クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2023年1月11日(水)

東京大改造 ~大規模開発の舞台裏~

東京大改造 ~大規模開発の舞台裏~

東京は今、200以上の高層ビルが建設される大改造のまっただ中にあります。渋谷では100年に1度の大規模再開発が進行中。東京駅周辺ではロボットが行き交う未来型ビルが完成します。虎ノ門でも外資企業を呼び込もうと国際競争力を兼ね備えた街作りが行われています。しかし高層ビルの建設ラッシュには、オフィスの空室率上昇やさらなる温暖化のリスクもあります。東京は今後、どのような都市になっていくのか。東京大改造の舞台裏に迫りました。

出演者

  • 増田 幸宏さん (芝浦工業大学 システム理工学部教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

東京大改造2023 大規模開発の舞台裏

桑子 真帆キャスター:
2023年は、関東大震災から100年。その節目の年に東京は大きく変わろうとしています。東京駅周辺もその一つ。ここ数年、高いビルがどんどん建っています。

今回のテーマは、東京大改造。今、開発が進んでいるのはこちらの5つのエリアです。東京駅周辺の日本橋・八重洲エリアや、東京オリンピック跡地の湾岸エリアなどで今、未来に向けた街づくりが進んでいます。

生まれ変わるシブヤ

今から70年前。ケーブルカーの下に広がるのは、今史上空前の開発が進む東京のある地域。一体どこでしょう。

答えは、渋谷。

空襲で8割が消失した渋谷。当時、高い建物はほとんどありませんでした。その後、渋谷は「若者の街」に。1973年にはパルコ、1979年にはSHIBUYA109が開業するなど、ファッションビルが次々と建てられました。

そんな渋谷が今、若者の街から次の段階へと進もうとしています。その規模はバブル期もしのぐもの。

東急グループが中心となって手がける「100年に1度の再開発」。2023年11月にも、地上39階建ての巨大オフィスビルがオープン。他社とも連携し、今後も開発を続ける予定です。

さらに、地下深くには巨大な貯留槽を建設。くぼ地にある渋谷を水害から守るため、官民一体となって街づくりを進めています。

再開発がきっかけとなり、3年前、グーグルが日本本社を渋谷に移転。動画配信やモバイルゲームの大手も、次々と渋谷に本拠地を構えています。

今、渋谷は「若者の街」から、「世界のコンテンツ産業の中心地」に生まれ変わろうとしています。22兆円市場となったゲーム産業など、成長著しいデジタルコンテンツの企業を呼び込み、街を活性化させようとしているのです。

東急不動産 渋谷開発本部 長幡 篤史さん
「もともとですね、渋谷には規模が小さいベンチャーやクリエイティブコンテンツ産業の集積がございました。今回このような大規模なオフィスが充実してきたことによって、成長された企業が他地区から戻ってくる現象がみられています。クリエイティブコンテンツ産業の企業が互いに連携しあって、相乗効果によって大きなビジネスがうまれることを期待しています」

未来に暮らしが現実に!?

日本最大のオフィス街、東京駅周辺では今、世界最先端のオフィスビルが次々と生まれようとしています。

明治維新後、ロンドンの街並みを参考に近代的なオフィス街として整備されたこのエリア。今、日本で最も高い390メートルの超高層ビルや日本橋の首都高を地下化する計画が進んでいます。

ひと足早く2023年3月に開業するのが、まるでSFの世界のような働き方を提案するこちらのビル。

三井不動産 ビルディング本部 園田泰三さん
「ここのカメラで顔認証して(ゲートを)通過します。顔認証とエレベーターが連動しまして、何も押さずに29階(自分のオフィス)まで上がれるかたちになっています」

ゲートで顔認証すると、エレベーターは自動的に目的の階へ。つまり「完全非接触」。ほかの階に行きたい時も、行き先はホログラムのボタンです。ビル全体が感染対策が施された設計となっています。

さらに、ビルの中を行き交うのは「デリバリーロボット」。出前された食事をエレベーターも操作し、オフィスまで運んでくれます。

このビルを開発した三井不動産の狙いは、日本企業のみならず有力な外資系企業を呼び込むこと。最大のアピールポイントがこちら。

地震などの災害時に自家発電で電力をまかなうだけでなく、発電の際に生じる熱を空調に使うことでビルの二酸化炭素排出量も減少。環境対策に厳しい外資系企業のニーズに応えています。

園田泰三さん
「海外の企業ですと日本は地震が多いと感じられると思いますので、非常に強い電源を持っているということは、オフィステナントを営業する際にメリットとして訴求できる。アジアのなかで東京は勝ち抜いていかなければならないと思っておりますので、シンガポールだったり、香港、上海、そういう都市に対して優位性があるという状況を作っていきたい」

