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何が変わる?医師の働き方改革

医療サービスを利用する側にも影響が…
  • 2024年03月12日

2024年4月に始まる医師の働き方改革。何が変わり、医療サービスを利用する側にはどんな影響があるのでしょうか?

“医師の働き方改革”とは

慢性的な長時間労働で医療を支えてきた医師の健康を守り、きちんと休息をとった医師による質の高い医療の提供につなげること。これが、医師の働き方改革の目的です。

では具体的に何が変わるのか。

患者の診療にあたる勤務医には労働基準法に基づいて休日や時間外労働の上限規制が適用され、多くの医師は1年間の上限が960時間となります。

国の制度を利用して、ひと足早く働き方改革に取り組んでいる福岡県の病院を取材しました。

まずは労働時間の把握から

筑紫野市にある済生会二日市病院です。筑紫野市や太宰府市などの地域医療を支えています。働き方改革の第一歩は、医師の労働時間を正確に把握することでした。

済生会二日市病院

医師は院内にいる間、診察などの業務の合間合間に、知識の習得や技術の向上を図る「研さん」など業務外とされることも行っています。

急患にも対応

緊急の対応などもある中、医師みずからが業務と業務外の切り替え時刻を正確に記録し、労働時間を把握するのは簡単なことではありません。

そこで病院が導入したのが、発信器です。これを医師ひとりひとりに身につけてもらうことで院内のどこに、どれだけ滞在したかが自動的に記録される仕組みです。

医師に配られた発信器

さらに、滞在場所と業務の関係も定めました。医師の控え室で、研さんを行う場所としても使われる医局にいるときは業務外とみなします。

医局にいるときは「業務外」
済生会二日市病院 壁村哲平院長

壁村哲平院長
「今ここにいれば医局にいますねってことで研さんの時間(=業務外)ですってなります。全部記録されて、最終的に本人に確認していただく訳です」。

一方、病棟にいるときは業務中とみなします。また、もともと医局にあった電子カルテは別の部屋に移し、この部屋にいるときも業務中とみなすことにしました。

新しく作られた「電子カルテ室」
医師

前はだらだら仕事してるときも多かったと思うんですけど、自分の作業と仕事を分けてメリハリができたなと思います。

こうして把握した労働時間をもとに、時間外労働のチェックも、週に1回行うようになりました。1か月の時間外労働が、年間の上限の960時間のひとつき分にあたる80時間を超えそうな医師には月の半ばに声をかけるなど、きめ細かく対応しています。

さらに、「当直」と呼ばれる夜間や休日の勤務を行う医師については、十分な仮眠などがとれていれば労働時間に含めなくてもよいとする国の制度「宿日直許可」を利用して、時間外労働を抑えています。

「宿日直許可」の実態は

循環器内科の石川智一医師。この日3人いる当直医のうちの1人です。午前8時半の日勤から勤務し、休憩を経て、午後5時に当直に入りました。

循環器内科 石川智一医師

この病院では、夜間の救急当番ではない日に「宿日直許可」をとっています。こうすることで当直勤務の間の15時間は時間外労働に含めなくてよくなるといいます。

救急患者の処置にあたる石川医師たち

とはいえ、ずっと休んでいるわけではありません。午後6時ごろ、救急車で運ばれてきた90代の患者の処置にあたりました。 その間にも入院患者が出血したとの電話が鳴りました。

石川医師

出血したのは何cc?ちょっと見にいきますね。

入院患者のもとへ向かう石川医師

午後7時には入院患者の処置を行い、夕食をとったらまた救急外来へ。やっと一息つけたのは午後8時過ぎでした。

石川智一医師

石川智一医師
「きょうは多分忙しい方ですね。もっと呼ばれない日はあります」。

それでも、働き方改革の効果は感じています。

石川医師

以前は当直した後も普通に朝から夕方まで外来やって、入院患者さんが悪くなって帰れないとか、ははは(笑)。それが医者だったので。今は当直明けは帰れるし、そういうのはすごく助かってます。

この日は、午後10時半ごろには仮眠室へ。3人の医師で交代で仮眠をとるなどして、朝までに7台の救急車と、3人の外来患者に対応しました。 

「時間外労働は減った」

済生会二日市病院では、働き方改革によって月々の時間外労働の平均が前年度に比べておよそ7割減った医師もいるといいます。成果について壁村院長に聞きました。

済生会二日市病院 壁村哲平院長

壁村哲平院長
「病院の中で各ドクターの超勤時間が本当に短くなりました。1人の労働者としてみられることで、自分の健康管理が出来るワークライフバランスが望めるというのが、いちばん大きなポイントだろうと思います」。

医療を利用する側に求められること

この「宿日直許可」という国の制度。病院の中にいて働いているのに、どうして労働時間に含めなくてよいとされているんでしょうか?

この制度はもともと労働基準法にある規定です。ポイントは、▽軽度または短時間の業務で、▽夜間に十分睡眠が取れることという条件です。

医師だけでなく、夜間の警備員などにも適用されている

ということは、夜間に救急対応が集中して十分な睡眠がとれないなど条件を満たせない場合は時間外労働としてカウントされ、当初の予定どおりには働けない医師が出てくるおそれもあるということです。そうした医師が増えれば増えるほど医療提供体制がひっ迫し、医療サービスを受ける側も影響を受けることになります。壁村院長は、医療を守るため、医療サービスを受ける側の理解・協力も欠かせないと指摘しています。

壁村院長

働き方改革を進めて行かないと、まず医療は崩壊します。今までではいつ何時でも対応するというドクターがいたんだろうと思いますが、働き方改革で医師がどういう状態にあるのかというのを理解していただくことが、まず一番大事だと思います。

取材を終えて

働き方改革は、休日・夜間の医療体制、とくに救急や産科に大きな影響があると懸念されています。それでも、高齢化が進んで医療を必要とする人が増えると予想される中、医療を守っていくためには必要なことだと医療現場は取り組みを進めています。

夜間の不要不急の救急医療の利用を控えるなど、私たちもできることから取り組む必要があると感じます。福岡県医師会は、▽かかりつけ医を持ち、平日の日中に受診をすること、▽救急車の適正利用に努めることなどを呼びかけています。

  • 米山 奈々美

    NHK福岡放送局 記者

    米山 奈々美

    2016年入局。2児の母。
    医療担当として取材を続ける。

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