内容はこちらから→ https://www.nhk.or.jp/hiroshima/lreport/article/006/14/

 

出山アナ

自分でも詠んでみたい!と思うけど、上手く作る自信が……。
そもそも短歌ってどうやって作っていますか?

東さん

私は普段、気付いたことや誰かの言葉をメモして、その中から言葉を整理しています。
別の日のことを組み合わせて同じ歌に入れてみるとか、色々な形で5・7・5・7・7を目指していくんです。

画材店で買ったスケッチブックを外歩き用メモに。表紙の色もお気に入りなんだそう!
シールや言葉が散りばめられた中身も、番組では見せていただきました。

では、実際にはどんなことをメモに取って、短歌に整えるのでしょうか。
今回は「掃除をきっかけに過去をたどった歌」を例に、お話しいただきました。

「かの家の玄関先を掃いている少女でいられるときの短さ」東直子
大人になって家を出た後、帰省した実家で感じたことをメモ。
そのメモを後から見返して作った歌だそう。
「かの家」には、今は暮らしていない家との心理的な遠さを込めている。
東さん

少女の時に「玄関先を掃除しなさい」と言われて、ぶーぶー言いながら掃除していた実家の玄関を、帰省した時は母がきれいに掃除していて。
それを見て、玄関は変わらないけど、私たちの立場は変わっちゃったな。少女だった時は気が付かなかった“かけがえのない時間”を今になって思い出したという歌です。

出山アナ

その体験を、この短い言葉にしていったんですよね……!?
どう言葉をまとめていくんでしょうか。

東さん

そうですね……。いろんな想いやシチュエーションは詰まっていますが、言いたいところは「少女でいられるときの短さ」っていう気づきなので、
・場所が実家である
・それは何年前なのか
そういうことは省いて
・玄関先と少女
・「かの家」で家との距離感を出す
というように、言葉を絞り込んでいって、5・7・5・7・7になっています。

出山アナ

無駄を省くことが大事……!

東さん

やっぱり短歌って説明ではなくて、気持ちをダイレクトに伝えられたらいいなという詩形なので、
・説明しなくてもわかること
・理屈っぽいところ
はなるべく省いて、芯になるところを残していくっていうところですね。

出山アナ

なるほど……。勉強になります!

 

12月の放送では、お題「掃除」でご投稿いただいた440首の中から、入選9首と特選1首を発表!それらをご紹介いたします!

やっぱり掃除って大変だから、「大変だな」「やだな」「全然できてないな」という歌が多かったのですが、その中でも掃除にまつわる具体的なエピソードや感覚が込められているものに個性を感じましたので、そういった観点から選ばせていただきました。


まずは入選作から。

掃除機を操るきみの腕伸びてスターダストに近づいている 
(東京都文京区 椎名ろざな)

東さん

【評】スターダストという言葉がダイナミック。
掃除機で塵、ダストを吸う。それと星屑のスターダストをかけているのかなと思いました。
掃除機をかけている「きみ」の腕がぐーんと伸びて夜空の星屑まで吸い取ろうとしているようだ、という。非常に大胆な飛躍のある歌です。

出山アナ

部屋の掃除機が宇宙にまで……!

東さん

短い短歌だからこそ表現できる飛躍力、というのかな。宇宙まで一瞬で飛べるんだ、ということを教えてくれる歌でもありますね。

消したいのに消せずに残るアカウントアプリの中だけの「友達」
(福山市 池田奈美)

東さん

【評】非常に新鮮。スマートフォンのアプリの中に「友達」として登録されてはいるけど、最近は交流のない人。もう消してもいいのだけど、やっぱり名前を消すことへの後ろめたさがあって消せないのかな、と。

着眼点がいいですよね。【掃除】でまさかスマートフォンの中身のことを描くなんて、非常に現代的な歌でもありますね。

試合前磨くグローブ黒土に汚れて磨いて光るオレンジ
(福山市 光永大輔)

東さん

【評】読んでいてもリズムが気持ちいい、力強い歌ですよね。試合前に自分自身に気合を入れているような、気持ちの高まりが感じられる歌ですし、自分の大事なグローブを磨くというところと、テーマを結びつけたところも切り口がいいですね。

試合や練習で黒土に汚れたものが、また新たに新品のように蘇って、下のオレンジが光るっていうところがいいです。その表情まで見えてくるようです。

出山アナ

そんなに汚れるほど練習もしたんでしょうね。やる気、みなぎる気持ちを感じます。

秋晴れの神有月に玄関の戸を開け放ち拭き掃除する
(島根県江津市 三浦文子)

東さん

【評】「神有月」がポイントですね。普通は10月を「神無月」と言います。それは島根県の出雲に神様が集まっていなくなっちゃうから神無月ですけど、神有月という言葉は、その神様が集まってきている出雲の土地でしか言えない言葉なんですよね。

神様を招き入れるために自分の玄関の外を開け放ってきれいに掃除して、失礼のないようにお迎えしますよという、非常に清々しい気持ちが詠まれていますね。

出山アナ

地域の特性がすごく現れてますね。

東さん

そうですね。冒頭の選考基準で具体的な歌を、と言いましたが、この歌もそうです。神有月という言葉で地域が限定されて、その土地ならではの気持ちというのが、秋晴れの風景とともに共有できて、読んでいるこちらも晴れ晴れとしてくる気がしますね。

