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相模原障害者施設殺傷事件 第1回 追悼集会に寄せられたメッセージ

2016年08月29日(月)


Webライターの木下です。
7月26日に相模原障害者殺傷事件が起きて、人々の心に大きな動揺が走りました。悲しみ、怒り、恐怖、不安など、さまざまな感情が渦巻く中、8月6日、東京大学駒場第2キャンパスで「津久井やまゆり園」の追悼集会が行われました。犠牲となった19人の方々を悼むとともに、誰かと思いを共有したいと願う人々が約300人集まりました。障害当事者やその家族、医療・福祉関係者だけではなく、ネットで集会があることを知って急きょかけつけた一般の主婦や会社員の方もおられました。

社会の連帯感をもう一度取り戻す


集会は1分間の黙とうから始まりました。司会を担当したのは、東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎さん。小児科医であり、電動車いすを使用する脳性まひの当事者でもあります。

20160823_1_001.JPG熊谷さんが事件後ショックを受けたのは、今回の呼びかけ人のひとりであり、薬物依存症者の自助団体であるダルク女性ハウス代表の上岡陽江さんが「友達止めないでね」と連絡してきたことだと言います。今回の事件に不安を感じる障害者の中には、犠牲になった障害者に自分を重ねる人もいれば、薬物を使用し、措置入院させられていた容疑者に自分を重ねる人もいます。上岡さんは前者の部分だけではなく、後者に自分を重ねる部分もありました。熊谷さんは、「(友達止めるなんて、)そんなことあるわけないでしょう」と答えながら、長年築いてきた人と人との信頼のきずなが、さまざまな形でおびやかされていることを感じたと言います。亡くなれた方の追悼とともに、分断されかけた社会の連帯感を、もう一度取り戻すというのが、熊谷さんが追悼集会をやらなければならないと思ったもうひとつの動機でした。


被害者男性の姉からのメッセージ

 

今回の追悼集会にはできるだけ多くの声を集めたいと事前に呼びかけ、国内外から約450通の追悼メッセージが寄せられました。追悼集会では、それらのメッセージの一部が読み上げられました。

国内のメッセージ紹介で、まず冒頭に読み上げられたのは、今回の事件の被害者の男性のお姉さんからのものでした。

今回被害者の名前をなぜ公表しないのかということが、事件後大きな話題になりました。「名前を公表しないこと自体が差別ではないのか。一人ひとりの名前や人生を知りたい。健常者なら当然発表されるはずなのに、なぜ被害者19人で終わらせてしまうのか」という声が複数の障害者団体などから挙がりました。しかし、神奈川県警は、遺族の強い要請があることを理由に氏名の公表を差し控えました。

冒頭に読み上げられたメッセージには、まさにその遺族の苦しい思いが綴られていました。被害者の名前を公表できない理由は次の通りでした。

「この国には、優生思想的な風潮が根強くありますし、すべての命は存在するだけで価値があるということが当たり前ではないので、とても公表することはできません。……今回の事件の加害者と同じ思想をもつ人間がどれだけ潜んでいるのだろうと考えると怖くなります」


このメッセージを寄せた女性は、「両親からは弟の障害を隠すなと言われて育ってきた」と述べています。決して、家族に障害者がいることに引け目を感じるような家庭で育ってきたわけではないようです。そのような方でも、「氏名の公表を控えてほしい」と願うほど、今回の事件が関係者に与えた恐怖は大きなものでした。そして、その恐怖とは植松容疑者に対するものだけではなく、社会全体に向けられているものでした。

他のメッセージの中にも、19人の命が理不尽に奪われたことを悲しむ文言とともに、「心の底から震えるような怖さを覚えました」「社会的弱者すべてが恐怖している」「不寛容な雰囲気が広がっているのを感じる」という表現が見られました。

実は、社会の底流には、この犯人と同じようなことを考えている人たちが大勢いるのではないか。殺人事件の衝撃だけではなく、植松容疑者が残した言葉によって社会に対する信頼感が大きく損なわれてしまったことがうかがえました。


海外からも連帯の言葉が寄せられた


呼びかけ人のひとりであり、盲ろう者である東京大学教授の福島智さんは、当日は会場に来られませんでしたが、メッセージの中で、「犯罪自体の解明は、捜査機関と司法の手に委ねざるを得ない。しかし、この事件がもたらす社会的影響と意味を、私たちは熟考すべきだ。……事件には、ある種の普遍性や社会の“病理”が背景にあると考えれば、誰の心にも潜む差別心と私たちは真剣に向き合わなければならない」と述べています。

福島さんと同じように、今回の事件を容疑者個人の問題で終わらせずに、社会の問題として考えていこうというスタンスのメッセージは数多くありました。「ヘイトスピーチ」「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」「優生思想」「格差社会」「新自由主義」などから目を背けることなく、正面から社会の問題を見据えていくべきだと訴えています。

そして「優生思想の亡霊には負けない」「誰も孤立しない社会をめざす」「どんな人も“生まれてきてよかった”と思える社会にしたい」と、この事件をきっかけにより良い社会をつくっていこう、19人の死を無駄にはしないと呼びかけるメッセージもありました。

国内のメッセージの後は、海外からのメッセージの一部が読み上げられました。27か国から88通のメールが、ヨーロッパ、アジア、北米、南米、中東、アフリカ、オセアニアなど、世界各地の障害者団体や研究者から寄せられました。

追悼の言葉とともに、「自分たちも日本の障害者の皆さんとともにある、世界をより良きものにしていくために、尊厳が守られる社会の実現のために力を合わせよう」という趣旨の連帯の呼びかけが各々綴られていました。

最後は会場でマイクを回す形で、一部の参加者が意見を述べました。職業も立場もさまざまですが、当事者やその家族であったり、施設職員であったり、知り合いに障害者のいる方など、障害のある人と無縁でない人たちが多くおられました。みんなで悲しみを共有するとともに、社会をより良き方向に変えていこうと、各々の思いを述べ合いました。そして、全員で手をつないで、「また会いましょう!また話しましょう!今日の日を忘れないぞ」と声を揃えて、会は散会しました。

今回の追悼集会に寄せられたメッセージは、「東京大学先端科学技術研究センター 当事者研究分野 熊谷研究室」のホームページに全文掲載されています。


木下 真

 

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