ページの本文へ

ひろしまWEB特集

  1. NHK広島
  2. ひろしまWEB特集
  3. “天空の里”の革職人 広島 神石高原町

“天空の里”の革職人 広島 神石高原町

「自然と人とのつながりの中で生きる」
  • 2023年11月28日
提供:三宅俊雄さん

地区に移住したきっかけは、落ち込んでいた気分を全部吹き飛ばしてくれた満天の星空でした。
広島県神石高原町にある「天空の里」と呼ばれるある農村に移住してきた革職人は、自然と人とのつながりを大切にしながら、一歩を踏み出しました。その新たな挑戦とは。

(広島放送局福山支局相田悠真)

横断歩道もコンビニもない”天空の里”

神石高原町北部の小野地区。標高500メートルにあり、ぶどう畑や田んぼが広がる農村です。

信号機はない、横断歩道もない、自動販売機もコンビニもスーパーもありません。ふもとと接続している道は3本です。地元の人たちからは”天空の里”と呼ばれています。地区の人口は100人程度で、ほとんどの人が顔見知り。まさに全員が家族のような存在です。

移住してきた革職人

”天空の里”に2019年に移住してきた河野弘樹さんは、革職人として活動しています。

エキゾチックレザーと呼ばれるワニやヘビなどからとれた希少な革を使って、財布や帽子などを作っています。ほとんどが受注生産で、そのひとつひとつを時間をかけて手縫いで製作しています。

河野弘樹さん
「手縫いにすると、お客さんのためにひと針ひと針縫ってるなって気持ちも乗ってくるし、総手縫いでつくったものは長持ちするので、長く使ってもらえるようにっていうのを意識して作っています」

“もののけ姫みたいなところ”に

移住前、河野さんは東京でフラワーデザイナーをしていました。

国内外の大会で入賞するなど活躍し、周囲の期待も高まっていました。しかし、菊の花へのアレルギー反応が出てその道を断念することになってしまいました。そしてそのころ、移住の決断をしました。

河野弘樹さん
「気持ちは落ち込んだまま、復活しきっていないときにたまたま小野地区に住んでいた友達が、『花触れなくなったらしいね、大丈夫?大変だと思うけどよかったら、今もののけ姫みたいな場所で暮らしてるから遊びに来てみない?』と言ってくれて、そのとき、キャンプファイヤ-をしたんですけど、星がめちゃくちゃきれいで。それ見たときに全部どうでもよくなったんですよね、すげえな、みたいな」

「父」に教わる地産地消の生き方

河野さんが移住してから魅力を感じたのが、住む人たちの地区でとれたものを地区で消費していく生き方でした。

河野さんが「小野の父」と呼ぶ小林冨男さんは、野生の生き物との向き合い方など地区で暮らす上での手ほどきをしてくれました。

小林さんたちがとったイノシシで作った「しし鍋」を近所の人たちで囲むことも。河野さんはこの地区の生き方になじむようになりました。

河野弘樹さん
「移住してきた時は花もできなくなって一番しんどい時期だったんですけど、毎日ここでとれた野菜をもらったり、お米をもらったりして、生きるのが楽になりました。なんの不安もなく自分がやりたいことに集中することができて、人のあたたかさを感じました」

地元のもので革製品づくりを

こうした中、河野さんは地元のものを生かすようになりました。そのひとつが、小林さんにもらったイノシシの皮です。

里山での生活で切っても切り離せない、動物との関わり。小林さんの猟について行くなどの経験をして、河野さんはこれまで捨てられていたものも使えると考えました。

河野弘樹さん
「どうせ人の都合でとらないといけないんだったら最後まで使えるんじゃないかって思いました。里山でもらった命、自然からもらったものを最後まで使って世の中にかえしていけるんじゃないかと思って使っています」

製作にあたっては糸を補強するワックスの代わりに、地区でとれた希少なニホンミツバチの「蜜ろう」を使います。

地元の人への感謝の気持ちをこめて

こうしてできたひとつがイノシシの革を使ったナイフケースです。

返しきれない恩を感じている小林さんへ、感謝の気持ちをこめて作りました。河野さんは革製品作りを通じて、地区の自然と人のよさを届けたいとしています。

河野弘樹さん
「この地域の人たちが大事にしているものの中に自分も入っていって、この地域で採れたイノシシをとって、お肉をいただいて、その皮まで最後まで使うその原始的な生き方の中で作ったものはものすごく素朴なものかもしれないけど、そういうものの良さをこの小野地区にいるからこそみんなに届けてあげられるんじゃないかと思います」

里山の豊かさを知る

小野地区はいわゆる中山間地域で、人口が減って高齢化が進んでいることは例外ではありません。そんな中、河野さんが革製品づくりを通して、地区の人たちや自然とともに助け合いながら生活していると感じました。

河野さんは今後、高校生などと協力して地元の工場で出るデニムの切れ端などを使った製品を作って、神石高原町のPRもしていきたいと話していました。今回の取材を通して感じた中山間地域の魅力、そして課題についても取材していきたいと思います。

  • 相田 悠真

    広島放送局 記者

    相田 悠真

    2021年入局
    新潟県出身
    福山支局で備後の取材にあたる。“天空の里”に1泊させてもらったことで、里山の豊かさを知りました

ページトップに戻る