海外都市とのし烈な競争

急ピッチで進む、東京大改造。その背景には、世界中の都市とのし烈な競争があります。

サウジアラビアでは、2030年の完成を目指し、全長170キロに及ぶ超巨大都市を建設中。高さ500メートルの鏡張りの中に、都市機能を集約。900万人が暮らすという途方もない計画です。

こちらはシンガポール。空を飛ぶのは、なんとエアタクシー。さらに自動的に電気自動車を充電できる駐車場など、交通革命が進んでいます。

どの国も海外から有力な企業や人材を呼び込み、経済を活性化させようとあの手この手で都市の魅力アップに取り組んでいます。

専門家は、こうした海外の都市との競争に東京が負ければ、日本経済全体が衰退すると指摘します。

明治大学名誉教授 市川宏雄さん
「ロンドンもパリも、極端な話、シンガポールは国と都市が一緒ですから。都市の力が上がらないと国の力が上がらないということが分かってきた中で、海外の人たちが来やすくて働きやすくて大丈夫だという環境をどのくらい早く作れるか。これはかなり緊急で思っています」

そんな中、外国人の暮らしやすさを追求するエリアがあります。森ビルが地元住民と協力して開発する虎ノ門・麻布台地区です。

地上64階建ての住宅・オフィス複合ビルを筆頭に、3棟の高層ビルを建設。700人の生徒が学ぶインターナショナルスクールや、世界各国の食文化に応じた食材を提供するマーケット、東京で暮らす外国人のニーズに徹底的に応えようとしています。

森ビル 特任執行役員 村田佳之さん
「国際間競争に勝たなきゃいけないということで、やはり外国人の方も暮らしていくというのが、ひとつの目的になっております。それがやはり東京の"磁力"を高め、世界に発信していく。そういうところになればいいなと期待しております」

2023年、東京は未来に向けた大改造のただなかにあります。

大規模開発の舞台裏

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、街づくりや建築、環境について研究をしている増田幸宏さんです。

世界に目を向けますと、本当に実現するのかと思ってしまうものもありましたが、やはり各都市との競争を勝ち抜いていかないといけなくなっているわけですね。

スタジオゲスト
増田 幸宏さん (芝浦工業大学 システム理工学部教授)
街づくり・建築・環境を研究

増田さん:
これからは人口減少に備えまして、海外から多様な人材を呼び込むために「国際化」というのは必須になります。海外から来られた方が働きやすい、住みやすい環境を整えておくというのはとても大事になります。

また、国は経済ですとかイノベーション、それから科学技術の分野をリードできる高度人材を積極的に呼び込むことで国を豊かにしようとしています。そういう観点からは、まずは日本をけん引する役割のある東京が世界から見ても魅力的な街づくりをするということがとても重要になってくるのではないかと考えています。

桑子:
国際競争という点で注目のデータがあります。

こちらは、世界の48の都市を分野別に評価したランキングです。最新の総合順位を見ますと、東京はロンドン、ニューヨークに次いで3位です。分野別に詳しく見ますと経済、研究・開発、文化・交流では東京は上位にありますが、居住、環境の分野では東京はトップ10外になっています。

増田さん、どうして東京は居住、環境の分野で低くなっているのでしょうか。

増田さん:
東京は便利である反面、家が狭いですとか電車が混んでいる、それから災害の心配がある。住んでいる人にとっては当たり前のことでも、海外から見ると大きな課題を抱えていると考えられます。そうしたことが、居住、環境の低い評価につながっている可能性があります。また、全体で3位といいましても、東京の都市の総合力というのは揺らいでおりまして、他の都市の急速な追い上げを受けていると考えられます。

桑子:
特にどういった点を強化すれば、海外企業から安心して来てもらえるのでしょうか。

増田さん:
特に海外の企業はCO2排出量などの環境対策、それから災害への備え、こうしたことをしっかりしないと企業の価値が落ちてしまうということへの危機感があります。ですので、入居するビルへも高い基準を求めていくということになってきます。

なのでVTRにもあった、その地域に最適化されたエネルギーシステムを構築することで環境への負荷を減らし、かつ災害に強くしていくということはとても重要な取り組みであると考えています。

