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2024年1月24日(水)

疑惑の政治資金 〜問題の深層と改革の行方〜

疑惑の政治資金 〜問題の深層と改革の行方〜

自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件は、3つの派閥が解散する事態に発展。長年、政治に大きな影響を及ぼしてきた派閥のあり方が焦点になっています。揺れる議員を単独取材し、今後への影響を展望します。そして政治不信を払拭するために、どのように政治資金の透明化を図るのか。元秘書などの独自証言から問題の深層に迫り、これまで積み残されてきた「政治とカネ」の問題をどう改革していくのか、検証しました。

出演者

  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

自民党派閥と“裏金事件”実態は?改革の行方は?

桑子 真帆キャスター:
一連の事件で東京地検特捜部は安倍派、二階派、岸田派の3つの派閥の会計責任者や議員ら10人を立件。これを受けて3つの派閥は解散することになりました。一方、派閥の幹部らは立件されず、政治資金規正法の課題も指摘されています。

26日に召集される通常国会では、この政治とカネを巡る問題が大きな論点となります。実効性のある再発防止策を打ち出せるのか。そして、巨額の裏金づくりは何の目的でどのように行われたのか取材しました。

再発防止のために何が必要なのか

再発防止策などを議論している自民党の政治刷新本部。
中間とりまとめが決定されました。政治資金の透明性を高めるための外部監査の義務づけや議員の処分の厳格化など。また、派閥については、カネと人事から完全に決別することなどが盛り込まれています。

自民党 津島淳衆議院議員
「(派閥は)純粋な政策集団として生まれ変わるべきだ。そこにお金や人事が絡まないような形。そうあるべきではないか」
自民党 高村正大衆議院議員
「派閥にはある程度、必要な機能がある。問題は政治資金規正法にのっとった記載をしなかったという事実」

政治とカネの問題を繰り返さないために何が必要なのか。

自民党 安倍派 座長 塩谷元文部科学相
「清和研(安倍派)を解消する」

事件を受けて派閥の解散を決めた、安倍派の越智隆雄衆議院議員。自身にも収支報告書に記載すべきキックバックがあったのか、派閥側と確認を進めているといいます。

自民党 安倍派 越智隆雄衆議院議員
「必要に応じて派閥と相談しながら、適正に処理してきたと思っています。派閥の誤った説明によって、私の事務所が収支報告書を訂正しなければならないことになったら、国民の皆さまには申し訳なかった」

越智氏は、組織的な裏金づくりが明らかになった以上、派閥の解散はやむをえないと考えています。

越智隆雄衆議院議員
「国民からの不信を招いて、結果として幕を閉じざるをえない。派として、けじめをつけなきゃいけない」
越智隆雄衆議院議員
「こちらが福田。これが学生時代の私」

安倍派=清和政策研究会の創設者、福田赳夫元総理大臣。越智氏の祖父です。今回の事件は、「清和」という派閥の名前に込められた理念を踏みにじってしまったと感じています。

越智隆雄衆議院議員
「清和会の『清和』は“政治が清らかにして人は和す”。金権支配のような政治じゃなくて清らかな政治を行えば、人は皆集ってきて平和に暮らせるんだ。そういう思いでつくった名前です。まさに当時の清和会創設の精神から反対のことをやってしまった」

越智氏は、今後、派閥が果たしてきた役割を党が担うなど、改革を進めていくべきだと考えています。

越智隆雄衆議院議員
「派閥の集合体としての自民党というのはもう無理なので、いわゆる党内統治、自民党のガバナンス、人事、あるいは資金を含め、そういったものをつくらなければならない局面だと思っています」

一方、派閥の解散は必ずしも問題の解決につながらないと考える議員もいます。
派閥が存続する方向となった麻生派の井上信治衆議院議員です。

自民党 麻生派 井上信治衆議院議員
「今回の問題に関しては、もともとは政治資金規正法の問題だから、それが直接的に派閥の是非につながるかというと、そこは少し違和感があったのは正直なところ」

井上氏は派閥による資金集めは見直しが必要だとしつつも、政策立案や人材育成などの役割は重要だといいます。

井上信治衆議院議員
「政治資金の流れをしっかり透明化する、あるいは厳罰化する、そういったことが最も大切なことだと思います。派閥の解消の是非みたいなところに論点がずれている。同じ政治信条、同じ政策の人たちが集まって政策実現を図るというのは、むしろ必要なことだと思っていますので、そこは堂々と主張したいと思います。」

