姉妹で世界に挑む! デフバドミントン選手・紋可と真衣
- 2023年10月10日
世界に挑む姉妹の3か月に密着!
音のない世界で生きる姉妹がいます。
姉の矢ケ部紋可さん(21)と妹の真衣さん(19)です。
2人は聞こえない人のバドミントン、“デフバドミントン”のトップアスリート。
姉妹で組むダブルスは国内トップレベルです。
2人は、お互いについてこのように語っています。
姉・紋可さん
「(妹と)1+1=2みたいな」
妹・真衣さん
「一番身近にモチベーションを保てる相手がいることです」
目標は、2025年東京で開かれるデフリンピックで金メダルを取ること。
しかし、この夏姉妹に大きな試練が待ち構えていました。
世界を目指す2人にどんな困難が・・・?
壁に立ち向かう姉妹の3か月に密着しました。
姉妹の目標は“世界の頂点”
福岡の大学に通う、
矢ケ部紋可さん(21)と真衣さん(19)。
2人の取材を始めたのは、6月下旬でした。
2人の目標は、2025年に東京で開かれる国際大会、デフリンピックでのメダル獲得。
デフリンピックは4年に1度開催される聞こえない人のオリンピックと言われています。
姉妹は、そのデフリンピックに向けた第一歩として7月、ブラジルで行われる世界選手権で表彰台を狙っていました。
姉妹のダブルスのプレースタイルは、
「守りの姉と攻めの妹」。
姉・紋可さんが粘り強く守り、相手の隙を突いて妹・真衣さんがスマッシュを決めます。
プレーだけでなく、性格も異なります。
姉・紋可さんは優しい性格。一方、妹真衣さんは負けず嫌いな性格です。
そんな姉妹でダブルスを組み、これまでに国内で2度の優勝を果たすなど、息の合った2人で結果を残しています。
姉妹の武器は“コミュニケーション”
デフバドミントンは補聴器を外すのがルール。
試合中、打球音が聞こえないため、シャトルの方向や相手の動きをとらえて、素早く反応することが求められます。
特に難しいのはダブルス。
お互いに声を掛け合うことができないため、ペアの連携がうまくとれず、ぶつかってしまうこともあります。
そのためプレー以外でのコミュニケーションが重要となります。
2人の強みは、家族ならではの使い慣れた手話で、頻繁に話し合い、作戦を立てることです。
コートでは手話で作戦を練る姉妹の姿が度々見られました。
7月の世界選手権を目前に控えたこの日。
強化指定選手の合宿で、練習を終えた妹・真衣さんはこう語っていました。
妹・真衣さん
「世界大会(世界選手権)も今のまま勝てると思うので、このまま頑張っていきたいと思います」
バドミントンと共にあった姉妹の絆
2人の耳が聞こえない事がわかったのは姉・紋可さんが3歳、妹・真衣さんが2歳の時でした。
姉・紋可さんが小学1年生の時、バドミントンサークルに出会います。妹・真衣さんも、その後を追いかけるようにバドミントンを始めました。
妹・真衣さんは、聞こえる人ともバドミントンの練習を重ね、小学生の時から数々の成績を残します。
姉・紋可さんは、コツコツ練習し、高校2年生で日本デフバドミントンの強化指定選手に選ばれました。
姉妹で初めてペアを組んだのは2年前。国内では2度のメダルを獲得しています。
2022年のデフリンピックでは、準決勝を迎えて「メダル確実」と言われていました。
しかし、新型コロナウイルスの影響で、日本選手団全員の帰国が決まり、試合は途中棄権となりました。
このデフリンピックの悔しさから、2023年7月の世界選手権は、「姉妹でのダブルスで、どうしても勝ちたい」と考えていたのです。
世界の表彰台への壁
そして迎えた世界選手権。開催地はブラジルでした。
まず、妹・真衣さんは、19歳以下を対象としたユース部門に片山結愛(ゆめ)選手とダブルスを組んで出場します。片山さんとのペアは初めてでしたが、世界の強豪を次々と倒し、優勝を果たします。
その勢いで、年齢制限のない部門での姉妹のダブルスも優勝を狙いました。
2人のダブルスは順調に勝ち進み、ベスト4進出を懸けた準々決勝。台湾との戦いです。
メダルを目指して挑んだ2人でしたが・・・姉・紋可さんの守りは突破され、妹・真衣さんの攻めも封じ込められます。
この試合の結果を受けて、姉妹のダブルスはペア解消も含めて検討することになりました。
世界の頂点に立つために、もがく2人
世界選手権後、9月初めに熊本で行われた練習を取材しました。
ペア解消への可能性を突きつけられていた2人。この日はそれぞれの思いを抱えながら練習にのぞんでいました。
目が合わない2人。プレーの合間の会話が少なく、2人に少し距離がありました。
妹・真衣さん
「(姉はプレーの合間に意見を)もっと言ってほしい。途中で言いました。もっと思ったこと言ってと。いつも言わない」
姉・紋可さん
「ちょっと引け目になってるところがあるから、もうちょっと積極的に話せるように頑張ります」
後日。カレーが好きな姉・紋可さんが以前から気になっていたカレー屋さんに、2人で訪れることになりました。はじめは何気ない会話でしたが話題はペアの事へ。
妹・真衣さん
「大会があるからね、12月に。2人で(ペアを組んで)やりますか?」
姉・紋可さん
「12月はどっちにしろペアになるか決まってないでしょ。ペアは別々になるかもしれないし、一緒になるかもしれないし。そこは誰にもわからないでしょ。だからとりあえずそれぞれ技術を磨いていくしかないと思う」
手話でのやりとりからは、本音を語り合い、時折姉妹ならではの気遣いの様子も感じられました。
2人は9月の国内大会のダブルスでもう一度ペアを組みベストを尽くそうと決めていました。
姉妹のダブルスでもう一度優勝を
9月11日。福井県で行われた全国ろうあ者体育大会。全国各地からおよそ70人のデフバドミントン選手が集まりました。
優勝を目指して試合に挑む姉妹のダブルス。順調に勝ち進みます。
2人の間の頻繁なコミュニケーションも戻っていました。
姉・紋可さんの粘り強い守りと、妹・真衣さんの鋭い攻めで、相手を圧倒。
連戦連勝で、見事優勝を決めました。
妹・真衣さん
「2025年で優勝できるように、また世界大会でいろいろ成長できた部分が2025年の結果につながるように頑張りたいと思います」
姉・紋可さん
「(2025年まで)残り2年間しかないので。8月(世界選手権後)からトレーニングを始めているのでそれをこれからもちゃんと続けていきたいと思います」
姉・紋可さんは環境を変えようと来年春福岡を離れます。妹・真衣さんは大学に通いながら練習に励む決意です。
バドミントンの道を歩む姉妹の挑戦は続きます。
(NHK福岡放送局ディレクター 吉冨綾野)