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自分や身近な人が認知症になったらどうしますか?

広島で支援続ける88歳の思い
  • 2023年10月06日

オレンジ色に照らされた広島城。この色は認知症支援のシンボルカラーです。ライトアップが行われた9月21日は「世界アルツハイマーデー」で、認知症への理解を深めてもらおうと行われました。

厚生労働省は2年後の2025年、国内で約700万人が認知症になるという推計を示しています。自分や身近な人が認知症になったらどうしますか?ひと事ではなく自分事として考えてほしいと、40年以上支援活動に取り組んできた女性がいます。

(広島放送局記者 重田八輝)

一生懸命生きてきた4人

「認知症支援にご理解をお願いします」

オレンジ色の上着を着た高齢の女性は、丁寧な口調で道行く人たちに呼びかけていました。

村上敬子さん

認知症の人と家族の会広島県支部の代表、村上敬子さん(88歳)です。「世界アルツハイマーデー」の9月21日、広島市での街頭活動を主催しました。40年以上にわたり支援活動を続けてきた村上さん。認知症となった義理の父と母、おば、それに実の母の4人を長年、介護してきました。

毅然とした人だったという義理の父親は元教員。突然家から姿を消し、東京や大阪など遠くで見つけたこともありました。

実の母親は脳梗塞でまひが残り、歩くことも難しい中での介護でした。最期は娘の村上さんの腕の中で亡くなりました。

4人の介護を経て、村上さんには感じてきたことがありました。

認知症の人と家族の会 広島県支部代表
村上敬子さん
義理の両親もおばも教員でした。そういう方が認知症になった。でも、4人とも人生を一生懸命生きてきました。私たちもそうやって生きてきているじゃないですか。いずれ老いれば誰もが認知症になってしまうかもしれない。その人の人生を大事にしていかなきゃいけないですよ。認知症になったからといって蔑視してほしくないんです。

恩返し 孤立を避けなければ

村上さんの介護にはまわりの人たちの支えがありました。今度は恩返しをしたいと支援する側になって40年以上活動に取り組んできました。

1つは相談です。認知症になった人やその家族が悩みを抱え込んではいけないと、本音を吐き出せるように相談を受け続けました。相談では、話した内容を口外しないことを徹底してきました。中には親にも親戚にも言えないこともあるそうです。今は時代が変わって一定の理解が進んできたものの、以前は、家族が認知症となると「恥ずかしくて外に出せない」と考える人も多くいたといいます。孤立することは避けなければと、親身になって取り組んできました。

そして要望活動にも取り組みました。認知症に対する福祉や手当などの支援が十分ではなかった頃から、国や自治体に対して対応するよう訴え続けてきたのです。かつてに比べれば医療・福祉などは大きく変わり、企業でも介護に対する理解を進んでいったと話します。

基本法 自分事として考える入り口に

認知症をめぐる問題に社会全体で向き合ってほしい。活動を続けていた村上さんたちの思いが今年、1つの形になりました。

6月「認知症基本法」が成立しました。これは認知症の人が希望を持って暮らせるように国や自治体の取り組みを定めたものです。次の項目が基本的施策に掲げられています。

▼国民の理解の増進等
▼生活におけるバリアフリー化の推進
▼社会参加の機会の確保等
▼意思決定の支援および権利利益の保護
▼保健医療および福祉サービスの提供体制の整備等
▼相談体制の整備等
▼研究等の推進等
▼認知症の予防等

政府が施策を推進するための基本計画を策定することを義務づけ、自治体にも計画を策定することを努力義務としています。いずれも認知症の人や家族などから意見を聞いたうえで進めることになっています。

村上さんは、認知症を理解してひと事ではなく自分事として考えてもらう、その入り口に立ったと受け止めています。

村上敬子さん
認知症基本法ができて器はつくっていただきました。これからは私たちが一緒に考えながら、行政や関係団体もみんなで具体的な中身をつくっていかなければ。そして、皆さん若い人には、認知症が特別な病気ではなく、わがこととして受け止めてもらいたい。絵に描いた餅に終わらないようにみんなで努力しようということですね。

研究開発・安心できる社会 両輪で

認知症をめぐっては医療も進歩してきました。

認知症の原因の1つ、アルツハイマー病の新しい治療薬「レカネマブ」です。

この薬は原因物質の「アミロイドβ(ベータ)」に直接働きかけ、症状の進行そのものを抑える効果が期待されています。専門家からは、これまでの治療は対症療法だったことから大きなインパクトがあるとの声があがっています。9月25日、厚生労働省が正式に使用を承認し、早ければ年内にも患者に使われるものとみられます。

ただ、課題も指摘されています。

薬の対象は、認知症発症前の「軽度認知障害」の人やアルツハイマー病の発症後早い段階の人。
そうした人をできるだけ早く発見するため、検査や診断の体制を整備できるか。
薬の価格はすでに承認されているアメリカでは1人あたり平均で年間2万6500ドル、日本円に換算しておよそ385万円と設定。薬自体の価格がどうなるのか。

今後、認知症となる人は増えていくと見込まれています。

「認知症がなくなれば一番いいんですけど、人間である以上避けて通れないんですよね」と話し、これからも支援を続ける考えの村上さん。取材しながら私も自分の将来、家族の将来をずっと考えていました。新たな治療法の研究開発とともに、認知症になっても安心して暮らせる社会の実現の、この両輪で進めていくことが求められていると思います。

  • 重田八輝

    広島放送局 記者

    重田八輝

    2007年入局。福井局・大阪局・科学文化部を経て2021年秋から広島局。石川生まれ千葉育ち。

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