自民党内の議論について野党は。

立憲民主党 泉代表
「自民党の議員たちが懐に入れたままの裏金。使途も含めて明らかになっていない。すべての裏金議員には議員の職を辞めてもらう」

裏金づくりの深層は

組織的な裏金づくりはなぜ行われていたのか。
多額のキックバックを受けていた安倍派の議員が相次いで会見しました。

谷川弥一元衆議院議員
「私は力をつけたかった。大臣並みの金を集めてやろうと思いました」

一方、立件されなかった派閥の幹部は。

萩生田前政調会長
「ノルマや還付金、支出等を含め、把握をしておりませんでした」
自民党 世耕前参院幹事長
「政治資金の管理については秘書に任せきりの状況となりました」

2022年までの5年間で6億7,500万円余りのパーティー収入を裏金化していたとされる安倍派。安倍派のパーティー券を売っていた現職国会議員の秘書です。

「これは派閥の方から各国会議員に」

所属議員には、当選回数や役職に応じて販売ノルマが課せられていたと証言します。

安倍派のパーティー券を売っていた現職国会議員秘書
「派閥の事務局の担当者からナンバリングで、何番から何番までの何十枚が先生の割り当てですので、これを何セットまとめていますから持って行ってください。今までのつきあいの中で1枚でも2枚でも買ってくれそうな人がいたら、各自お願いに回るような形です」

派閥のパーティーは支持者にとっても魅力があったといいます。

パーティー券を購入してきた民間事業所の関係者
「(パーティーで)要望したことが総理の耳にも届くのではないかと思って期待していた」

パーティー券は1枚2万円。販売ノルマを超えて集めた分の収入は、議員側にキックバックされる仕組みでした。こうした資金は、派閥や議員側の収支報告書に記載されず、国民から見えない形になっていました。安倍派では、裏金化する運用が20年ほど前から続いていたとされています。

自民党内で議員活動などの支援に携わってきた関係者が取材に応じました。領収書の要らない裏金は、政治家にとって便利な存在だといいます。

自民党内で議員活動などの支援に携わってきた関係者
「政治には必ずお金がかかる。裏金は人件費に使おうと、飲み食いするというふうに使おうと、選挙で使おうと自由なお金ですので、今も昔もこの文化というものは変わっていないと思います」

さらに、地盤や資金力のない若手議員には、派閥のパーティー券を積極的に売り込む理由があるという指摘も。


安倍派議員の秘書
ノルマを超えた分が100%キックバックされるくらいなら、売り上げが読めない個人のパーティーを無理して開くより、派閥のパーティー券を売る方が確実に資金を得ることができる。自分の名前では買ってもらえない議員が、安倍さんや大物議員に会えることをネタに売り込んでいた。

最大派閥として勢力を維持してきた安倍派。議員側にノルマを課すことで安定した収入を確保してきました。こうした運用は派閥と議員側それぞれにメリットがあったといいます。

自民党内で議員活動などの支援に携わってきた関係者
「パーティー券をたくさん売る。国会議員は派閥のために汗をかく。これだけ派閥に汗を流したという形になれば、大臣、副大臣、政務官という形、また党ではいろいろな肩書き、重たい肩書きがもらえる。派閥にとっても個人にとってもウィンウィンの関係ではないかと」

なぜ派閥は、政治資金パーティーで巨額の資金を集めるようになったのか。
そのきっかけになったのが、36年前に発覚し、政財界を揺るがせたリクルート事件。事件を受けて政治資金規正法が改正されました。

三原朝彦元衆議院議員です。この時の政治改革が不十分だったことが、今回の問題につながっていると考えています。三原氏は当時、改革を提言した若手グループの1人でした。

三原朝彦元衆議院議員
「政治改革と言ったときに、自民党というのは問題点が積み重なってきて、それをどんと壊すということだから、熱烈な気持ちがあったんじゃないか」

この時の政治改革の柱の一つが企業・団体献金の規制。派閥は企業献金を受けることが禁止されました。

しかし、いわば抜け穴として残ったのが政治資金パーティーでした。パーティー券を購入してもらう形なら、引き続き企業側からの資金を受けることができたのです。
パーティーは主要5派閥すべてで最大の収入源となっています。

