ソリッドモデル 飛行機を愛し歴史を残す仲間たち 福岡
- 2024年03月25日
ソリッドモデル 材料はほとんど木
ひとり、自分だけの空間で模型作りに集中する男性。木材のパーツを取り付けると、色あせることのない憧れとワクワク感に満ちた過去の記憶が、すこしずつ形になっていきます。
1/32のスケールで作られた精密な航空機。四式重爆撃機 「飛龍」です。金属のような質感ですが、材料のほとんどは木材で”ソリッドモデル”と呼ばれています。
国内でプラモデルが広く普及する1960年代以前は、趣味の模型づくりといえばソリッドモデルが主流で飛行機の組み立てキットも市販されていました。
その後、プラモデルの人気が高まるにつれて、ソリッドモデルを作る人は少なくなりましたが、今も、先人たちの技術を受け継ぎ、後世に残していこうとソリッドモデルづくりを続ける愛好家たちがいます。
大刀洗平和記念館で常設展示
福岡県筑前町にある筑前町立大刀洗平和記念館。航空機の開発の記録や歴史、そして、平和への願いを伝えるこの施設は、航空機のソリッドモデルとつながりがあります。
記念館があるこの場所には、大正8年から終戦まで、旧日本陸軍が東洋一と誇った大刀洗飛行場がありました。
飛行学校や航空機の製作所も備えた陸軍の航空拠点でした。
この館内に、大刀洗飛行場にゆかりのある機体のソリッドモデルを常設展示するコーナーがあるのです。
模型とともに当時軍の航空機の開発や製造を担っていた渡辺鉄工所(のちの九州飛行機)や大刀洗航空機製作所などに関連する資料も合わせて展示されていて、それぞれの飛行機が空を飛んでいた時代背景を学ぶことができます。
精密に再現された模型は、機体の細かい造形まで見ることができます。いくつか紹介していきましょう。
下の写真は、大刀洗陸軍飛行学校で使われた四式基本練習機ユングマン(海軍名:紅葉)です。
尾翼には大刀洗を表す「大」のマークがあります。
福岡エアロレプリカクラブ
この模型を製作したのは「福岡エアロレプリカクラブ(FARC)」の会員たちです。
平均年齢(令和5年)は74歳。
福岡県を中心に活動し、山口県や鹿児島県から参加する会員もいます。
2か月に1回程度、定例会を開き、製作途中の機体を持ち寄って意見交換をしています。
(北九州から参加の葭田靖夫さん)
大刀洗平和記念館に行ったとき模型を見て、わー、これはやりたいなと思ったのです。
(山口県から参加の中司宏さん)
ソリッドモデルづくりは、中学2年生のころからやっていたんですよ。
飛行機が好きなもんだから、航空自衛隊にも入りました。
(鹿児島から参加の中島正宏さん)
これくらいできると、こうやって、ぶーん、と飛ばしたくなるのですよ。
伝統を受け継ぐ仲間たち
福岡エアロレプリカクラブは、飛行機を愛する仲間たちが集まり、1955年(昭和30年)に「碧南会」として設立されました。
その後「碧雲会」、そして「福岡エアロソリッドモデルクラブ」と名称を変え、平成7年に現在の「福岡エアロレプリカクラブ」として活動を続けています。
原点となる会の発足から数えると、およそ70年の歴史があるクラブです。飛行機への深い愛が仲間を増やし、模型作りが続けられてきました。
どうやって作る?
本物そっくりで、夢と憧れが形になった航空機の模型。福岡エアロレプリカクラブの渡辺孝会長に、ソリッドモデルの製作のおおまかな流れを見せていただきました。
はじめに、機体を正面と上、横から見た形の三面図を用意します。
材料は、朴の木(ホオノキ)を使うことが多いです。丈夫でとても削りやすい木材です。
図面から作った型紙にあわせて、木材を削っていきます。
部品の作り方は人それぞれです。
ひとつの機体を製作するには、短くて3か月、長ければ1年ほどかかることもあるそうです。
何もないところからスタートしますので、難しいのですが、図面をみながら形を作り上げるのは楽しいですね。
飛行機が語る地元の歴史
渡辺さんが、クラブに入会して初めて作ったソリッドモデルは、アメリカ軍の戦闘機「Fー100D」です。福岡エアロレプリカクラブが「板付飛行場」を会員共通のテーマに決めて、同じ機体の製作にチャレンジした時の記念すべきモデルです。
戦後、アメリカ軍は現在の福岡空港を接収し、板付飛行場として使用していました。
1950年(昭和25年)に朝鮮戦争が始まると、板付飛行場はアメリカ軍の戦闘機の出撃拠点になりました。
「Fー100D」は当時配備されていた機体のひとつです。
歴史の目撃者も
福岡エアロレプリカクラブの市岡禮助さん(いちおか・れいすけ)は、高校2年生の時に板付飛行場で目にした光景が忘れられないといいます。
駐機場に、Fー100戦闘機が80機ほど駐機していました。そこから、Fー100戦闘機が滑走路の南端を延々と牽引されて来ました。その後、フェンスのゲートを出て、県道を横断して、機関砲の射撃調製場所まで移動したのです。
市岡さんは機関砲の発射を見ようと1時間ほど待ちましたが、あきらめて離れた直後に「どどーどーん」という大きな発射音を聞きました。
牽引された機体が県道を横断して、フェンスや囲いがない場所で、機関砲を丘に向かって発射していました。
今では、考えられないことですね。
地元にゆかりのある飛行機に強くひかれるという市岡さんは、板付飛行場で運用された歴代の機体をソリッドモデルで再現しています。
市岡さんは、ソリッドモデルを作るだけではなく、CAD(コンピューター利用設計システム)を使って、板付飛行場に関わる機体のイラスト集を作成しています。機体のマークやシリアルナンバーなどを調べて図面に描くことで、実在した飛行機の詳細を記録に残そうとしているのです。
かつては朝鮮戦争の頃の情報を手に入れることは困難でしたが、インターネットが発達したことで、航空機部隊の移動先や写真などの詳しい情報を集めることができるようになったといいます。
市岡さんは、板付飛行場に関わるすべての機体のイラストを完成させたいと張り切っています。
福岡の板付飛行場は、最前線で最重要地でもあったわけですよね。こうした時代の飛行機を少しでも形にして残して、皆様に知っていただきたいと思っています。元気なかぎり作り続けます。
ソリッドモデルの魅力
福岡エアロレプリカクラブでは、2年ごとに、作品の展示会を開いています。2023年11月に福岡市内で開かれた展示会には56機の力作が集まりました。
2日間でおよそ200人が来場し、ソリッドモデルの精密な出来映えに驚いたり、機体の特徴について語り合ったりしていました。中にはソリッドモデルの作り方を学びたいと、クラブに入会を希望する人もいたそうです。
福岡エアロレプリカクラブでは、一緒にソリッドモデルを作る仲間を募集していて、初心者にも優しく丁寧に製作方法を教えてもらえるそうです。定例会の開催日と場所は、ホームページで公開されていていますので、興味がある方は、一度、見学してみてはいかがでしょう。
(問合せ先)
福岡エアロレプリカクラブ (HPあり)
筑前町立大刀洗平和記念館
住所 福岡県朝倉郡筑前町高田2561-1 電話 0946-23-1227
(取材・撮影)NHK福岡コンテンツセンター 田村威浩