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広島で相次ぐ倒木“命の危険も” 再発防止に向けて徹底分析

  • 2023年11月16日

広島市をはじめ全国で街路樹が倒れる事故が相次いでいることを受け、国土交通省は全国の自治体を対象に、過去5年間の倒木数などを調べる初めての実態調査に乗り出しました。この問題について深掘りします。

(NHK広島放送局記者 柳生寛吾)

岡崎アナウンサー

倒木といっても、県内では死者が出たケースもあるんですよね。広島市の平和大通りの倒木も不安に思った人も多かったと思いますが、なぜ倒木が相次いだのでしょうか。

柳生記者

最初の倒木はことし3月、高さおよそ16メートル、樹齢およそ60年のクヌギの木が倒れました。2回目はことし8月、今度は高さ7メートル、樹齢ははっきりとはわかりませんが、平成に入ってから植えられたとみられるトチノキが倒れました。

最初の倒木の原因は、根元の腐食が進んでいたことに加え、水をたくさん吸い上げたことで木が重さに耐えきれなくなったためとみられています。
ところが、2件目の原因は全く異なり、シロアリの食害でした。市は、万全な対策をとる難しさを突きつけられるかたちとなりました。

広島市緑政課 佐々木栄治 花と緑の施策担当課長
「種類や個体によって性質が異なります。それぞれにあった対応をしていく、そのあたりが樹木を管理するうえで難しいところなのではないかと考えています」

広島市は今後どうするのでしょうか。

今回は専門的な知識を持つ樹木医に委託して、再点検を実施しました。今後、点検による予防措置だけでなく、いまある樹木を健全に維持していくために土壌改良を行ったり、来年度からは、新たに樹木医による定期点検を導入することも検討しています。

広島市の対策はよくわかりましたが、この問題、広島市だけの問題ではないのでは。

日本樹木医会は「街路樹や公園施設などの樹木は高度成長期の都市整備や公害対策で一斉に植樹された。50年程度がひとつの目安で、それぞれの自治体の人員や財政規模との兼ね合いも含めて詳細に管理計画を立て直す必要がある」としています。

国も、平成29年に公園の樹木の点検や診断にあたっての基本的な考え方などを定めた指針を出しています。ただ、詳細な点検内容などはそれぞれの自治体の判断に委ねられています。そうした中、倒木事故をきっかけに対策に積極的に取り組んでいる自治体を取材しました。

広島県南部の三原市です。毎年、秋から冬にかけて、欠かさずに樹木の点検を行っています。

三原市では9年前、芸術文化センターの敷地内で、高さ15メートルのポプラが根元から倒れ、1人が死亡、1人が大けがをする事故が起きました。

悲惨な事故を二度と起こさないために、三原市では樹木の管理体制を徹底的に見直しました。

まず、市の職員の「目」を養うために、専門家による講習会を年に一度開催。樹木に少しでも関わる部署の職員は全員必ず受講し、自分たちで木を管理する意識と知識を身につけます。

講習を受けた職員は、マニュアルに従うだけでなく、より専門的な見地から点検を行えるようになりました。異常がみられた場合、樹木医に連絡してさらに詳細に点検することで見逃しを防ぎます。

点検にあたった三原市職員
「担当職員が異動で3年あるいは5年おきに替わることが多いんですけど、新しく担当になった職員でも樹木点検ができるということにおいては、すごく意味のある講習会だと思っています」

さらにことし新たに取り入れたのが、住民の「目」です。
通行の妨げになっていたり、倒れそうな木を見つけた市民が、市に通報できるシステムを新たに導入しました。

スマートフォンで危険な木がある位置や現物の写真を市に送信。通報を受けた市の職員は状況を正確に把握することができ確認が必要な場合は迅速に現場に向かえるようになりました。

本町連合町内会 篠原吾郎会長
「電話しなくても気軽に情報伝達ができる、非常に有効な活用ができるのではないかと思っています」

三原市都市開発課 入田谷昌彦課長
「限られたスタッフの中で、多くの木もどんどん成長して、数もどんどん増えてくる。市民の方と一緒に共同で管理ができるような体制になれば一番理想的だと考えています」

三原市の取り組みは先進的だと思います。ただ正直、全部の自治体がここまで対策をとっているわけではないですよね?

樹木の維持・管理について、県内すべての自治体に取材したが対策はさまざまです。自治体の規模によりますが、造園業者などに管理を委託しているところも多いです。特に都市部では、管理の困難さが指摘されている。こちらをご覧ください。

国土交通省の研究機関が、街路樹のうち高さ3メートル以上の高木のデータをまとめたものです。
高木は広島県でおよそ6万本あるが、そのうち広島市だけで半数の3万本で突出して多い。これは街路樹だけで、統計が取られていない公園や公的施設の樹木も加えると大都市が管理しなくてはいけない樹木はさらに多くなる。
そのため、近年の災害による倒木事故などを理由に、全国では街路樹の伐採が進められている都市もあります。

たとえば大阪市では、ここ数年、数千本単位で街路樹の撤去が進められています。

管理のことを考えると、切って数を減らした方がいいというのも分かるが、都市に住む人間にとっては街路樹や公園の樹木は数少ない身近で貴重な自然ですよね。

岡崎さんの言うとおり、公園や道路の樹木は地域に根ざし、生活の一部となってきた財産でもあります。ただ一方で、自治体としては限られた人員や財政の中で難しい対応を迫られています。地域全体で樹木との共存をどのように図っていくのかが改めて問われていると感じました。

  • 柳生寛吾

    広島放送局 記者

    柳生寛吾

    東京出身。平成24年入局。
    長崎局から政治部に異動し、広島局へ。原爆や市政担当。
    1歳になったばかりの子どもと並木道をよく散歩します。

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