さらに透明性の低さも指摘されています。
献金は5万円を超えれば氏名などが公表されますが、パーティーは1回の購入額が20万円を超えなければ公表されません。

5派閥のパーティー収入の8割以上は購入者が分からない形となっています。これが裏金化を容易にさせていると指摘されているのです。

三原氏は、政治資金パーティーについても議論を深めるべきだったと考えています。

三原朝彦元衆議院議員
「人間は喉元過ぎたら、また安易な方に流れていく性格というか。パーティーの弊害の議論なんかした記憶はない。何かの形で集めないと。寄付金、政治献金だよね。パーティーという名前の。僕らの力が足りなかったということ」

繰り返される政治とカネの問題。どうすれば抜本的な対策を打ち出せるのか。

「(政治家は)何やっているんだと。ちゃんとやるべきことをやってもらわないと困ります」

自民党、無派閥の西野太亮衆議院議員。改革案を検討する党の政治刷新本部のメンバーです。

自民党 無派閥 西野太亮衆議院議員
「皆さん方、心の中に根深いものがある。それをやっぱり感じています」

派閥のあり方だけでなく、政治とカネの問題への実効性のある対策を示さなければならない。西野氏は同じ問題意識を持つ若手議員と議論を重ねています。

西野太亮衆議院議員
「(第三者機関が)各事務所に何年かに1回、定期的にランダムに(査察に)入る。通帳と収支報告書を突き合わせながら、矛盾がある場合には調査していく」
自民党 土田慎衆議院議員
「それはひとつの手ですよね。派閥のパーティーそのものをなくせば済むという話でもない」
西野太亮衆議院議員
「政治資金の問題、これには決着をつけなくちゃいけない。(永田町に)2年間しかいませんけれども、問題意識だと思っていることをしっかり訴えて納得してもらって、それを制度に落とし込んでいく」

問題の本質はどこに?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
ここからは社会部、橋本記者と政治部、古垣記者とお伝えしていきます。

まず橋本さん、かつての政治改革が不十分だったという指摘がありましたけれども、今回の事件では、派閥の幹部やキックバックを受けていたほとんどの議員が立件されませんでした。この結果には納得できないという声もあがっているわけですけれども、どこに課題があると考えたらいいのでしょうか。

橋本 佳名美記者(社会部)
国民が納得できないからといって、検察が恣意的に立件することは許されません。ただ、キックバックを受けていた議員などの記者会見では、政治資金の管理は秘書に任せていた、収支報告書の記載内容は知らなかったなどという発言が相次ぎました。ここに政治資金規正法が抱える構造的な問題があります。

政治資金規正法は政治活動に使われた資金の収支を国民がチェックできるよう、収支報告書に書いて公表することを軸に制度が作られています。このため、記載や作成の義務を会計責任者を務めている秘書などに負わせていて、政治家本人は刑事責任が問われにくい仕組みになっています。

桑子:
つまり罰則の対象は報告書の作成者などになっているということなんですね。

橋本:
そうなんです。政治家の活動のために集めた資金の問題なのに、結果的に秘書に任せきりにしている政治家ほど罪に問われないという状況になっているんです。

桑子:
この法律にも課題があるということですね。

橋本:
政治資金規正法は議員立法で作られていまして、以前から抜け穴が多いザル法だと指摘されてきました。VTRにもありましたが、派閥は企業や団体から献金を受けられないのに、パーティー券の購入という形を取れば企業からの資金を受け取ることができますし、購入者の資金を公表する基準も献金より緩くなっています。このため、匿名率8割以上という、いわばブラックボックスとなっていまして、口座などを通さずに現金でやり取りをすれば、記載内容が正しいかどうかの確認をするのが難しい現状です。

桑子:
中身が見えにくくなっているということですね。

橋本:
そして、今の収支報告書の公表の仕方は紙をPDF化していまして、データ分析もしづらいという課題もあります。また、政治資金パーティー以外にも抜け穴があるとされています。政党から議員に支給される「政策活動費」という資金があるのですが、これは議員側に使い道を公表する義務がありません。このため不透明な政治資金の流れの温床になっていると指摘されています。

政策活動費
・政党から議員に支給
・議員に収支の公表義務がない

桑子:
こうした課題を自民党は、25日にも中間取りまとめを行う予定ですけれども、ポイントは何なのか、古垣さんお願いします。

古垣 弘人記者(政治部)
まずは焦点となった派閥のあり方です。こちらは「カネと人事からは完全に決別する」と明記されました。ただ、派閥の存続自体は認められる格好です。そして再発防止策ですが、まず1点目は派閥の政治資金パーティーの禁止。それから外部監査を義務づけする。また会計責任者が逮捕・起訴された場合には、議員本人も処分することができるようにすることも盛り込まれました。一番下の政治資金の「公開性の向上」ということですが、一部VTRにもありましたけれども、パーティー券を購入した人の名前、こちら収支報告書に記載する金額は20万円を超えるものとされているんです。これを引き下げることを想定しているということです。ただ、一連の項目がありますけれども、具体的な金額とか処分の内容などは示されていないんです。このため野党側からは、中途半端だとか議論が生ぬるいという批判が出ています。

