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ストーカー 突き進む危険をつかむ 模索続ける加害者対策 

博多駅前ストーカー殺人事件から1年 対策の現場
  • 2024年02月08日

 

ストーカー被害を相談中の女性が命を奪われた事件

 

事件の現場 女性は博多駅へ向かう途中だった

1年前の1月16日午後6時すぎ。
博多駅前の路上で那珂川市に住む当時38歳の会社員の女性が刃物で刺され、殺害されました。
現場は、JR博多駅からオフィス街に続く道路。女性は勤務先から帰宅途中だったとみられています。
通勤や通学、観光客など多くの人が行き交う街の中で、ストーカー被害を警察に相談していた女性が殺害され、刃物を持った男が事件後に逃走した事件は、社会に不安と衝撃を与えました。

 

別の傷害事件で送検される寺内進 被告

この事件で殺人などの罪で起訴されたのは元交際相手の寺内進被告です。被害者の携帯電話や勤務先に連続して電話をかけるなどして、事件の約1か月半前には、ストーカー規制法に基づく「禁止命令」を受けていました。
被告は、女性に対する殺人と銃刀法違反、ストーカー規制法違反のほか、別の男性に対する傷害の罪でも起訴されました。

被告が初めて公の場に 
傷害事件の裁判「区分審理」始まる

 

寺内進被告 2月5日傷害事件の審理 廷内スケッチ

事件から1年あまり。被告は今月(2月)別の男性に対する傷害事件の裁判に臨みました。逮捕後、公の場に姿を見せるのは初めてです。黒い上下の服にマスクを着けた被告は、黒い短髪で法廷に入ると、傍聴席のほうをみて着席しました。この傷害事件で被告側は無罪を主張しました。ストーカー殺人事件と別に審理される「区分審理」で有罪か無罪かが判断されたあと、刑の重さについては、裁判員裁判で審理されるストーカー殺人事件とあわせて判決が言い渡されることになります。

ストーカー被害を防ぐ 
模索続く「加害者」対策

事件は、被害者の命が奪われるという深刻なストーカー被害を防ぐ難しさを突きつけました。
被害相談の受理件数が全国で最も多い福岡県。去年(R5)1年間に福岡県警に寄せられたストーカーに関する相談は暫定値で1429件にのぼり、全国で最も多かったおととし(R4)の1351件を78件上回っています。
深刻な被害をどう未然に防ぐか。警察は「加害者」に注目した対策を進めています。

そのひとつが福岡県警が続けている取り組みです。(図を参照)ストーカー行為が確認された場合、警察はストーカー規制法に基づく、警告や禁止命令を出します。悪質な行為に及ばないか警戒をするとともに、医療機関での治療などが有効な場合があるとアドバイスします。受診を希望しない場合、カウンセリングを受けるよう働きかけます。

福岡県警の加害者対策の図

福岡県警では、6年前(H30)全国で初めて県の精神保健福祉士協会と協定を結び、専門家によるカウンセリングを3回まで公費負担で受けられる取り組みを始めました。

カウンセリングを担当する精神保健福祉士

これまでに200人以上のカウンセリングにあたってきた精神保健福祉士に今回、話を聞くことができました。カウンセリングを続ける中で、面談者の特徴に気付かされると言います。

精神保健福祉士

すごく悲観的に考えやすい方とか、思い込みやすい方とか、いろいろそれぞれの癖があるんですけど、自分の中で考え方が固まってしまって、問題行動につながってしまった方たちがいらっしゃいます。
他の人と話せば修正できるような話でも、なかなか自分で思い込んで、絶対そうなんだって思ってしまうと修正がきかなくてそのまま突き進んでしまうそういうような方がいらしゃる。

エスカレートする「危険」を事前につかみ、人の命が奪われる事態を防ぐ。そのために加害者への対策が有効なのか、まだ、検証の段階です。ただ「いつものけんかのつもりだった」、「思いを伝えたかっただけなのに」など、自分の行動がストーカー行為だと思っていなかった人が警察による警告やカウンセリングを受けて「相手に怖い思いをさせてしまった」のだと気付かされ、加害者の多くが第三者の介入によって問題行動をやめるということです。
一方、精神保健福祉士は、加害者対策の難しさを感じると話しました。

精神保健福祉士

ストーカーをひとくくりにすることの方が怖いなって思います。
ストーカーってこういう感じっていうふうにくくることのほうが怖くて、本当にそれぞれ違うタイプなので、ストーカー対策も、こういうふうにじゃあこういう話をしてこれで終わり、というふうにはやっぱりなかなかならないなと思っています。

その上で、加害者を「孤立させない」ことが大切だといいます。

精神保健福祉士

問題のある行動を起こした方、ご自身が「なぜそういう行動につながったんだろう」とやっぱり1回考えないといけないなと思うんですね。それが、1人で考えてもおそらく難しいんですよ。だから『孤立させない』は、すごく大事だろうなと思います。

医療機関の受診やカウンセリングに強制力はありません。実際に福岡県の場合、去年は233人が対象になりましたが、カウンセリングなどを受けたのは51人と、対象になった人の約20%となっています。博多駅近くで起きた事件の被告に対して、警察が事件の前に医療機関の受診やカウンセリングを勧めていたという経緯はなく、体制の強化や仕組みをしっかりと活用することも求められます。
今後行われるストーカー殺人事件の裁判員裁判で被告が何を語るのか。悲劇を繰り返さないためにも、事件の動機やいきさつについて解明が必要になります。

  • NHK福岡放送局 記者

    檀浦歩

    2022年入局。広島県出身。
    事件・事故の取材を担当

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