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福岡でも進む人口減少 より深刻な韓国・プサンではいま何が…

  • 2024年03月22日

社会や経済のあり方に大きな影響を及ぼす人口減少。福岡県でもすでに始まっていて、2050年までの30年間におよそ13%、66万人が減る見通しです。

私たちはどう対応していけばいいのでしょうか。

ヒントを探ろうと、福岡より早く、25年ほど前から人口減少が続いている韓国第2の都市・プサンを訪ね、人手不足などの課題解決に向けた取り組みを取材しました。

働き手が減っても持続する社会へ

プサン郊外の閑静な住宅街

新しい住宅が建ち並ぶ閑静な住宅街。3年前、プサン郊外に誕生しました。およそ50世帯200人が暮らしています。

スマートシティーの出入り口

実はここ、韓国が誇る先端の情報通信技術などを集めた「スマートシティー」と呼ばれる街です。人口減少で働き手が減っても暮らしの質を保てる社会を目指して、さまざまなサービスの担い手を機械やロボットに置き換える実証実験が行われています。

ゴミを自動で分別できるゴミ箱

たとえば、道路沿いに置かれた大きなゴミ箱。住民は認証情報を入力して使います。ペットボトルや缶などの家庭ゴミを自動で分別し、住民や収集業者の分別の手間を減らしてくれるということです。

住民のキム・ジョンハンさん

3年前から暮らしているキム・ジョンハンさんです。健康が気になる70代のキムさんがこの街で特に気に入っているのは、医療サービスだといいます。

小型ロボットに話しかけるキムさん

家の中を見せてもらうと、小型のロボットが設置されていました。インターネットに接続されていて、さまざまな機能がありますが、その1つがオンライン診療の予約。ロボットと会話する形で簡単に予約がとれるということです。わざわざ医療機関に電話をかけたり、スマホなどで予約サイトを開いたりする必要はありません。

健康管理のための「スマートミラー」

ロボットのすぐ近くには「スマートミラー」と呼ばれる鏡が設置されています。スマートウォッチで測定された血圧や心拍数などのデータがリアルタイムで映し出され、自分の状態が一目でわかります。また、同じデータがオンライン診療の際に医師にも共有される仕組みです。

キム・ジョンハンさん
「急にお腹の調子が悪くなったりしたときに、医師や看護師にすぐに聞けるし、遠くに行かなくてもすむので、いいですね」

こうした先端技術によって、住民がオンライン診療の予約の手間や受診のための交通機関の利用を減らせるうえ、医療機関側も予約の受け付けや診察前の検査などが省力化され、より少ない人員で医療サービスを提供できるということです。

スマートシティーの管制センター

スマートシティーでは、住民の安心・安全もできるだけ少ない人員で守る取り組みも進められていました。街頭のあちらこちらにカメラが設置されていて、その映像を管制センターでチェック。異常があれば、その都度、現地に警備スタッフを派遣します。こうすることで、街なかのパトロールに多くの人員と時間を費やす必要がなくなったということです。

 

無人化されたコンビニ

このほか、スマートシティーでは、電子決済システムを活用したコンビニの無人化やジムのインストラクターのAI化なども行われています。スマートシティーはもともと、持続可能な都市生活や自然エネルギー活用の実証実験の場として作られましたが、一連の取り組みは人口減少社会の課題解決策にもなるのではないかと注目を集め始めているということです。

プサン市庁舎

著しい人口減少に危機感を抱いているプサン市。スマートシティーで課題解決策を探るだけでなく、最新の技術を体験できることなどをPRして市外からの移住を促し、街の活性化につなげたい考えです。

プサン市企画官のイ・キョンドクさん

イ・キョンドク 企画官
「プサンの人口は減少し続けていて、非常に危機的だという認識を持っています。プサンの情報通信産業は都市のさまざまな問題を効率的・効果的に解決する上で役立つものであり、プサン市への人口の流入を図るため、スマートシティーで活用されていると思います」

出生率を高める取り組みも

働き手の減少に備える一方、プサン市は、1人の女性が産む子どもの数の指標となる合計特殊出生率を高める取り組みにも力を入れています。というのも、プサンでは、2024年2月に発表された出生率が0.66と国の平均を下回り、少子化も深刻な課題となっているからです。

子どもを産み育てやすい環境作りに向けて、プサン市が国の子育て支援策に上乗せする形で新たに始めたのが「緊急保育」と呼ばれる独自の施策です。   

プサン市の緊急保育の主な種類

緊急保育には大きく2つ種類があります。「365日開いている時間制保育機関」と「24時間保育センター」の2つです。

私たちが取材したのは「365日開いている時間制保育機関」の1つ、プサン市の育児総合支援センターです。平日は午後6時から深夜0時までの夜間、週末・祝日は日中の時間帯に6歳までの子どもを受け入れています。保護者は預ける2時間前までに予約をすればよく、料金は1時間あたり日本円で110円余りと安いのも特徴です。この施設では、緊急保育を始めてから利用者が3倍に増えたということです。

プサンの育児総合支援センター

一方、福岡市の保育園や認可保育園では、原則月曜日から土曜日までの日中に一時保育を行っていて、中には夜間保育を行っている施設もありますが、夜間の緊急の預かりには対応していません。利用するには事前の面談が必要で、当日の予約を受け付けないところも多いのが現状です。

プサンの育児総合支援センター

子どもを預けに来たフルタイムで働く母親は、子どものことを心配せずに仕事に打ち込み、自分のための時間も持つことができるので、経済的にも精神的にも余裕ができたと話していました。

30代の母親

急用ができたときに預けられるのですごくいいと思います。子育ての負担がかなり軽減されるので、時間に余裕ができて、より一層子どもに愛情を注ぐことができるので、家庭円満に過ごせると思います。

プサン市育児総合支援センター長のキム・ジョンシンさん

緊急保育を行っている育児総合支援センターのセンター長、キム・ジョンシンさんは、プサンでは育児は母親がすることという考えが根強く残っていると指摘したうえで、女性に偏っている育児の負担を減らし、育てやすい環境を作ることで出生率の向上につなげたいと話していました。

キム・ジョンシン センター長
「夕方や週末に働く保護者が育児と仕事を両立できない不便を訴えており、出生率にマイナスの影響を及ぼしています。死角のない支援を通じて、若い人たちの育児の負担を減らすことができるのではないでしょうか」

取材を終えて

韓国では、国を挙げて巨額の予算をつぎ込んで少子化対策に取り組んできましたが、人口減少に歯止めはかかっていない状況です。福岡でも県全体で見るとすでに人口減少は始まっていて、少子化もひと事ではありません。今回取材したスマートシティーのような先進的な事例や、利用者の需要に基づいた緊急保育はその成果の検証が必要ですが、福岡の今後を考えていく上で1つのヒントになるのではないでしょうか。

  • 小島萌衣

    福岡放送局記者

    小島萌衣

    2015年入局。
    沖縄局、長崎局を経て23年から福岡局。

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