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あなたの大切なモノって何ですか?【山口・徳地】

夫婦で日本酒造りに打ち込む
  • 2023年07月27日

ひるまえ直送便で放送している「あなたの大切なモノって何ですか?」。今回は、山あいに一級河川・佐波川が流れ、初夏には蛍が飛び交う山口市・徳地地区で、人気の日本酒造りに打ち込む夫婦と出会いました。

(NHK広島放送局キャスター 村上史)

歩くだけで気分爽快♪

湯田温泉から車で40分ほどの自然豊かなこの場所に、いま人気の日本酒を作っている酒蔵があると聞いて訪ねました。

歴史ある酒蔵を発見!

夫婦で酒造りに打ち込む

出迎えてくれたのは、3代目蔵元の新谷義直(しんたに・よしなお)さんと文子(ふみこ)さん夫妻。2人だけで酒造りをしているといいます。早速、作業の様子を見せていただくことに。蔵に入るとお酒のいい香りが鼻をくすぐります。

全ての工程を手作業で行う
身体全体を使う作業も

見学させていただいた後は、話題のお酒を飲ませてもらいました。今では山口でもなかなか飲むことができないんだとか。日本酒好きな私、期待が膨らみます!

ふわっとフルーティーな香り、優しい甘さが口に広がる・・
村上

上品な甘さで飲みやすいですね。きりっとした感じもあって日本酒らしい!

文子さん

山田錦の酒米の外側を60%を削って、精米歩合40%になるまで磨いた最高峰の純米大吟醸酒です。目指す甘さは和三盆糖。甘みはあるけれど、さっと溶けてさらりとした後味です。

ここで、文子さんの大切なモノを見せてもらいました。

これは、2代目の杜氏が全国新酒鑑評会で初めて金賞を取った2003年のお酒。この年は義直さんと文子さんが婚約した年でもあるので、文子さんは「福を呼び込むお嫁さん」と喜ばれたそうです。

一時、廃業の危機に

しかし、順風満帆と思ったのもつかの間、長年酒造りを支えた杜氏が高齢のため引退。一緒に2人の蔵人もやめてしまい、蔵の継続が難しい状況に陥りました。そんな中、2007年に義直さんは自ら3代目の杜氏となり、年間を通じて酒造りができる四季醸造の蔵を作りました。しかし、販売は伸び悩みます。さらに、杜氏となって10年目には蔵に大きな傷みが出ていることが発覚します。

痛んで折れてしまった蔵の梁(はり)
義直さん

最初に見たときはちょっと頭が真っ白になりましたね。酒もうまいこと売れなくて悩んでいた時に梁が折れて蔵が潰れそうになるというのは追い込まれました。

酒造りの存続が問われる危機。ここで、妻の文子さんが立ち上がりました。

文子さん

やめた方がいいのか前に進むのか、どうしようって時に、ここにいたのじゃ答えが出ないなと思って。マーケットの中心は東京だと思って東京に行ったんです。そしたら飲む酒飲む酒、むちゃくちゃおいしいんですよ。自分がお嫁にきた頃の時と10年経って業界自体が一変してて「私、浦島太郎になっちゃったのかも」って思って。お酒自体も楽しみ方が時代と共に全く形を変えて移りゆくので、やっぱり時は止まってない。だから造りも蔵も止まってちゃダメだと思いました。

新しいお酒で勝負に出る

夫婦で悩みながら出した決断は、酒造りの全てを見直し、新しいお酒を作り出すことでした。

仕込みや酵母、配合など全てを見直した
文子さん

どういう風に自分たちの酒が見られるかっていうのを一旦ちょっと経験してみて、やっぱり駄目そうだなと思ったらもう諦めようって言って。2人で渾身の力を込めてじゃないですけど、できることの全てを投入して作ったお酒でした。

試行錯誤の末、出来上がったのが「洗練された誰にでも飲みやすいお酒」。そのお酒をベルギーが本部の国際的なワインコンクールに出品したところ、特別純米酒の部門で最高位・プラチナ賞を受賞しました。この結果を受けて、2018年、文子さんは自ら4代目・杜氏となり酒造りをリードすることになります。元看護師の文子さん。うまくいかない時には他の蔵に教えを乞うことも何度もあったそうです。「看護の仕事とお酒造りは意外と似ていますね。どちらも人間と微生物、命を扱うというか」。

全ての過程を記録し、データ化、比較検討を繰り返す

酒米農家を支援

義直さんと文子さんは、酒造りに使う酒米、山田錦を栽培する農家の作業も手伝っています。

文子さん

最初から最後まで育てる過程を見て心が震えるというか。このお米でいい酒にするぞっていう重みが違います。

村上

お酒を作っている方が田植えまで行うというのはどう感じていますか?

農家 
村田さん

びっくりしました。「手伝いに行きますから」って言われまして。いつも母さんと2人でやっているんですけど、結構苗の重みもありますんで、手伝っていただくと本当に助かるんです。

こうした努力が実を結び、一昨年、去年と2年連続で全国新酒鑑評会の金賞を受賞しました。実は、酒米作りを手伝いに来ていたこの日は全国新酒鑑評会の結果発表の日。3年連続の金賞受賞となるのか?義直さんがネットで確認します。

「惜しい・・入賞止まり。」

残念ながら3年連続の金賞とはなりませんでしたが、「気持ちを切り替えてことしの10倍がんばらねば。鑑評会で金賞を取ることが恩返しになる。」と文子さん。2人の気持ちは早くも来年に向かっていました。 

黙々と仕事に打ち込むちょっぴりシャイな義直さんとパワフルで元気印の文子さん。取材中、お二人のやり取りに何度もほのぼのしました。また、蔵の歴史を支えてきた人や日本酒の伝統をつないできた人、いろいろな人たちの思いを受け継いだ酒造りに胸が熱くなりました。
次回の大切旅は8月1日(火)放送予定です。島根県美郷町を松田萌香キャスターが旅しました。ぜひご覧ください!

(NHK広島放送局キャスター 村上史)

  • 村上史

    NHK広島放送局キャスター

    村上史

    熊本県合志市出身。「ひるまえ直送便」を担当して3年目。好きな広島弁は「~しんちゃい!」

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