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海外の患者と手をつなぎ、希少難病に立ち向かう 後編

2015年11月05日(木)

WebライターのKです。

大坪雅子さんの長女の七海さんは、幼児の頃から進行性の難病におかされていましたが、13歳になるまで診断が確定せず、治療のめどが立たないままに症状が悪化し、重症心身障害児になってしまいました。七海さんは、今年20歳を迎えることになり、成人のお祝いに振り袖姿で記念撮影を行いました。明確な意思表示はできませんが、いつもよりもしっかりとした表情で、うれしそうだったと母親の雅子さんは語ります。幼い頃の元気だった七海さんを思い浮かべ、心の中ではいつも会話を交わしていると言います。


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成人のお祝いで、ご両親と記念撮影です。


 

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小学校入学前の七海さん。すでに病は進行していましたが、いつもかわいい笑顔でした。


雅子さんは、今年の8月にハートネットTVで放送されたシリーズ戦後70年「障害者と戦争 ~ナチスから迫害された障害者たち~」という番組を見て、大きなショックを受けるとともに、その底流に流れている考え方は、人々の中にいまだに根深く存在するものだと感じたと言います。

「ナチスが障害者をまとめてガス室で殺したと聞けば、なんとひどいことをするのだと現代の日本人はみんな口をそろえると思います。そのようなことは二度と繰り返されてはならないと誰もが思うことでしょう。でも、私は七海を育てていて、“こんな状態で生きていてもしかたがない”“社会の役に立たない人間に、医療費をかけるのは無駄”、そんなまなざしや言葉を、しばしば周囲から投げかけられ、どれほど深く傷ついてきたことか。悔しくて仕方がありません」。

番組では、“役に立たない障害者に使う税金を住宅建設に使えば、もっとドイツ国民を豊かにできる”という、障害者の殺戮を正当化するナチスのプロパガンダ映像が紹介されました。そのようなナチスの考え方に対して、反対を唱える市民は見られず、医療関係者も虐殺に協力したことが明らかになっています。ユダヤ人大虐殺のいわばリハーサルとして20万人以上の障害者が殺されました。雅子さんには、それは遠い昔の出来事には思えなかったと言います。

最近話題になっている障害者施設での虐待問題の報道に接する際にも、同じような感覚を覚えたと言います。虐待の加害者についての情報ばかりで、被害を受けた障害者についての情報が二の次にされていることに違和感をもちました。「これが子どもの虐待であれば、その被害が詳細に語られ、子どもへの同情の気持ちが強く喚起されるはずです。でも、障害者の虐待の場合は、どんな障害者がどんな被害にあって苦しんだのかが、ほとんど語られません。障害者は匿名が原則なのかもしれませんが、本来はちゃんと名前が明かされるべきです。そして、被害者の感情や苦しみについてもっと詳しく報じられるべきではないでしょうか。障害者を一人の人格として尊重する気持ちを忘れてはならないと思います」。

意思表示の難しい重度の障害児・者には人格などないという思い込みは、意識的に払拭していく努力を続けないと、社会からなくしていくのは難しいと、雅子さんは感じています。自身も七海さんが元気な頃には、重度の障害児の世話をする母親を気の毒に思うことはあっても、その親子の気持ちにまでは考えを及ぼすことはできなかったと言います。だからこそ、いま重症心身障害者である娘への思いを社会に伝えていく必要があると考えています。

 

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ご家族が撮影した七海さんとの思い出の写真です。


 

「私は患者として娘を見ているわけではありません。20年間一緒に過ごしてきた“七海”という名前の娘と接しているのです。いろいろな大切な思い出が、ふつうの親子と同じように、私たちの間にはあるのです。“娘はいまどんな気持ちでいるのだろう。辛い思いをしていれば、少しでも楽にしてあげたい。楽しい思いを味合わせてあげたい”。そんな親として当たり前の気持ちを日々抱きながら娘と暮らしています。重症心身障害児・者のいる家族はみんな私と同じ気持ちだと思います」

医療が発達し、さまざまな制度が整い、希少難病の患者たちにとって、好ましい環境が整い始めていますが、その根底に“どの命も等しく尊い”という気持ちがなければ、患者やその家族を本当に救うことはできないのではないか、雅子さんはそのことを強く訴えていました。




【前編のブログはこちら】 海外の患者と手をつなぎ、希少難病に立ち向かう 前編

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 日本の「難病対策」どうなっている?~前編・医療費助成~
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 2014年  2月10日 シリーズ 難病と向き合う 第1回 どう支える 難病医療
 2014年  2月11日 シリーズ 難病と向き合う 第2回 難病でも 働きたい
 2014年11月27日 WEB連動企画“チエノバ” ―今日は「難病」を中心に―

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 シリーズ戦後70年 特設ページ
 2015年  8月25日 ナチスから迫害された障害者たち (1)20万人の大虐殺はなぜ起きたのか
 2015年  8月26日 ナチスから迫害された障害者たち (2)ある視覚障害者の抵抗
 2015年  9月15日 ナチスから迫害された障害者たち (3)命の選別を繰り返さないために
 
 『ETV特集』 それはホロコーストの"リハーサル"だった~障害者虐殺70年目の真実~
  放 送:2015年 11月 7日 (土)よる11時放送
  再放送:2015年11月14日 (土)よる  0時放送(金曜深夜)

 

コメント

真実の映像と心からの叫びの言葉だと共感させて頂きました。ありがとうございます。命には、差別がない事をいつも念頭に置きたいです。

投稿:匿名 2015年11月11日(水曜日) 06時53分