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音の先には・・・ 福岡・天神ビッグバンの裏側

  • 2023年12月12日

いま、福岡市の天神地区では〈天神ビッグバン〉という大規模な再開発工事が行われていて、街を歩くと工事の音があちこちから自然と耳に入ってきます。

この夏、福岡に転勤してきたばかりの私は、街を歩きながらふと思いました。
「音は聞こえるけど工事現場の中って見たことないな・・・どんな人たちが働いているんだろう?」

工事現場から聞こえてくる音の発生源を訪ねてみました。
(福岡局 カメラマン 中本祐太)

工事の音 街の人は?

音はするけど、中は見えない。でも、工事現場ってそういうものだよな。まずは街の人たちに、どう感じているのか聞いてみることにしました。

60代男性
「音と振動を感じますよね。工事の進行状況とか、つい見ちゃいますね」

50代女性
「10年ぶりに天神に来たんですけどすごく変わっていて、工事の音がすると活気を感じます。どんどん新しくなってくる気がします」

20代男性
「最近は工事の音ばっかりですね、いろんな音が聞こえてくるのが面白いです。どんなことしてるんだろうって、通りがかった時に中を見てみたいなって思います」

みなさん、福岡が地元でよく天神に来るという方たちでした。やはり工事のことは気になる様子。

天神地区 “福岡ビル”などの跡地で進む再開発工事

再開発工事の一つが、天神のランドマークとして“福ビル”の愛称で58年間親しまれてきた「福岡ビル」などの跡地です。2025年春に「オフィス・商業施設・ホテル」を備えた、地下4階から地上19階で高さおよそ97メートルの大型複合ビルとして開業する予定です。

今回特別にその工事現場に潜入させていただきました!

工事現場18階からの風景

一日の始まりの音は・・・

 

朝礼

♫~「きょうも安全で頑張ろう!」
最初に聞こえてきた音は、安全意識の再確認を呼びかける声。毎朝8時、職人たちが作業の流れを共有する朝礼から一日が始まります。

エレベーターでそれぞれの持ち場へ

ビルの解体から新しいビルの完成まで、およそ5年間の工事では、37業種・およそ3000人の職人が現場を出入りするそうです。この日も、1日で500人ほどが現場を出入りするということで、街で聞こえる音の裏側ではこれだけ多くの人たちが働いていることに驚きました。

現場に響く音の先には・・・

私も職人たちに同行して、エレベーターに同乗しました。すると・・・

♫~タターター⤴ タターター⤵

なんと聞こえてきたのは“ロッキーのテーマ” 

工事現場では、機械を動かすときに危険を知らせる音を鳴らすようにしているそうですが、「ささやかでも職人たちの活力につながってほしい」と、このエレベーターではブザー音ではなく、明るいメロディーを流しているといいます。複数あるエレベーターごとに流すメロディーを変えているそうです。

上の階に行くほど金属がぶつかる甲高い音や、ガシャンガシャンと人が鉄板の上を歩く大きな音が多くなってきました。その金属音の発生源をたどっていくと・・・

 

鉄筋職人

♫~「ガンッガンッ」「キンキンキン」

建物の強度を高める「鉄筋」を組む、鉄筋職人の姿がありました。あらかじめ計算された図面に沿って鉄筋どうしを結束したり、微妙な配置のズレを工具でたたいて調整したり、手際よく作業をしていました。

 

鉄筋の結束作業

組んだ鉄筋の上からコンクリートを流し込んで固める作業の時に、鉄筋の配置が悪いとコンクリートが割れる原因になってしまうそうです。職人の腕が問われるんですね。

張り巡らせた鉄筋を結束していく

およそ40年間、鉄筋職人として働いてきた男性に、どんな思いで作業をしているのかを尋ねると・・・

鉄筋職人

「鉄筋はコンクリートの中に隠れてしまう部分ではあるんですけど、やはり建物として残るので、その分はうれしく思います。昔のシンボルであった福ビルが生まれ変わることに携われるのは、誇りに思います

こうした職人たちの技と思いが、見えないところで私たちの生活を支えているんだなと感じました。

 

♫~「設計図とって、設計図!」

次に聞こえてきたのは、大きな作業音にも負けない声。

とび職人 足場作り

とび職人たちが、声をかけあいながらテキパキと足場を組んでいました。 

この現場で、とび職人の仕事は“他の職人が作業をするために必要な足場を組む”こと。工事の始まりから完成まで足場を作り続け、一番長い期間、現場に携わります。しかし作業が終わると組んだ足場は解体されるため、完成後の建物にその痕跡は一切残りません。

