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どうなっている?難病対策~後編・福祉政策~

2014年02月21日(金)

シリーズ 難病と向き合う
第1回 どう支える 難病医療
第2回 難病でも 働きたい
で放送した、難病医療の現状。

どうなっている?難病対策~前編・医療費助成~に続き福祉政策部分についても、難病当事者で、作家の大野更紗さんに伺いました。


Q.さて、難病対策についてここまで「医療」の面で見てきましたが、大野さんを拝見していて、医療費に加え、難病を患いながら「生活」を送ることの大変さを感じます。
生活を支える「障害(福祉)政策」で患者さんはどう位置づけられてきたのでしょうか。


A.日本では「医療政策」と「福祉(障害)政策」が、それぞれの文脈で個別に難病に対して施策を講じてきました。
それは、難病患者さんを中心に考えられたものというより、それぞれの政策の都合から、バラバラにアプローチするものであったといえるでしょう。

ちょっと細かくなりますがここからは、「障害政策における難病患者の位置づけの変遷」をみていきましょう。


1970年に制定された「心身障害者対策基本法」では、
障害者の定義について第二条で、
「肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、平衡機能障害、  音声機能障害若しくは言語機能障害、心臓機能障害、  呼吸器機能障害等の固定的臓器機能障害  または精神薄弱等の精神的疾患(以下「心身障害」と総称する。)  があるため、長期にわたり日常生活または社会生活に  相当な制限を受ける者」としていて、
難病を起因とする生活上の困難は、障害の範囲には入っていませんでした。


1993年、「障害者基本法(旧心身障害者対策基本法)」の改正によって、
第二条の障害者の定義は
「身体障害、精神薄弱又は精神障害(以下「障害」と総称する。)があるため、  長期にわたり日常生活または社会生活に相当な制限を受ける者」に改められました。

また、その附帯決議で
「てんかん及び自閉症その他の発達障害を有する者 並びに難病に起因する身体又は精神上の障害を有する者であって、 継続的に生活上の支障があるもの」は、同法が規定する障害者の範囲に含まれることとされました。
ここではじめて、難病を持つ人が、障害施策の範疇に含まれることになったのです。


▼さらに、2011年の「改正障害者基本法」では、第二条の障害者の定義が見直され、
「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)  その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、 障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に 相当な制限を受ける状態にあるもの」として、障害の範囲が「その他の心身の機能の障害」へと大幅に広がりました。

身体・知的・精神の三障害の手帳を持っている人だけでなく、難病に起因する障害も「その他の心身の機能の障害」として幅広くとらえられることになったわけです。


▼続いて2013年4月から施行された「障害者総合支援法」では、
制度の谷間のない支援を提供する観点から、障害者の定義に「難病等」が含まれることになりました。

「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって、政令で定めるものによる障害の程度が 厚生労働大臣が定める程度である者」は、
身体障害者手帳を持っているかいないかに関わらず、必要に応じて、市区町村にといて障害福祉サービス等を利用できることになりました。


「これで自分も福祉サービスが利用できる」と難病当事者の期待は高まりました。
しかし、実際には制度の谷間は埋まりませんでした。
なぜなら同年から「当面の措置」として、この「難病等」に該当されるとするのは、政令で定められた130疾患のみである、と限定したのです。

つまり、これまでのリストにわずかに、「国が指定する130疾患」のみを新たに加えてサービスの対象としたに過ぎませんでした。

*参考
大野更紗[2013], 「「難病」と社会政策:当事者のまなざしから」
浅見昇吾編『生きる意味と死ぬ意味:難病の現場から見る終末医療と命のあり方』ぎょうせい, 第2章。



