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専門医・当事者に聞いた、トランスジェンダーのこと

トランスジェンダーって何? カミングアウトされた時、どんな言葉をかけたらいいのだろう
  • 2024年01月24日

「はっけんラジオ」のスペシャル版としてR1・ラジオ第1で年1回放送している「九州沖縄LGBTQ最新事情」。先日放送した約2時間の特集「教えて、隣のトランスジェンダーさん」では、割り当てられた性と性自認が異なる「トランスジェンダー」の悩みなどについて、専門医や当事者のみなさんに聞きました。(NHK福岡放送局アナウンサー・廣瀬 雄大)

トランスジェンダーとは

お話を聞いたのは、岡山大学病院ジェンダーセンターの医師・松本洋輔さん。精神科医として性別に違和感を持つ人の相談や治療にあたりながら、専門医の学会(GID学会)の理事も務めています。

放送の様子 松本洋輔さん

「トランスジェンダー」は「性同一性障害」とは異なるのでしょうか。

まず「性同一性障害」という言葉は廃止されることが決まっています。
国際的な呼び方に合わせて「性別不合」という名前に変わることになっています。
トランスジェンダーは、生まれた時に割り当てられた性と、性自認が異なる人を総称する言葉ですが、「性別不合(現在の性同一性障害)」は、このうち、身体の治療など医療を受けることを望んで病院を受診した人に便宜上つけている疾患名です。

そして、生まれた時に割り当てられた性と性自認が異なる人が、誰でも「トランスジェンダー」というわけではありません。「トランス」というのは「移行」という意味ですが、“もともと自分は、男性/女性であって、移行するという言葉はそぐわない”と考える人もいるのです。
自分のことをどう表現するかを尊重することが大切です。

診療にくるのは、どんな年代の方が多いんですか。

就学前の方から、80代の方が来られたこともあり、さまざまです。
多くの場合は小さい頃から違和感がありますが、思春期以降だったり、社会人になってからだったり、人によって気づく時期はバリエーションがあります。

身体の治療 何をする? 何が大切?

性自認に合わせて身体を治療したいと望む場合には、どんな治療があるのか聞きました。
松本さんは、必要な治療を慎重に選ぶことが大切だといいます。

日本精神神経学会のガイドラインに基づいて「ホルモン療法」「乳房切除術」「性器に対する性別適合手術」という3種類の治療法があります。
ホルモン療法は、望む性別の性ホルモンを注射して、男性的な特徴・女性的な特徴を身につけようというものです。
乳房切除術は、女性的な形の乳房を男性的にするものですが、手術を受けた当事者の満足度が高い手術だと感じています。
性別適合手術は、体内、体外の性器を切除したり、あらたに造ったりする手術です。
どのような治療をするかは、本人の希望や、医師との相談の上で進めていきます。

若い世代の当事者を中心に「早くホル注(ホルモン注射)したい」など、身体の治療を急いで受けたい、という声もよく聞きます。
治療には慎重さも必要だというのはなぜですか?

ホルモン療法もそうですが、身体の治療は、一度受けると基本的には、戻りません。十分話し合いをしたり、自分の内面やおかれている状況を見極めたりしてから進めることが大切です。
日本では、日本精神神経学会の定めたガイドラインに従い、2人の精神科医が診断にあたるなど、複数の医師でチームを組んで進めていきます。性別適合手術の場合は、医師や有識者で作る「判定会議」を開いて判断するなど、慎重に進めるようにしています。
情報が得やすい時代ではありますが、まずは専門医に相談してほしいと思います。

カミングアウト 周囲の人たちからの言葉

番組には「カミングアウトした時にかけられて嬉しかった言葉があれば教えてほしい」という質問が寄せられました。出演した3人の当事者に教えてもらいました。
 

まぁ~ちゃん 
沖縄県在住  一般社団法人ちむぐみ 理事
男女の性別にとらわれないXジェンダー

私がカミングアウトをし始めたのは高校2年生の頃でしたが、その頃からは否定されることが減ってきたと感じ始めた時で、少しずつですが「応援してるよ」や「(友だちとして)好きだよ」という言葉をいただいたときは、私という存在が認められたような気がして素直に嬉しかったです。
なかでも、ある方に自身の性別の認識についてお話したときに「正直よく分からないけれど、あなたの味方になりたいと思ってるよ」と言われた時に、これまでカミングアウトをしないと存在を認めてくれないと思っていた私は「無理にカミングアウトをして伝えることはなくとも“人”として見てくれている人がいるんだ」と思えたのと同時に、自然と「私も生きていていいんだ」と涙が出るほど嬉しかったです。この言葉を頂いたことで少しずつ前向きになれて、くじけそうになる度に今でもこの言葉を思い出しながら生きる原動力となっています。

美咲さん 
福岡県在住
日本性同一性障害と共に生きる人々の会 九州支部長

カミングアウトした時にかけられて嬉しかった言葉は特にありませんが、(家族に)カミングアウトして本当の自分(女性)として生きるようになってからも、紆余曲折があったにせよ、いま現在もずっと一緒にいてくれて、そして一番間近で子供の成長を見続けることが出来ているのは何事にも代え難い最高の幸せですし、心より感謝しています。

 

椎太信さん 
福岡県在住
GID Link代表

友人たちにカミングアウトする時はとてもドキドキして、10日くらいどのタイミングでどんなふうに伝えるか非常に悩んだのですが、カミングアウトすると「あー、そんなん前からしっとったよ。だけん何?」と言われ拍子抜けしました。その時「だって、のぶはのぶやろ?性別なんか関係なくない?」と言われたことがすごく嬉しかったです。
僕らは何も悪いことはしていません。堂々としていてほしいなと思います。

隣のトランスジェンダーさん

よく当事者が使う「埋没」という言葉。トランスジェンダーではないかと探られることも、打ち明ける必要もなく、社会のなかに埋もれて生きるのが、多くの人にとっての理想だそうです。
悩みや課題だけは、決して埋もれさせることなく、社会で考えていくことができたらと感じました。

(2023年12月10日放送、「はっけんラジオスペシャル」から抜粋しました)
 

  • 廣瀬雄大

    福岡放送局アナウンサー

    廣瀬雄大

    2009年入局。
    高松・甲府・北九州を経て現局。「ザ・ライフ」キャスターを担当。

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