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2019年1月31日(木)

子どもの命をどう守る?揺れる児童相談所

子どもの命をどう守る?揺れる児童相談所

先週、千葉県野田市で小学4年生の少女が自宅アパートで遺体で発見された事件。41歳の父親が、娘に暴行を加えたとして傷害容疑で逮捕された。女児は学校に父親からいじめられていると伝えたり、児童相談所に保護してもらうなど、たびたびシグナルを発していたが、周囲は深刻さに気づくことなく親元に帰した後に悲劇は起きた。背景の一つとして考えられるのが、児童相談所がそれぞれのケースにきめ細かく対応しづらい今の環境だ。全国で寄せられる虐待の相談件数は2000年代以降7倍以上に急増。しかし、担当者の数は2倍程度しか増えていない。よりきめ細かな対応が求められるなか、各自治体は児童相談所や担当者を増やそうとしているが、住民から反対の声があがり設置が進まないケースが相次いでいる。幼い命を守るために私たちは今何をすべきなのか。相談所の設置に揺れる地域などを取材し問題解決の糸口を探る。

出演者

  • 尾木直樹さん (法政大学特任教授)
  • 和田一郎さん (花園大学准教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 田中泉 (キャスター)

幼い命 なぜ救えなかった 学校 児童相談所の対応は?

先週、千葉県野田市の自宅アパートで亡くなった10歳の女の子。父親から暴行を受けていたと見られています。

近所の住人
「いつも女の子が泣いているような声がしていた。最近、つぶれた声でギャーギャー泣くのが聞こえて、『うるさいんだよ、お前は』とかいうのも聞こえた。」

女の子は通っていた小学校で「父からいじめを受けている」とアンケートに回答。SOSのシグナルを発していました。事態を知った児童相談所が介入。2か月近くにわたり、女の子を一時保護していました。
しかし、周囲の対応にさまざまな問題があることが明らかになっています。市の教育委員会は、「父からいじめを受けている」と女の子が訴えたアンケートのコピーを父親に渡していたのです。さらに、学校にも問題が。今月(1月)父親から、「娘を1か月近くにわたって休ませる」と連絡を受けていました。専門家が危険な兆候と見なす長期の欠席。しかし、学校が児童相談所に電話で報告したのは2週間後のことでした。児童相談所の対応にも問題があったと指摘されています。学校から報告を受けても、家庭を訪問していませんでした。そして3日後。先週、自宅アパートの浴室で、体にいくつものあざを持つ女の子の遺体が発見されました。
幼い命が失われる悲劇は繰り返し起きています。去年(2018年)3月、東京・目黒区でも親から十分な食事が与えられないまま、5歳の女の子が亡くなりました。

ここでも、児童相談所は早くから危険の兆候をつかんでいましたが、結局、命を守ることはできませんでした。

全国の児童相談所に寄せられる虐待の相談件数は、平成11年以降、11.5倍に急増。その一方で、児童虐待の対応に当たる児童福祉司の数は、2.6倍しか増えていません。

先週、千葉の野田市で起きたケースに関わった児童相談所では、職員1人当たり、およそ50件の案件を抱え、日々の業務に忙殺されていたといいます。

千葉県柏児童相談所 二瓶一嗣所長
「気づくことができず、亡くなったことは非常に残念。本人のことを思えば、断腸の思い。」

ゲスト 尾木直樹さん(法政大学特任教授)
ゲスト 和田一郎さん(花園大学准教授)

武田:またこんなことが起きたのかと、本当にやるせない思いがするんですけれども、尾木さんはどういうふうに受け止めていらっしゃいますか?

尾木さん:そうですよね。本当にたまらないですね。今回は10歳の小学4年生って、大きな子なんですよね。だから本人は、あちこちにSOSのサインを出していたと。明確に出していたわけですよね。それなのに、学校も、それから児相も、教育委員会も、その命を守ることができなかったというのは、これはやっぱり僕ら大人の責任は本当に大きいと思います。こんなことを何回も繰り返すべきではないですね。

武田:今回の事件の経緯を改めてまとめてみました。まず児童相談所は、心愛さんの一時保護を一昨年(2017年)12月にいったん解除しましたけれども、その後、事件が起きるまで一度も家庭訪問をしていませんでした。そして学校の問題ですけれども、心愛さんは今月7日から登校していません。学校が父親から長期欠席すると連絡を受けていましたが、当初そのことを学校は児童相談所に報告していませんでした。そして児童相談所は、このことを把握したのは、事件の3日前だったんですけれども、状況を確認するための対応をしていませんでした。
茨城県の職員として児童相談所に勤務した経験もある、和田さん。
見守る必要があるとして、自治体が把握していたお子さんだったわけですよね。なぜ、こんなことが起きたのか、どこに問題があったとお考えですか?

