ページの本文へ

読むNHK福岡

  1. NHK福岡
  2. 読むNHK福岡
  3. 1からわかる 国民保護と福岡

1からわかる 国民保護と福岡

九州で「避難受け入れ計画」策定へ
  • 2024年03月06日

 

1月に鹿児島県屋久島で行われた国民保護実動訓練

有事の際、住民の安全をどう守るか。
「国民保護」をめぐる動きが、いま、九州・沖縄でにわかに加速し始めています。

そもそも国民保護って何? 福岡とどう関係するの?

1からまとめます。

(福岡放送局 国民保護取材班)

先島諸島の12万人が九州・山口に?

九州・沖縄の各地で進む「防衛力強化」の動きについては、この「読むNHK福岡」でもお伝えしてきました。
※過去の記事は、こちら↓

これと対をなすように進んでいるのが、「国民保護」をめぐる動きです。
特に、南西諸島の島々を抱える沖縄県や鹿児島県で、検討が本格化しています。

1月に行われた沖縄県国民保護共同図上訓練

背景にあるのは、いわゆる「台湾有事」への懸念の高まり。

「万が一、台湾周辺で紛争が起きれば、中国や台湾に近い南西諸島では、住民の大規模かつ広域的な避難が必要となるかもしれない」

そうした事態に備えなければならないとの危機感が、国と自治体、双方の間で高まっているのです。

こうした中、2024年1月には、沖縄県で国民保護の図上訓練が行われました。

その想定は、
「先島諸島の住民など12万人を島外に避難させる」
というもの。

そして、この訓練で12万人を受け入れる避難先に指定されたのが、九州・山口の8県でした。

訓練の想定(沖縄県HPより)

そもそも国民保護とは

有事の際、国民をどう保護するか。
その仕組み自体は、20年前にできました。
小泉政権時代の2004年に成立した「国民保護法」です。

その大きな柱が、「避難」と「救援」。

具体的には、武力攻撃事態などが起こると、発生した事態に応じて
▽住民の避難が必要な「要避難地域」と、
▽それを受け入れる「避難先地域」を、
国が指定します。

「要避難地域」に指定された地方自治体では、都道府県が住民に避難を指示した上で交通手段などを確保し、それぞれの市町村が誘導などを担います。

一方、「避難先地域」に指定された受け入れ側の自治体に求められるのが、救援です。
国から救援を指示された都道府県は、避難してくる住民たちに収容施設や食料、医療などを提供しなければならず、これを市町村が補助するとされています。

「要避難地域」と「避難先地域」は、発生した事態の規模や内容に応じて、その時点で国が判断し、指定します。
しかし、避難先を架空の「○県×市」にしたままでは、避難計画に関する検討は、いつまでたっても具体化できません。

そこで、国が協力を求めたのが、九州・山口の各県でした。
距離的にも近い上、沖縄と九州・山口のトップは同じ九州地方知事会に属し、災害時の相互応援協定を結んでいることなど、すでに自治体間の連携の枠組みがあるためです。

 

避難受け入れの協力を求める松野官房長官(当時)

2023年10月には、当時の松野官房長官が九州を訪れ、九州地方知事会の会長を務める熊本県の蒲島知事などと会談。先島諸島からの避難の受け入れに関する協力を、直接求めました。
こうして、九州・山口の各県で、具体的な検討が進められることになったのです。

九州で初の「受け入れ計画」策定へ

では、実際には九州で今後どんな動きが出てくるのか?
国民保護を所管する内閣官房に取材しました。

それによると、検討のもとになるのは、沖縄県の訓練で設定された、「先島諸島の住民などおよそ12万人の避難を九州・山口の各県で受け入れる」という想定です。

まず、2023年度末までに、
①九州・山口の各県で避難住民の収容施設として使用できるホテルや旅館、公営住宅がどれくらいあるかなど、各自治体の受け入れ能力を把握。
②人口およそ1100人の沖縄県多良間村の住民を熊本県八代市で受け入れる計画を国が主導して策定し、これを今後の検討のモデルケースとする予定です。

その上で、2024年度には、
九州・山口の各都道府県に、それぞれ“カウンターパート”となる先島諸島の自治体を割り振った上で、モデルケースをもとに各県ごとに受け入れ計画を策定することを目指しています。

今回、策定するのは、「初期的な計画」とされ、受け入れの初期段階で必要となる事項について検討される見通しです。
具体的には、▽避難所までの交通手段、▽収容施設の確保、▽食料や医療の提供などの項目に絞ったものになる見込みだということです。

