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中世の港の名残り?「石積み」遺構の調査始まる【対馬 矢櫃】

対馬の矢櫃(やびつ)で始まった水中調査 最新技術で「港」の構造を明らかに
  • 2023年10月12日

古くから朝鮮半島との交流の窓口だった長崎県の対馬。
その対馬の北部、「矢櫃(やびつ)」という場所の海岸にはあわせて長さ300メートルほどの「石積み」が残されています。
今は誰も住んでいないこの土地にいつ、なんのために「石積み」が造られたのか、詳しいことはわかっていません。この謎を明らかにしようと、9月中旬から下旬にかけて水中考古学の研究者や海洋調査会社による大規模な調査が行われました。(NHK福岡放送局 館岡篤志)

対馬「矢櫃(やびつ)」とは?

室町時代から江戸時代にかけて 朝鮮半島から対馬に訪れていた外交使節団「朝鮮通信使」。彼らが寄港した港の一つが「矢櫃」だったといわれています。「矢櫃」は対馬の北部、複雑に入り組んだ入り江にあり、風や波の影響を受けにくい場所です。周りは山に囲まれ、手つかずの自然が残されています。調査に同行して訪れた時は鹿の群れが悠々と歩いていました。

海の中の「石積み」

海中まで続く「石積み」遺構

海岸のあちこちにで見られるのが「石積み」の遺構。現在確認できるのは全部で300メートルほどです。「水中ドローン」を使って海の中をのぞいてみると、深いところで水深4メートルから積み上げられていました。場所によって石の大きさやが積み方が違っていて、ところどころ崩れた場所もあります。そのような場所は小さな魚たちの格好のすみかになっていました。研究者によると、この「石積み」は船をつけるための港の一部だったのではないかと考えられています。しかし完全に水没している「石積み」も多く、実際にどれだけの長さがあるのか、全体がどのような形なのか把握することは困難です。

海岸沿いにある「石積み」
水没した「石積み」

最新技術で水中の「謎」に挑む

9月の中旬、アジア水中考古学研究所と静岡県の海洋調査会社が協力して、海に沈んだ「石積み」の調査が行われました。研究者が水深約3メートルに潜って、真上や斜めから切れ目がないように撮影していきます。使うのは3つのカメラをつなげた最新の観測機器。潜水時間が限られる中で、一度に様々な角度から映像を撮ることができるといいます。

水中調査の様子(映像提供:アジア水中考古学研究所)

この映像を「フォトグラメトリー」という手法で処理すると、海底の「石積み」を立体的に見ることができる3Dモデルができあがります。一つ一つの石の形や積まれ方を様々な角度から詳細に観察することができるのです。海洋調査会社「ウインディーネットワーク」の阪本真吾さんによると、どのような石がどのような方法で積まれたかわかれば、造られた年代を類推する資料になるということです。例えば、これまでに陸上で発見された中世の「石積み」と同じ積み方であれば、「矢櫃」の「石積み」も中世で造られた可能性が高くなります。対馬博物館の尾上博一学芸員によると、全国でも中世の港の遺構はほとんど存在せず、「矢櫃」が中世の港であるとすれば、当時の朝鮮半島との交易を知る上で貴重な遺構になるとのことでした。

「石積み」遺構の3Dモデル(映像提供:ウインディーネットワーク)

「矢櫃」の歴史を明らかに

今の「矢櫃」周辺には人が住んでいた痕跡がほとんどありません。しかし、これだけ大量の石が積み上げられていて港があったとすれば、そこには人の営みがあり、朝鮮半島との交易の場であった可能性が考えられます。アジア水中考古学研究所の林田憲三理事長は、今後は発掘調査などを行い「矢櫃」がいつから存在し、どんな歴史を持つのかを紐解いていきたいと話しています。

アジア水中考古学研究所 林田憲三理事長

最新の手法を使って水中を詳しく調べて復元図を作り、「矢櫃」の港のかつての姿が明らかになれば、いつの時代に造られ、どのように利用されてきたかの解明につながってくると思います。私たちは普段陸上で生活していますが、海辺にもこうして人が生きた証があるということ、歴史があるということを多くの人々に知ってもらいたいと思います。

(取材を終えて)
陸上だけでなく、水中にも続いていた「石積み」。今回「水中ドローン」で見た限りでも、ものすごい数の石が積まれていました。どれだけの時間と労力がかけられたのか想像もつきません。普通の港は使われていくうちにどんどん新しくなっていきますが、「矢櫃」は歴史から忘れ去られ、手つかずのまま残っていました。この「石積み」遺構は我々に何を語りかけてくるのか、今後も取材していきたいと思います。

  • 館岡篤志

    NHK福岡放送局

    館岡篤志

    潜水カメラマンとして
    全国の海を取材

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