Q.大野さんも含め患者さんの立場からすると、どう感じますか。

生活実態に合わせるのではなく、「病名」で線引きしていては、いつまでたっても制度の谷間に落ちる人が出ます。
これまで難病の当事者の人たちは、「制度の都合」にずっと翻弄されてきました。
本来、病気や障害を抱えながら「生きる・暮らすことの困難さ」を支援することが社会保障や福祉の役割なのではないでしょうか。
病名の違いで分け隔てられることなく、ニーズがある人が必要な人的支援にアクセスできるようにすることが必要だと考えます。
例)タニマーによる、制度の谷間をなくす会 ※外部リンク・NHKを離れます。
 

話が少しそれますが、
たとえサービスを受けられる対象になったとしても、事業の実施主体は都道府県や市区町村なので、地域間格差に患者の生活状況は大きく左右されています。

難病患者の在宅生活を支えるための事業などが実際には実施されていない地域では、本来であれば社会サービスを利用して在宅生活に移行することが可能であるにもかかわらず、社会資源の乏しさによって、不適切な入退院、転院や長期入院をくりかえさざるを得ないケースも少なくないのです。

難病の人が直面している困難をたどると、「いま」の日本の社会保障、医療、福祉、つまり社会の制度の矛盾が凝縮されていると、わたし自身もいつも感じています。
縦割りの対策や、当事者不在の政策形成過程、多くの問題が見えてきます。

「なんとなく、『社会保障費を抑制することは兎に角いいことだ』」という漠然とした印象に依存し、詳細な政策の検討が丁寧になされないままに、「誰かの命をむやみに削る」ような荒っぽい議論を急激に進めていく雰囲気には、危機感を感じます。


今後も、日本社会の社会保障の先行きを考えながら、「難病」について情報発信を続けていきたいと思っています。

 



◆放送
本放送:夜8時00分~8時29分
再放送:午後1時5分~1時34分
WEB連動企画“チエノバ” ―今日は「難病」を中心に― 2014年11月27日(木)

シリーズ 難病と向き合う(過去放送)
第1回 どう支える 難病医療 2014年2月10日
第2回 難病でも 働きたい  2014年2月11日

コメント

睡眠障害で何度も書いてすみません。
このナルコレプシーと、特発性過眠症の患者とでTwitterで情報交換をする中で、明日の東京のとあるカフェで第一回目のオフ会をしようと若い人達で頑張っています。私は近くでないので参加できないけれど、Twitterで呼びかけ患者を集い交流をしようとしている、手探りでも生きるために発信をして頑張っています。共感してここに書いてみました。
ナルコレプシーはテレビに前に取り上げた重度の患者以外にも、軽度もいて私のように結婚だって出来るんです。そんな主婦の体験談や、これから社会を生きる若い人達の悩み就職難や体験談と生活を発信ができたらいいのにと願うばかりです。

投稿:青空 2015年11月20日(金曜日) 11時43分

睡眠障害と聞くと難病には当てはまるのか??私は睡眠障害ナルコレプシーにかかり今は主婦として生活をしています。睡眠障害は他にも似てる病名があり、いずれも急に作業中眠る難病です。それは本人も起きれずに苦しいながら薬を飲んで症状を隠そうとして隠せない中で生活をしています。自立支援手帳が出来て薬代や診療費の軽減はあるものの、現在でも世にはあまり知らないので、知らないまま生活をする隠れ難病者もいるそうです。
この病は思春期になって発症する人が多く家族にも理解されず苦しみ、学業や仕事に支障をきたし相談する所も無いのです。就職難であることも変わっていません。もっと世に知ってほしい!!私や同じ病の者はTwitterで発信をして呼びかけてはいるものの、変わらないこの現状をなんとかしたいです。

投稿:青空 2015年11月20日(金曜日) 11時29分

これからの難病対策は、如何に一般の人に難病を理解してもらうことだと思う。
何せ、85人に一人が難病指定されていて、まだ隠れ難病が多数存在する事実。
難病は誰でも突然なる可能性があり、予防策がない事。
この様な事を全国民にアナウンスし、国民全体で難病を考える雰囲気を作らなければね。

投稿:考えよう 2015年09月28日(月曜日) 08時28分