ページの本文へ

読むNHK福岡

  1. NHK福岡
  2. 読むNHK福岡
  3. 福岡空港の中の米軍基地

福岡空港の中の米軍基地

 知られざる安全保障のリアル
  • 2022年11月15日

福岡空港は、かつてアメリカ軍基地だった

そして今も、アメリカ軍施設が残されている

「アメリカ軍板付基地」

広大な敷地の中で目立たない施設だが、その歴史と現状を取材すると見えてきたのは

九州・沖縄をとりまく安全保障のリアルだった
(福岡放送局・西牟田慧)

かつて“極東の要石”だった福岡空港

その“基地”は、福岡空港の滑走路脇にたたずんでいる。

国際線ターミナル南側の一角にある白い壁に赤茶色の屋根の建物が「アメリカ軍板付基地」だ。

米軍板付基地(画面奥)

出入り口には「AMC AIR TERMINAL」の文字。AMCは、アメリカ空軍の輸送機部隊「航空機動軍団」の略称だ。

民間空港の敷地内にアメリカ軍の専用施設があるのは、日本でここだけ。ふだん民間機が離着陸している滑走路なども、日米地位協定にもとづき、アメリカ軍との共同使用区域とされている。

“基地”といっても、防衛省によると、現在、空港の中にあるのは倉庫など。部隊が常駐している訳でもなく、ふだんは無人だという。

しかし、半世紀前までは、空港全体が「板付飛行場」と呼ばれるアメリカ軍の基地だった。

周辺には弾薬庫や住宅地区なども整備され、広大な基地を形成していた。

板付基地は、1950年に始まった朝鮮戦争では、爆撃機などの出撃拠点となった。
1960年代のベトナム戦争でも使われた。

かつての基地を良く知る人に話を聞いた。
大野城市に住む元航空自衛官の田中泰彦さん(85)。
60年代におよそ5年間、基地の管制施設などでアメリカ軍とともに勤務したという。

板付基地勤務当時の田中さん(中央下)

元航空自衛官 田中泰彦さん(85)
「『キーストーン オブ ザ ファーイースト』という文字が建物に書いてあったのは、記憶に残っているんです。要は、“極東の要石”ということですよね。戦闘機のF-100やF-102、F-105の部隊も板付に展開してきました。ファントム(戦闘機/偵察機)も、飛行隊ごとにローテーションで展開してきた。沖縄の嘉手納や、フィリピン、韓国にも空軍基地はありましたが、板付がアメリカにとって極東地域における要衝の1つだったことは、間違いない」

基地の負担も…そして返還へ

軍用機の発着が日夜繰り返される中、周辺では基地あるが故の事件や事故も相次いだ。

福岡市の資料では、戦後、アメリカ軍機の墜落や炎上などの事故やトラブルは100件以上発生し、犠牲になった市民は20人に上ったという。

なかでも基地の負担を象徴する出来事として語り継がれているのが、1968年、板付基地に向かっていたアメリカ軍のファントム機が当時の九州大学箱崎キャンパスに墜落した事故だ。

ファントム機墜落事故(1968年)

墜落したのが建設中の校舎で日曜日の深夜だったため、奇跡的にけが人はいなかった。

しかし、平日であれば多くの学生でにぎわう大学のキャンパスのど真ん中に軍用機が墜落した事実は、多くの市民に衝撃を与えた。

田中さんは、この事故が起きた直後、抗議活動を警戒したアメリカ軍からの依頼で現場の確認に行ったと、取材に明かしてくれた。

自衛官だとわからないよう私服に着替えた上で、機体を基地まで輸送することになった場合に備えて、障害となりそうな電線の高さなどを測って回ったという。

事故をきっかけに基地の撤去を求める声はかつてなく高まり、4年後、板付基地の大部分が日本に返還された。

1972年。今からちょうど50年前のことだ。

返還の一報に接したとき、田中さんは「必然」だと感じたという。

元航空自衛官・田中泰彦さん(85)

「返還は時代の流れだろうというのはわかっていました。板付以外にも、本土の基地が逐次、返還されていましたから。それに、日本が主権国家である以上、米軍基地が整理縮小されるというのは、ある意味では当然のことですからね」

変わったこと 変わらないこと

板付基地に配備されていた部隊は、同じ年に本土に復帰した沖縄県の嘉手納基地に移転。

沖縄ではこの50年間、アメリカ軍の運用のあり方や基地あるが故の事件事故が、社会の課題であり続けている。

一方、板付基地の大部分が返還された福岡。
冒頭で紹介したようにいまも空港の一角にアメリカ軍施設がのこされているが、市民がふだん基地の存在を意識することは、ほとんどないと言って良いだろう。

返還によって誕生した福岡空港の2021年の旅客数は羽田に次いで全国2位と、国内トップクラスの基幹空港へと発展した。

過去に福岡空港に飛来した米軍機

しかし、多くの市民が意識しづらくなっただけで、福岡空港は今もアメリカ軍にとっての重要な軍用拠点でありつづけている。

国土交通省によると、去年、福岡空港で確認されたアメリカ軍機の着陸は71回。
これは、全国の民間空港の中で最も多い数字だ。

物資や人員の輸送拠点として活用されているほか、過去には在韓アメリカ軍が朝鮮半島有事に備えた民間人退避の訓練にも使っている。

米空軍が発表した資料

さらに近年、民間空港の軍事的な重要性が増しているという指摘がある。

「ACE」と呼ばれるアメリカ空軍の“新たな戦い方”を整理した文書には、こう記されている。

「空軍基地はもはや敵の攻撃を免れる聖域ではない」。

中国などがミサイル能力を向上させる中、1つの基地に航空機や物資を集中させると、そこを敵に狙われて「総崩れ」になるリスクがあるとして、基地機能の分散や機動的な運用の重要性を指摘。

その具体策として掲げられているのが、「民間空港」の活用なのだ。

防衛省関係者に取材したところ、これを日本に当てはめた場合、九州、特に福岡は重要な拠点になると語った。

防衛省関係者
「もともと福岡は、朝鮮半島有事に備えたアメリカ軍の計画で物資輸送や民間人退避の重要な拠点と位置づけられてきた。これは台湾有事の際にも援用されると考えてよいだろう。台湾や南西諸島から“近すぎず遠すぎない”ほか、アメリカ軍の重要拠点である佐世保や岩国へのアクセスも容易で、なおかつインフラも整っているからだ。情勢が切迫すれば、自衛隊の基地とともに福岡空港も活用されるだろう」

福岡県や福岡市でつくる協議会は、長年、基地の全面返還を求め続けている。

市によると、去年行った陳情に対しアメリカ側の担当者は、
「板付基地は九州地区の輸送の拠点で、現時点で返還の予定はない」
と回答したという。

安全保障の最前線で

海洋進出を強める中国を念頭に、日本周辺を含むインド太平洋地域で軍事的な活動を強化するアメリカと、足並みをそろえる同盟国・日本。

今、九州・沖縄の各地で、基地機能の強化や、これまでにないアメリカ軍や自衛隊の活動が行われるようになっている。

米中対立の最前線となった九州・沖縄で、何が起きているのか。

私たちの住む地域にある“基地”は、何のためにあり、中で何が行われているのか。

改めて目を向けるべき時が来ているのかもしれない。

ページトップに戻る