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ニッポンバラタナゴ 希少生物が海の中道に?

学名は「クルメウス」 種の保存に大切なこととは?
  • 2024年03月21日

”ため池”で希少な水辺の生き物を守る

福岡市東区にある「海の中道海浜公園」には、大小さまざまなため池があります。大きいものは長さ約200メートル、幅は50メートルほどあります。

ため池は海や川とつながっておらず、流れ込むのは雨水だけです。

海の中道海浜公園 「環境共生の森」地区

このため池で、日本固有亜種の淡水魚「ニッポンバラタナゴ」の飼育試験が行われています。

繁殖期になると、オスのおなかがバラのように赤く染まることが、名前の由来になっています。平野部の河川や農業用水路、ため池など、水流がゆるやかな場所を好みます。

九州北部産のニッポンバラタナゴ

ニッポンバラタナゴは、1900年に久留米市の筑後川で捕獲した個体が、新種として報告されました。学名は地名にちなんでクルメウス (Rhodeus ocellatus  kurumeus  Jordan and Thompson,1914)になりました。九州や本州などに生息していましたが、都市化や外来種侵入の影響で、近年、生息数を減らしています。福岡県のレッドデータブック(2014)で絶滅危惧ⅠB類に、環境省のレッドリスト(2020)では絶滅危惧ⅠA類に指定されています。

外来種との交雑が「種の保存」を脅かす

外来種のタイリクバラタナゴ(撮影 福岡県保健環境研究所)

1940年代に、中国大陸から近縁亜種の「タイリクバラタナゴ」が、他の輸入魚に混じって国内に入り全国に広がりました。「ニッポンバラタナゴ」と交雑しやすいため、純粋な種がなくなってしまうことが懸念されています。本州ではほとんど見られなくなったといいますが、九州北部では純粋な種の生息する地域がまだ残っています。

九州大学の鬼倉徳雄教授の研究グループは、生息分布や地理などの環境情報から予測して、「タイリクバラタナゴ」の侵入によって純粋な種が失われるリスクがある地域を特定しています。

 

Onikura et al., 2013. Aquatic Invasions 8(2):219-229を改変
作成 九州大学大学院農学研究院 鬼倉徳雄教授

純粋な種が残る、今こそ守る

福岡市東区にある水族館、マリンワールド海の中道では、これまで水槽で「ニッポンバラタナゴ」の種の保存に取り組んできました。交雑の心配が無い安全な環境で人工授精を繰り返すことで、種の系統を維持しています。それに加えて、エサを探したり、自然産卵をしたりするなど、生物の本来の行動を残しながら保存していくことができないかと考えました。

マリンワールド海の中道 希少生物保全室

2015年に、海の中道海浜公園のため池で生物調査をしたところ魚類がいないことが確認できました。外部の川や海とつながっていない環境は、「ニッポンバラタナゴ」の交雑を防ぎ、純粋な種を守ることに適しています。このため池に稚魚を放流して飼育試験を始めることにしました。

ため池に放流した稚魚

ため池の環境を整える

しかし、ため池には稚魚を食べてしまう条件付特定外来生物の「ミシシッピアカミミガメ」や「アメリカザリガニ」などが大量に生息していました。水族館の飼育員や専門学校の学生たちが、外来生物を捕獲したり、周辺の草刈りをしたりしてため池の環境を整えています。

条件付特定外来種のミシシッピアカミミガメ
条件付特定外来種のアメリカザリガニ

独特な繁殖のしかた

「ニッポンバラタナゴ」の繁殖は独特で、ため池に稚魚を放流するだけでは数を増やしていくことができません。

飼育員の勢村天珠さんに、繁殖について教えていただきました。

マリンワールド海の中道・飼育員 勢村天珠(せむら・てんじゅ)さん
水槽左:ヌマガイ 水槽右:ニッポンバラタナゴ

ニッポンバラタナゴのメスは、お腹から産卵管を延ばして、ヌマガイなどのニ枚貝に産卵します。二枚貝がいないと、ニッポンバラタナゴは自然繁殖ができないのです。また、ヌマガイの子どもは、ゴクラクハゼなどに寄生して成長します。生き物たちは、つながり支えあっています。

画像提供・マリンワールド海の中道
メスのお腹から伸びる産卵管
ため池に入れているヌマガイ

ため池に、ヌマガイも入れて観察したところ、ニッポンバラタナゴの産卵や、稚魚を確認することができました。

自然繁殖したニッポンバラタナゴの稚魚

ため池のニッポンバラタナゴが増えてきた

 

飼育試験をしているヌマガイ池
ヌマガイ池のニッポンバラタナゴ
撮影・勢村天珠さん

2022年11月に、オス5匹、メス5匹を放流したヌマガイ池。10か月後に捕獲して調査をしたところ、約500匹の個体を確認することができました。外来生物駆除の効果が出始めたと見ています。

ニッポンバラタナゴの生息調査(ヌマガイ池)

生息調査では、ニッポンバラタナゴの状態を一匹ずつ確認します。

 

ヌマガイ池で調査したニッポンバラタナゴ
ニッポンバラタナゴのメス
勢村さん

水槽で飼育するのに比べて、エサの偏りがないためか、成長のスピードもはやく、健康で体格も良い個体が多いです。公園内のため管理もしやすく、都市化などの開発にさらされることもないため、ニッポンバラタナゴの生息に適した環境だと思います。

生息域外での保全活動は続く

私たちが、系統保存しているニッポンバラタナゴは、ある地域のものですけれども、そこの遺伝子の特徴を持っているものが、失われてしまうと、二度と戻ることがないので、本来の生息域外での保全になりますが、とても意味があることだと考えています

 

マリンワールド海の中道 勢村天珠さん

もともと、人が作った環境ですので、常に人の手で維持していかないと、すぐに崩れてしまいます。まだ分からないことが多いのですが、今 各地で数を減らしている生き物たちを助ける役に立てるのではないかと思います。

マリンワールド海の中道では、ため池での飼育試験を続けて、希少な水辺の生き物を保全する場所として定着させたいとしています。

(取材・撮影)NHK福岡コンテンツセンター 田村威浩

 

問合せ先 国営海の中道海浜公園 TEL092-603-1111

マリンワールド海の中道 TEL092-603-0400

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