和田さん:いくつかの要因があると思うんですけれども、まず一つは、子どもがアンケートにどんな思いを持って書いたかということですよね。それを加害者(父親)に対して開示してしまった。これで、学校で行うアンケートは誰かに伝えられてしまうんだという、政策の変更までいくような非常に深刻なものであり、また、学校とか教育委員会に、クレームを言えば成功するんだという成功体験を与えたこととしても、非常に悲しい出来事だと思います。

武田:アンケートを開示したことを、尾木さんはどういうふうに考えますか?

尾木さん:いじめの問題と同じですけれども、いじめられている子が「つらい」「何とかなりませんか」って、先生に具体的に書いているのに、それをいじめている子に「君はAさんがこんなこと書いているけれども」って言って見せちゃったのと同じでしょ。基本的に、被害者をきちっと守るというのは原則なんですよ。それから加害者の指導に入っていくわけですけれども、そういう被害者を守るという徹底した姿勢がないんだと思うんです。それで大人のほうの大きな声に弱いというかね。これじゃあ、ダメですね。

武田:次の問題としては、児童相談所が一時保護を解除した後、1年以上、家庭を訪問しなかったという件があります。これはどういうふうに捉えていらっしゃいますか?

和田さん:基本的には一時保護を解除してから6か月間ぐらいは、注目するということになっておりまして、チームを組んで定期的に訪問するとか、情報共有するとか、通常はそういうことになっております。

武田:それをしていないということは、やはり通常のマニュアルからは少し外れている?

和田さん:それがどうしてかというのが、今後、検討しなければいけないということになります。

武田:それから学校側の対応として、長期間休むことを児童相談所に報告していません。このことについてはいかがですか?

和田さん:少なくとも、深刻な事例で一時保護された。一時保護というのは、予後の再発とか悪化度を見て、非常に高いですね。そういう児童に対して、急に休んだということで、休む理由などを詳しく確認せず、児相に言わなかった。これは本当に大問題ですね。

武田:そして一番悔やまれるのが、そのことを児童相談所が把握した3日間で状況を確認していないということもありますが、これはいかがですか?

和田さん:これも難しいところではあるんですけれども、どうして行けなかったのかというのが、行く余力がなかったのかも含めて、非常に検討しなければいけないということがあります。

武田:尾木さん、この3日間が本当に最後のチャンスだったわけですよね。

尾木さん:せっぱ詰まった感覚というのが伝わらなかったんだと思うんですよね。だから、のんびりしていたんだと思うんですけれど。やっぱり学校が1月7日から不登校になっている時点で、お父さんの弁解というか、理由をうのみにせずに、小学4年生ですから本人に確認するのは十分できるわけでしょ。そういう形で丁寧にやってほしかったと。そしたら救えたと思います。

幼い命 なぜ救えなかった 児童相談所で何が?

田中:そもそも虐待などから子どもを守るための体制はどうなっているのかといいますと、まず児童相談所は、虐待など、家庭での養育が困難と判断すると、子どもを親から引き離すことができます。そして、併設する施設で子どもを一時保護します。また、虐待だけでなく、不登校や非行、そして障害の相談も受け付けていて、さまざまな子どもについての問題に対応する最初の入り口となっています。一時保護の期間は原則2か月とされています。問題が解消されない場合は、子どもを児童養護施設や、乳児院といった福祉施設に預けたり、里親や特別養子縁組という形で、ほかの家庭に養育をお願いするといった体制になっています。

武田:今回、児童相談所や自治体にさまざまな問題があるということが見えてきました。ではなぜ、そういうことになっているのか。和田さんは、今回事件が起きた千葉県の状況、実際に現地にも行かれて非常に詳しいということですけれども、体制は十分だったんでしょうか?

和田さん:私の試算では、人や予算、施設の数とか件数とか、そういうことを総合した自治体のランキング、合成変数で見ますと、千葉県は全国の自治体の中でワースト5位なんですね。一方、児童相談所では、一時保護所の中には、男女は話してはいけないとか、視線を合わせたら反省文とか、そういうひどい一時保護所もあるんですけれども、千葉県の保護所に関しては、とっても子どもが安心して、非常に楽しく、子どもが回復して、管理的ではなくて、本当に充実して、子どもも喜ぶ。千葉県の保護所にいる子どもと話したこともあるんですけれど、子どもも本当にいいと。

武田:全体的な体制はぜい弱にもかかわらず、現場は雰囲気がよかったと。

和田さん:そうなんです。そういうことから見ますと、非常に想定以上の、個人とか、組織の限界を超えた仕事をしていた可能性がとても高いです。

武田:一人一人の職員の方は、そういう環境を維持するために、大きな負担がかかってたんじゃないかということなんですね。
そうした自治体によってさまざまな差がありそうですけれども、全国的な状況というのはどうなんですか?