重要拠点となる福岡

国民保護法にもとづく避難や救援の指示が出され、九州が受け入れ地域になった場合、福岡県はとりわけ重要な拠点に位置づけられるとみられます。

福岡空港 国内有数の基幹空港

九州最大の都市として、インフラなど受け入れ基盤が整っていることに加えて、着陸数が国内で3番目に多い(※2022年実績)福岡空港や、国際拠点港湾の博多港や北九州港、それに博多駅など、中継拠点としての機能も整っているためです。

実際、今後の検討のもとになる沖縄県の国民保護訓練の想定では、八重山地域(石垣市・竹富町・与那国町)の住民など5万人あまりの大半が福岡を経由して避難するとされ、
▽与那国空港から航空機を使い福岡空港に向かうルートと
▽新石垣空港から航空機で福岡空港に向かい、その後、博多駅を経由して九州・山口の各県に避難するルートが
設定されました。

訓練の避難想定(沖縄県HPより)

自治体からは戸惑いの声も…

今後、九州各県で本格化する「受け入れ計画」づくり。 

福岡県でも、国からの通知を受け、県内のホテルや公営住宅などの施設について、受け入れができる人数の調査が行われています。
一方で、県幹部に取材すると、戸惑いの声も聞かれました。

福岡県幹部

どういう基準で数を報告すればいいのかあいまいで国に確認することが多く、とりまとめに時間がかかっている

例えば100室あるホテルの場合、平均して60室がいつも予約で埋まっているなら、報告する受け入れ可能数は40室とすべきなのか、それとも最大の100室とすべきなのか。
国から、あらかじめ明確な基準は示されていません。

ほかにも、「今すぐ受け入れる」という想定なのか、「1週間後に受け入れる」想定なのか、自治体が準備にあてられる期間によっても計上する数は大きく変わるといいます。

このように、数字の数え方一つとっても、国と自治体側の細かな認識のすり合わせが必要で、現場は手探りで作業を進めているといいます。

福岡県幹部

国の想定は正直、まだまだ机上の空論になっている部分もあり、自治体としても戸惑いがある。
制度に詳しく俯瞰的な視点を持つ国と、現場の実情を最もよく知る自治体で、意見を出し合い、互いの認識を一致させながら計画を作っていく必要がある

私たちに求められることは?

国民保護をめぐる動きと、私たちはどう向き合うべきか。

この分野の専門家で、各地の国民保護訓練の講評なども行っている国士舘大学の中林啓修准教授に話を聞きました。

国士舘大学 中林啓修 准教授

まず、中林准教授が指摘したのは、
これから進む検討は、有事の際、先島諸島の住民だけに避難が必要となり、避難先も必ず九州になるということを確約するものではない」ということでした。

中林啓修 国士舘大学 准教授
「気をつけなければいけないのは、沖縄・先島の住民が必ず九州に逃げてくるということではないということです。受け入れのための要領や考え方を一般化して計画にしていくことは、どこにおいても必要な作業で、『沖縄と九州だけの話だ』と思わずに、日本全体の課題だと捉えていくことが大切です」

国民保護をめぐる議論については、自治体側の戸惑いの声もさることながら、南西諸島の住民などからも、ふるさとを離れる選択肢が現実感をもって語られることや、有事を前提とした備えが進むこと自体への不安の声も上がっています。

中林啓修 国士舘大学 准教授
「戦後の日本が一度も戦争を経験してこなかったことは、それ自体、非常に大きな価値ですし、そうした中で、日本が紛争に巻き込まれる事態を前提とした準備を具体的に進めていくことに、戸惑ったり不安を感じたりするというのは、当然のことだろうと思います。
国民保護について議論することそれ自体は決してタブー視されるべきではありませんが、だから検討をやっていくのが当たり前だというのも、同時に思ってはいけない。
大事なのは『みんなが参加する』ことで、国、自治体、関係機関は、住民が様々な考えを持っているということを軽く考えない。住民側も、国、自治体、専門家が考えてやることでしょうというふうに他人事にしない。受け入れるにせよ、自分が避難をすることになるにせよ、これは自分たちの問題だと、しっかりと受け止めて、議論に参加していくことが大切ではないでしょうか」

加速し始めた国民保護をめぐる議論。

この問題は九州で暮らす私たちにも決して無関係ではなく、また、無関係ではいられない現実も見えてきました。

中林准教授は、国民保護という制度について
「使わないにこしたことはないが、使うとなればしっかりとした仕組みを作っておかなければならないもの」
だと話していました。

私たちひとりひとりが、関心を持って見ていかなければならない問題なのです。

  • 西牟田慧

    福岡放送局記者

    西牟田慧

    2011年入局。
    沖縄放送局、報道局社会部を経て、22年8月~福岡局。
    自衛隊や安全保障を継続的に取材している。   

  • 神田詩月

    福岡放送局記者

    神田詩月

    2020年入局。
    甲府放送局を経て、23年8月~福岡局。
    福岡県政を担当。

ページトップに戻る