桑子:
やはり災害面は海外から見るとリスクとして見られがちだということでしょうか。

増田さん:
そうですね。しかし、きちんとした対策も取りうると。その情報とセットで発信していくことがとても重要ではないかと考えています。

桑子:
国際競争に打ち勝つために進む、東京大改造。しかし、急速な変化によるひずみも生まれています。

東京大改造の陰で 「2023年問題」とは

東京大改造の陰で、今懸念されている問題があります。

その名も「2023年問題」。

2023年、次々と新しいビルがオープン。その影響でオフィスが供給過多となり、特に古い物件で空室が急増すると危惧されているのです。

三幸エステート チーフアナリスト 今関豊和さん
「2023年、供給量が増えますので、そこをマーケットが懸念しているのは間違いない。当然既存のビルなのでコロナへの対応という意味では新築ビルに比べるとやはり条件が劣ってきますので、新築ビルに移転した後のテナントが抜けた『2次空室』の方がこれからマーケットで増えてくるだろうと」

オフィスの供給過多に拍車をかけているのが、コロナ禍での働き方の変化。

この大手IT企業は、社員がテレワークを自由に選べる制度を導入。それに伴いオフィスの半分を解約しました。

富士通 執行役員 平松浩樹さん
「出社率は、この2年間20%前後で推移しています。賃料が当然半分になるわけですから、コスト的にもそれが目的ではないんですが、メリットもあります」

「2023年問題」が意外な形で影響を及ぼすエリアがあります。数多くのオフィスがひしめく品川エリアです。

貸しビル業を営む秋山正利さんは、長年商店街会長を務めてきました。働き方の変化や新しいビルへの移転により、周辺オフィスの空室が増加。商店街の利用客が減っているのです。

品川駅港南商店街 会長 秋山正利さん
「これはうちの第2ビルなんですけども、前はコンビニ以外は全部居酒屋が入っていましたが、全部撤退していきました。もうそれまで25年間居酒屋をやっていたんですが、居酒屋はもう限界だなと思ったのもあって」

さらに秋山さんを不安にさせているのが…

秋山さんの商店街から品川駅を挟んだ向こう側では、隣の高輪ゲートウェイ駅との間に巨大ホールや外資系ホテルが入る高層ビルが続々と建造中。人の流れが大きく変わる可能性があるのです。

秋山正利さん
「向こうの方にオフィスとかワーカーがとられていく可能性があると。むしろ向こうの方がメインになっていく。うちのところがどういう影響を受けるのかなと懸念を持っています」

高層ビルで気温が上昇

東京大改造による環境面での"ひずみ"を指摘する専門家もいます。

東京都立大学 名誉教授 三上岳彦さん
「(東京の)気温が地球温暖化の2倍の速度でどんどん上がっている」

気候学者の三上岳彦さんは、東京近郊の都市環境を長年調査してきました。調査で分かったのは、都内の高層ビルが風の流れを防いでしまい、急速な気温上昇をもたらしていること。たとえば、東京湾沿岸地域の高層ビルによる影響を見てみると。

三上岳彦さん
「海に直接面しているところに高層ビルを建てるっていうのは、涼しい海風をそこで止めちゃうわけだから。新橋の辺りは海に近いのに汐留のビル群があるので非常に風が弱い。海風が入ってこないので、そのせいでだいたい1℃か2℃、(ビル群)がないときに比べて気温が上がっています」

気温上昇は東京だけにとどまりません。さらに内陸のさいたま市や川越市など、埼玉各地の気温上昇にもつながっているというのです。

三上岳彦さん
「内陸にいる人は(東京のビル群)があるために、海風が入ってこないのでどんどん気温が高くなる。一番暑くなるのは埼玉県のほう。さいたま市では(夏の)平均の最高気温が35℃くらい」

どう防ぐ?気温上昇

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
東京の高層ビルが、近郊の温暖化にもつながってしまうと。このまま大改造を続けていいのだろうかと思うのですが、対策というのは打たれているのでしょうか。

増田さん:
はい。ヒートアイランド現象は都市の「熱汚染」。都市が熱で汚染される現象と考えることができます。

桑子:
熱汚染というんですね。

増田さん:
はい。そのための対策としては、都市に風を通す。それから水面や緑地を設けることで、都市の熱環境を改善していくということが一つ有効な方法になります。例えば、最近品川エリアでは再開発の際に風の通り道を確保することを東京都が街づくりのガイドラインとして求めています。

桑子:
風の通り道を作るというのは、具体的にどういうことですか。

増田さん:
自然の風の持つ冷却能力ですとか浄化能力を、都市の中で活用していくという考え方になります。例えば、緑地や水路などのオープンスペースを風が通り抜けるように上手につなげていくということも一つの有効な方法になり得ます。