尾木さん:僕も何人かご存じの方がおられるんですけれども、こういう場面になると、今回も児相は悪い弱点がいっぱいあったんですけれど、集中して児相が批判されます。だけれども、実際に児童福祉司の方はむちゃくちゃ一生懸命やられていて、基本的に欧米に比べると、日本の児童福祉司が抱えているケースというのは100件をはるかに超えていて、欧米の4倍や3倍以上あるという状況で、本当に気の毒なくらいです。目が回る状況です。

武田:これは人が足りないということなんですか?

和田さん:人もそうですけれど、施設も含めて全て足りない。一例を挙げますと、虐待に関する予算は、日本は大体、年間1,000億円。人口は違いますけれど、アメリカは3兆円使っているわけですよね。桁が全然違うので、非常に乏しい資源、乏しい人数で過酷な業務をしているというのが現状です。

武田:国はただ、児童福祉司は増やそうとしているわけですよね。

和田さん:5,000人にするというような案が出て、それは当然必要なことです。ただ、他国ぐらいにするとなると、相談の受け付けからケアまで含めた人数で言うと、大体2万人ぐらいは必要ですので、それも桁が違う。今回、課題になっているのは、入り口の相談する児童福祉司が増えても、真ん中の一時保護所の人員とか場所、またその後、社会的養護といわれる里親とか、そういう方々の量が増えないと、いくらその入り口を増やしても、次に施設はもういっぱいだと。本当にひどいケースしか保護できないというようなことになっている自治体が想定されます。他国との社会的養護の人数比でいくと、世界の5分の1しかいないわけですね。ということは、その他の方は非常に危険なリスクを負ったまま家庭で生活しているということが想定されます。

武田:児童養護施設や里親・特別養子縁組などではなく、家庭に戻されているということですね。

尾木さん:里親・特別養子縁組のところが非常に規模が小さくて、日本の場合、十数%なんですよね。オーストラリアと比較してみると、オーストラリアは95%ぐらいかな、ものすごく大きいんですよ。だから、子どもたちはこういう家庭に近い環境で養育される権利もあると思うんですよ。ところが日本の場合、ここが少ないものですから、虐待の家庭に戻されてしまうという傾向がすごく強いと思います。

子どもを守る児童相談所 各地で設置が難航

田中:児童相談所での虐待対応件数の増加を受けて、きめ細かな対応ができるように国や自治体は児童相談所の数を増やそうしています。都道府県が広域で管轄していた児童相談所を、市や区のレベルでも作れるよう、2016年には法改正も行われました。しかし、その設置を巡って住民とあつれきが生じるケースが相次いでいます。例えば横浜市では2011年、一時保護所を住宅街に開設する方針を発表したんですが、非行少年が脱走するのでは、などと地域住民が反発し、多くの反対署名が集まりました。住民に理解を求めるのに時間をかけた結果、予定から1年遅れの開設となりました。さらに大阪市では、設置を計画していたマンションの住民の過半数を超す反対署名が集まって設立を断念。ほかの候補地で開設を目指すことになりました。

そして今、こうした騒動のさなかにあるのが、東京都港区の南青山です。その現場を取材しました。

子どもを守る児童相談所 建設反対?住民の本音は?

去年開かれた、児童相談所の建設を巡る説明会です。

参加者
「青山の中でも一等地なわけですね。なぜこの施設を運営しなければならないのか。」

「子どもを保護して連れてきました。それで泣き叫ぶ。そういった場合に、周りに住んでる方たちに近所迷惑になると思うんです。」

建設を巡って揺れる現場です。

田中:こちらが、港区が児童相談所などが入る複合施設の建設を予定している土地です。近くには住宅、そしてカフェなどもありますね。結構広い土地ですね。

建設予定地の広さは、およそ3,200平米。ここに4階建ての児童相談所などを2年後に開設するというのが港区が発表した計画でした。

去年の説明会で建設反対の声を上げた人たちは、今どう思っているのか。取材を申し込むと、顔を映さないことを条件に話を聞かせてくれることになりました。メンバーの多くは、青山でビジネスを展開する会社の経営者や事業主。反対するのには理由があるといいます。

青山の未来を考える会 メンバー
「建設計画を、近隣の方々も含めて、最近まで知らなかったんです。100億円から投入するわけでしょう。」

多額の税金が投入されるにもかかわらず、区の計画は突然で、これまで5回開かれた説明会では納得がいかないと感じています。さらに、広い視野に立った都市計画とは思えないといいます。

田中:反対ということが、青山のイメージを下げるという意見もある?