獅子様に舞ひていただく畳の間 障子の桟も凜と待ちをり
(広島市 三波スワロ)

出山アナ

広島市の邇保姫(にほひめ)神社の獅子舞について詠んだ歌だそうです。

東さん

【評】お家に上がってきてくれるんでしょうかね。お正月の行事でしょうか。
獅子様に来ていただくにはちゃんと掃除をしなきゃということで、丁寧にほこりを取り除いたからこそ、擬人化された桟(さん)が自信を持って凛と待っている。そしてもちろん、家族のみんなも背筋を正して待っているんだろうなという場面が浮かんでくるようです。

抽斗の奥の奥まで拭き掃除きみの思ひ出すこしゐ残る
(愛媛県松山市 秋本哲)

東さん

【評】「ゐ残る」がポイントですね。「い」よりも重みがあるというか、視覚的にも気持ちの強さが伝わります

擬人化された「きみの思ひ出」が留まっている。多分、その抽斗(ひきだし)を使っていた君はもういない、けれど、君の気配はここに感じるよ、と静かな気持ちで拭き掃除している気分が伝わって、じんとする歌ですね。

スポンジを捨てて終わったひと月にシンクは氷面鏡のしずけさよ
(千葉県千葉市 星野珠青)

東さん

【評】氷面鏡(ひもかがみ)というのは、湖などが凍って鏡のようになった情景。それと磨き上げたシンクの黒光りするような感じとを結びつけていて、非常に親和性があります。日常の中に湖の場面を取り入れることで、日常が神秘的に響く効果があります。

ひと月使ってくたくたになったスポンジと氷面のように光るシンクの対比も効いています。「氷面鏡」と「しずけさ」から早朝のようなイメージもあり、何かひと段落した感じも受けます。よく頑張ったねとスポンジや自分自身に言っているんじゃないでしょうか。

病気して子の援助受け隅々を違う目線で掃除された部屋
(島根県浜田市 米谷昌子)

【評】自分が病気になってうまく動けないので、日常の家事などをお子さんが手伝ってくれたんでしょうね。その時に、自分と違うところに気づいて掃除してくれていることへの気づきを描いた歌ですね。

自分がかつて世話をしてあげた子供に今助けられている、自分を超えて違う所も気づけるという成長を、しみじみと噛み締めたというところでしょうか。

【修正案】
お見舞いに来てくれた子に隅々を違う目線で掃除された部屋
*前半が少し文章、説明っぽい文体で少し硬いので、そこを柔らかくするとスッと入る文章になるのではないでしょうか。

窓拭いて空の光を集めたら 会いに行きたいあの日の君に
(広島市 大澤優子)

東さん

【評】ロマンティックな歌です。窓をきれいにすることで光がたくさん入ることを「空の光を集め」るとしたところが素晴らしいです。

この光に自分が力をもらって、君に会いに行きたいという強い気持ちに繋がった。「あの日」とあることで、過去に戻っていることも伝わりますよね。どんな日だったのか想像したくなる歌ですね。
日常のくすみが取れて気持ちがスッキリしたような感じもあります。みなさん、掃除が楽しくなる歌が多いですね。


そして最後は……特選作!

アオダモの木が伸びてゆくその先の私の部屋の窓を拭き上ぐ
(広島県福山市 渡邉恵帆)

出山アナ

渡邉さん、実は高校2年生です!

東さん

まさか高校生とは思わなかったです。非常にしっかり、5・7・5・7・7の定型に沿っていて、言葉も無駄がなく力強いですね。

【評】情景と気持ちが響き合って清々しい一首です。庭先にアオダモの木があるんでしょうね。それが伸びていく様子が自分の部屋から見える。その成長ぶりの見える窓を拭き上げることによって、アオダモと一緒に成長する私を再認識している、そして気合を入れているような気がしました。

特選作はキーホルダーにしてお送りいたします♪

以上、入選・特選の10首でした。

出山アナ

東さん、今回「掃除」というテーマでしたが、いかがでしたか?

東さん

本当に掃除って面倒くさくて先延ばしにしちゃうんですが、皆さんの歌で、掃除をすることで気持ちが改まるし、また頑張ろうという気持ちになれるんだな、と。掃除をめぐるそれぞれの物語も見えてきて楽しかったです。
そういえば私も、よく掃除機をかけながらフレーズを思いついたりしていました。

皆さん、お掃除される時はメモをしっかり持って、何か思いついたらすかさず書き留めてくださいね!

 

ひるまえ短歌、投稿大募集!

2月のお題は「豆」です。

東さん

節分のことを詠んでもいいですし、全然関係なく、ピーナッツとか他の豆のことでもいいですし。「まめに〜〜する」とか「豆知識」とか比喩的にも、いろいろ変化できるんじゃないでしょうか。考えてみてください。

投稿フォームはこちら → https://forms.nhk.or.jp/q/ZLOFKYVI

 

★「ひるまえ直送便」のこれからの放送内容は、ホームページでご確認ください。
→ https://www.nhk.jp/p/chugoku-hirumae/ts/DKPRN351YZ

★NHKプラスで、1週間の見逃し配信もおこなっています!
→ https://www.nhk.jp/p/chugoku-hirumae/ts/DKPRN351YZ/plus

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