桑子:
どうつなげていくかですね。

増田さん:
はい。そのためには一つの建物の形状や高さはもちろん、建物の配置、建物どうしの間隔、こうしたものを配慮し、工夫していくということが一つ重要な考え方になってくるのではないかと思います。

桑子:
改めて東京の開発エリアが大きく5つあり、今それぞれのエリアでそれぞれの主体によってビジョンが組まれ、開発が進められているわけですが、これらをふかんして統括する機能というのは実際働いているのでしょうか。

増田さん:
ようやく官民の連携が取られ始めていると考えています。すでに東京では敷地の一定面積の緑化に関するルールがあります。

また、先ほどの品川エリアの風の道のガイドラインを都が定めて企業が協力をしています。国土交通省も、風の道を活用した都市づくりの考え方を示しています。

これまで別々に取り組まれてきた、都市開発と環境政策・対策がようやくいいタッグを組めるようになってきた今、環境を一度作って終わりではなく、維持していくための努力が求められていると考えています。

桑子:
作るときも開発をして、それで終わりでは決していけないわけですよね。

増田さん:
はい。

桑子:
そこから点検を随時していくという面も必要ですかね。

増田さん:
はい。よい状態がきちんと保たれるように維持・継続していくという努力が同じように求められていると考えています。

桑子:
そして「2023年問題」という言葉もありました。オフィスなどの空室が増えるということになっていますが、どう生き抜いていったらいいと考えていますか。

増田さん:
コロナ禍で働き方というのが大きく変わりました。ビルの在り方も変わらざるをえない。いま過渡期でとても大変な状況にありますが、課題があることは都市を必ず進化させると考えています。

例えば、建物の用途を変えたり子供たちのための施設として活用する。あるいは若い企業を呼び込むとか、場所ですとか規模に応じた新しい役割というものが必ず見いだせると考えています。

阪神・淡路大震災の後、建物の耐震性が向上したように危機というのは変化を生み出すチャンスでもあります。これから街づくりを行うところでも変化にきちんと対応ができれば人が集まり、街は活性化すると考えています。

桑子:
「オフィスだったからオフィス」ではなくて、柔軟に役割を検討していけるのではないかということですよね。

最後になりますが、東京はこれまで震災や空襲を受け、何度も復活してきた街です。今回の大改造で最も大切なことはどんなことだと思いますか。

増田さん:
バブルのときの建設ラッシュとは全く異なるものにする必要があると考えています。バブルの時は、うわものは立派なように見えても私たちの環境や暮らしへの配慮を欠いていたと考えています。今、震災や異常気象が深刻化している段階にありますので、目に見えない部分の下部構造、インフラ・ストラクチャーといいますけれども。

桑子:
まさにインフラですね。

増田さん:
はい。このインフラをしっかり作っていくということがとても大事になってくると考えています。例えば、VTRにもあった渋谷の地下に雨水を逃がすための施設も一つの大事な考え方になってくるのではないかと思います。

桑子:
今後、日本の東京という街は期待していいでしょうか。

増田さん:
災害に強く、安心で暮らしや環境にきちんと配慮した街づくりを大切にすることができれば、東京はどこにも負けない未来都市になれるのではないかと考えています。

桑子:
増田さん、大木に例えていらっしゃいましたよね。

増田さん:
都市のうわもの、スープラ・ストラクチャーといいますが、これを大木に例えますと、しっかりとした土壌や根が必要だと考えられます。この部分をしっかりと作っていくことが大事ではないかと考えています。

桑子:
ありがとうございます。2023年東京大改造にとっては、まだ途中の段階です。この先、東京、そして日本はよい方向へ変わっていけるのでしょうか。

その先の未来へ

東京オリンピックの会場となった、湾岸エリア。「環境に優しいテクノロジー」を合言葉に、2050年を見越した大改造がすでに動き出しています。

競技会場の広大な跡地を都が無料で提供し、最先端技術の実証実験が行われています。

東京都 東京esGプロジェクト 推進担当課長 山本健一さん
「例えばこれから社会実装が期待される空飛ぶ車であったりとか、もしくは現場がベイエリアということで海なので、海の上に浮かぶ水空合体ドローン。現場で実際にテクノロジーを実装して、それをいろんな方々に見てもらって、そのテクノロジーが世界に発信される。東京ってもっとおもしろい事があるんだな、明るい未来があるんだな、じゃあみんなで一緒に街づくりしてみようか」

2050年にはゼロエミッション、廃棄物をゼロにした街づくりを目指す東京。未来への大改造が進んでいきます。

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

この記事の注目キーワード
不動産

関連キーワード