青山の未来を考える会 メンバー
「住んでる人がどれだけいるかというと、そんなに人が住んでいるわけじゃないんですよね、商業施設ですから。」

「世界に冠たる商業地といっておられる。そうゆう所にその施設を造るのは、リスクが高いんじゃないかと感じる。」

他の人たちは、この計画をどう受け止めているのか。今週火曜日と水曜日の2日間、この地域の人たちに話を聞いてみました。

取材班
「(児童相談所は)賛成か反対か。」

区民
「やっぱり税金ですから、きちんとした形で使っていただけるんだったら全然問題はないと思っています。」

こちらの人も。

区民
「自分たちの子どもも利用できるんだったら、もちろん賛成です。誰も反対している話は聞いたことは、今までにはないですね。」

意外にも、カメラを向けると、多くの人が賛成という意見でした。青山の表通りから少し入った、古い団地で出会った年配の女性もその一人。自宅にお邪魔すると、昔のアルバムを見せてくれました。この青山にも、昔は地域ぐるみで子どもたちを見守る文化があったといいます。

女性
「私自身も、近所のおばさんに怒られながら育ってきました。目で見て、耳で聞いて、見守っていてくれてたのだなと。」

今のような時代だからこそ、みんなで子どもを支える施設はあったほうがいいと、女性は考えています。

女性
「今、本当に大変な時代に皆さん子育てしていて、若い方は本当に大変だろうと思う。想像もつかないニュースが飛び込んでくるので、なおさら子どもを守るのは大変だろうという気はする。そこから子どもたちを救うというのも大人の仕事のひとつではないのかと。」

賛成の意見が多い一方で、よく聞くと、児童相談所そのものについてそれほど知らない人が目立ちました。

青山の会社で働く男性
「無関心ってこともないですけど、そういうのが進んでいるんだなというぐらいにしか、ピンとはこないですね。」

区民 女性
「知らないんですよ、児童相談所っていうのは何か。」

「分からない。どうしても、ひと事になってしまうので。」

子どもの命をどう守る 私たちにできることは?

田中:今回、賛成と答えた方の中にも、ふわっとした賛成というのか、そもそも児童相談所の役割をはっきりと分からない、知らないという方もいて、それも印象的だったんですよね。

武田:私も正直、正確に理解しているわけではなかったんですけれども、尾木さんは、こういった地域の人たちの理解ということは、どういうふうにお考えですか?

尾木さん:これは、典型的な「ニンビー」だと思いますね。基本的な理念は賛成だけれども、自分の近所に来るのは嫌だと、拒否したい。

その背景を見ていくと、児相とは何かとか、この場合は子育て総合支援センターなわけですけれども、その役割って何だろうということを理解されていないから、計画の立ち上げ段階から行政と市民参加でどういうふうにしていこうかというのを考えるべきで、市民参加というのがキーワードで、どんな街を作るのかという理念もしっかり持つことが必要だと思いますね。

武田:子どもたちの命を守るために市民が参加するんだということですけれども、そのことの大切さを、和田さんはどういうふうにお考えですか?

和田さん:区の子どもは区で見るという、住民自治の理念をしようとしていると。やはり、コンパクトに気軽に相談できる所があるというのは、子どもや親に、負担になりにくいという点から推進してほしいというふうに思っております。

武田:今、割と遠くまで行かなければいけないということも起きているんですか?

和田さん:施設に入所する時には県を越えるとか、そういう所もあるんですね。また、国は家庭養護を推進しておりますので、地域に、子どもに過度な転校や生活環境の一変を防ぐような政策を進めておりますので、そういう面からもコンパクトなものが求められています。

武田:こういった事件を二度と繰り返さないために私たちに何ができるでしょうか?

和田さん:行政のボトムアップと抜本的な改革は、やはり難しいということがあります。参考として、新たに児童相談所を作ろうとしている自治体は、国基準を大幅に超える政策推進をしようとしています。

武田:そういう自治体もあるんですね。

和田さん:やはり、選挙で選ばれる方の意思決定がしっかりされていれば、政策は進むんですね。だから、皆さんがこの分野に関心を持っていただくことが政策推進になると思います。

武田:尾木さんはいかがでしょうか?

尾木さん:子育ての原点から言えば、アフリカでは「村が子どもを育てる」ってよく言われるんですね。ヒラリー・クリントンさん、クリントン大統領の奥さんですけれど、あの人は、「村中みんなで」っていう絵本まで出しているんです。だからやっぱり、「村みんなで育てていくよ」っていう意識を作っていくことが極めて重要だと思います。

武田:そのことが、子どもたちの命を守ると。

尾木さん:守る、予防もできる。

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