この現場を仕切るのはとび職人6年目の23歳。仕事にかける思いを聞いてみました。

とび職人
リーダー

「1番のやりがいは、他の職人からありがとうって言ってもらえることがやっぱり達成感があると思います。外見には残らないんですけど、自分たちがいないとこの仕事は成り立たないので、その辺は誇り持ってやってます」

とてもしっかりされていて、若くして現場を任されている理由がわかった気がします。
カメラマン5年目の私も、活力ある音にあふれたこの現場を伝えるためにいっそう気を引き締めて取材を続けました。

お昼休みは・・・無音?

 

正午 弁当販売の呼びかけ

♫~「お疲れさまです!お弁当いかかですか!」

あっという間に迎えた正午、工事現場の1階にはお弁当販売員の威勢のいい声が響き渡っていました。ほぼ毎日、ここでお弁当を販売しているとのこと。これから1時間の昼休憩が始まります。

私も昼食風景の撮影のため、少し遅れて職人たちの休憩所に向かいました。すると・・・

 

昼休憩

♫~「グー、グー」

こっちでも・・・
昼食はすでに終え、たくさんの職人たちが昼寝をしていました。

起こさないように・・・

起きている人や、やや遅れて昼食をとる人は周囲を起こさないようにしていて、工事現場とはまるで逆の“無音”の空間が広がっていました。

体を休めるのも大切ですね

午後の作業に備えて英気を養う職人たち。
ですが、中には休憩所を訪れない人も・・・

工事現場最上階 タワークレーン

♫~「ウゥーーーン」

それが、低い駆動音を響かせながらビルの屋上でタワークレーンを動かすオペレーターです。朝8時に上がったら午後5時まで降りず、食事も上で済ませるそうです。

タワークレーンオペレーター

直接話は聞けませんでしたが、カメラのレンズの先にその姿を見ることができました。街に響く工事音の裏では、大変な中でも一人一人の職人が任された役割を果たし続けているんだなと思いました。

夜通し聞こえる工事の音

日中働く職人たちは午後5時に作業を終えますが、夜にだけ働く職人もいます。

 

サッシ(窓枠)職人

♫~「ウイィーン」

夜静かになった現場では、大きな鉄の音の代わりにサッシ(窓枠)をつるすクレーンの音が聞こえてきました。日中は他の作業の妨げになるため、サッシの取り付けは夜にだけ行っているそうです。

大分県から単身赴任中というサッシ職人に話を伺ってみました。

大分県
から単身
赴任 サッシ職人

「外観が毎日少しずつ変わっていくのがわかるので、日中にそれを見るのが1番楽しみでもあります。大分県の家族には、自分が携わった現場だよって自慢にはなりますので、ものすごく家族も喜んでくれています」

 

夜 資材搬入のトラック

午前0時ごろ、人通りもほとんど無くなる街で聞こえてきたのは・・・

♫~ピーッ ピーッ ピピーッ

ガードマンの笛の音です。

トラックなどの大型車両の出入りをスムーズに行い、街ゆく人たちが危険なく通行するために、24時間交代しながら街の安全を守り続けています。

ガードマンの男性が、地元の福岡で建設に携わる思いを話してくれました。

ガードマン 

「自分が近所で生まれ育ってきて、天神には小さい頃からよく遊びに来ていました。僕が建てているわけじゃないですけど、この現場に関われているというのはすごく誇りに思いますね」

自分も職人たちみたいに・・・

「音は聞こえるけど見たことないなぁ・・・」から始まった今回の取材。工事現場で音の発生源をたどっていくと、一人一人の職人が、やりがいや誇りを感じながら作業していることを知ることができました。

この取材を終えてからも、福岡の街を歩くとあちこちから工事の音が聞こえてきます。建設中の建物だけでなく、私がいま働いている職場、学校や自宅など、日々当たり前に過ごす場所も、取材で出会った職人たちのような人が作り上げたのかもしれませんね。

見えないところで誰かを支えているカッコイイ職人たちのように、私もどこかで誰かの力になれるように日々頑張っていきたいと思います。

  • 中本 祐太

    福岡放送局 報道カメラマン

    中本 祐太

    兵庫県西宮市出身。2019年入局。盛岡局→岩手・大船渡支局→今年8月から福岡局。実は以前祖父母の家が福岡(姪浜)にありました。小学生ぶりの天神、歩行者信号の音が懐かしかったです。

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