桑子:
どこまで具体的になっていくのかというのも注目ですけれども、26日に召集される通常国会では、この政治とカネを巡る問題が大きな論点となります。他の党からはどんな改革案が出ていて、今後の与野党協議というのはどうなっていくんでしょうか。

古垣:
各党の検討状況もまとめてみました。まずいわゆる「連座制」ですけれども、これは収支報告書の虚偽記載などがあった場合に、会計責任者だけではなくて議員本人の責任も問うというものですけれども、立憲民主党など3党が主張しています。また、企業・団体献金の禁止ですが、これは日本維新の会や共産党などが掲げています。この他、例えば公明党は、政治資金を監督する第三者機関の設置を検討すること。また国民民主党は、起訴された議員が所属する党の政党交付金を減額する案を示しています。このように見てみますと、複数の政党が一致している部分も見受けられると思うんですけれども、すんなりと合意形成が進むかどうかは不透明といえます。
例えば「連座制」ですけれども、秘書が議員を意図的に巻き込もうとして不正をした場合、議員の責任を問うというのは無理があるという指摘があります。また例えば、具体的な適用条件や処罰のあり方で温度差が生じる可能性があります。そもそも政党によってお金を集める手法というのは異なります。なので、それぞれの思惑がぶつかり合う形になれば、協議が難航することも予想されます。

桑子:
これから改革をどう進めていけばよいのか。政治資金の問題に詳しい岩井奉信さんは、収支報告書を誰もが分析しやすい形で公表。そして第三者機関を設置して監督をすべきだと。こういったものは欧米で導入が進んでいると。日本も検討するべきだと指摘しています。

日本大学 岩井奉信名誉教授
◆収支報告書を誰もが分析しやすい形で公表
 監査する第三者機関を設置し監督
◆これらは欧米で導入進む

桑子:
この政治的な説明責任についても改革と合わせて、これから自民党は果たしていかなければならないわけですけれども、事件の捜査そのものというのは、もう終わったということなんでしょうか。

橋本:
いえ、事件はまだ終わりとは言えません。派閥の幹部や議員らを刑事告発した大学教授は、検察が不起訴にすれば検察審査会に審査を申し立てる方針を示しています。

今回、検察は虚偽記載の金額について3,000万円のラインを基準にして刑事処分を判断したと見られていますが、関係者によりますと、1,000万円を超えるケースは派閥の幹部や閣僚経験者など20人余りに上っているということです。今後、検察が不起訴にしたものについては、検察審査会が検察の処分が妥当だったのか改めて判断することになります。そして、審査会の議決によっては、検察が再び捜査をすることになる見通しです。

桑子:
そして、この政治の改革が本当に実現できるのかというところですね、古垣さん。

古垣:
実現できなければ国民から見放されてしまうと、それぐらいの危機感を持つべきであると思います。日本の政治は今、岐路に立たされていると言ってもいいと思います。VTRにもありましたが、かつてリクルート事件などを受けて行われた政治改革の議論では、選挙制度の見直しに議論が傾注して、資金の透明性を確保するための話し合いは、その陰に隠れてしまったという指摘も聞かれます。今回も派閥のあり方に注目が集まっていますが、それだけにとどまらず、本質的な解決に向けた議論が求められています。
また今回の事件の背景や裏金の使い道など、明らかにされていない部分も多いのが実情です。関係議員には、国会などで説明責任を果たすことも求められます。そもそもなぜ政治に多額の資金が必要になるのか。もっと金のかからない政治を目指すことも必要だという意見も少なくありません。
この政治とカネの問題を巡って、この5年間で自民党をはじめ10人以上の国会議員が立件されるという事態となっています。信頼回復がまさに急務と言えると思います。内外の課題は山積しています。政治が本来の役割を果たすためにも、実効性のある改革が求められます。

桑子:
今回の自民党の取りまとめの案では、冒頭に、「関係者による明確な説明責任」と明記されています。政治が国民からますます見放されてしまうのではないかという危機感を持って、しっかりと説明責任をまず果たしてほしいと思います。それと合わせて、今度こそ、本当の意味での改革も必要ではないでしょうか。

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