ページの本文へ

読むNHK福岡

  1. NHK福岡
  2. 読むNHK福岡
  3. 「タカガールデー」→「ピンクフルデー」どうして??

「タカガールデー」→「ピンクフルデー」どうして??

ソフトバンクホークス名物イベントの名称変更をめぐって…
  • 2023年02月03日

【「タカガールデー」名称変更】
プロ野球・ソフトバンクが女性の集客を図ろうと実施してきたイベント「タカガールデー」。
この名称を性別を問わず楽しめるよう刷新するとして来シーズンから「ピンクフルデー」に変更することになりました。 

2022年「タカガールデー」の試合

ソフトバンクは、男性が中心だったプロ野球の客層を広げようと女性を集客するイベントとして2006年から「女子高生デー」を始め、女子高校生限定でピンク色のユニフォームを100円で販売するなどのサービスを実施してきました。

2014年からは高校生だけではなく世代を問わず女性の集客を図るイベントとして「タカガールデー」を実施し、当初は来場した女性ファン全員に、2020年からは性別を問わず来場したファン全員に、ピンク色のユニフォームを無料で配ったり、ピンク色を取り入れた応援グッズを販売したりしてきました。

一方、選手はピンクを基調にしたユニフォームで試合に臨み、真剣勝負を華やいだ雰囲気が包むイベントとなってきました。
「タカガールデー」は年に2回前後行われ、新型コロナウイルスの影響で観客の人数制限が設けられた2年を除いて、いずれも球場の定員の95パーセントを上回る「満員御礼」となり、人気を博してきました。

球団の調べによりますと女性客の比率は2017年の78%がピークで4分の3を超えていましたが、去年は1回目が62%、2回目が61%と低下する傾向にありました。
さらにイベントについて▼名称がジェンダーへの配慮に欠ける、▼ピンクが女性の色とは限らないといった意見が寄せられていました。

球団では、イベントが球界において女性ファンの取り込みを図る先駆的な役割を果たしてきたとしている中、性別を問わず楽しめるよう名称を刷新するとして、インターネットで名称の案を募集しました。

1545件のアイデアが寄せられ、選考の結果、「性別によって参加者を排除せず、イベントの内容を想像しやすい」として「ピンクフルデー」に名称を変更することになりました。


【球団ではさまざまな議論が】

名称変更を検討する会議で、球団の担当者は、名称の候補とそう名付けたい理由の1つ1つに目を通して、自身の「推し」を発表していきました。

2022年11月に行われた社内会議

1番いいなと思ったのは、「ピンクリボーンデー」。生まれ変わるという意味の「リボーン」。タカガールデーは今まで新しいことをやってきたと思うので、今回、新しく生まれ変わるところが適している。

今までになくて面白いなと思ったのは、MOMOTAKAデー。もも色と鷹(鷹=ホークス)が両方入っていて今までにないアイデアだと思いました。

「ハッピー(HAPPY)」とか「ホープ(HOPE)」を入れるのはどうでしょうか。ホークス(HAWKS)は頭文字が「H」なので、頭文字の「H」を活用してもいいかと思いました。

キーワードとしてハッピーとかハートフルとかは多くの人に受け入れられるだろうなと思いました。

性別を問わずみんなが参加できるイベントにしていきたいですが、イベント名でどんなイベントなのかある程度は想像がつく方がいいと思います。

長く愛される名称にしたいです。ターゲットを絞るような名前だと広がりが持てなくて、また名前を変えようということになる。

とはいえ、女性にはやっぱり多く来てほしいんですよね…。

議論を進める球団職員たち

白川隆志マーケティング本部長は、「タカガールデー」や前身の「女子高生デー」を企画してきました。今回の名称変更の責任者です。

白川隆志 本部長
福岡ソフトバンクホークス マーケティング本部 

白川本部長
「誰かを排除するような名称になっていないか、すごく悩んで議論した。ピンクは非日常感やワクワク感を出せる色だと思っている。勝敗に関係なく楽しんでほしい、ピンクに満ちた球場、楽しさいっぱいの球場にしたいという思いで『ピンクフルデー』に決めた」


【“ダサピンク”って知っていますか?】
今回の名称変更はどういった意義があるのでしょうか。

福岡市にあるコンサルティング会社の社長で、社会や経済活動におけるジェンダーの問題に詳しい高見真智子さんに聞きました。

高見さん
「今後は性別という軸だけではなく、年齢、ライフスタイルを含め、さまざまな軸でマーケティングをとらえなおすことが顧客をつなぎとめることになる」

高見真智子さん
株式会社サイズラーニング 社長

取材中、高見さんから、記者はこんな質問を受けました。

高見さん
「“ダサピンク”の話を知っていますか?」

皆さん、ご存じでしょうか。私はそのことばに初めてふれました。

高見さん
「女性に対して、ピンクのものを押し付けたり、そういう立てつけになっていたりすること自体に違和感を持つ世代や価値観もある。女性と色を固定的にとらえているキャンペーンや企業に対して“ダサピンク”ということばを発信している人たちがいる。少し前までは『女性=ピンクだと気に入ってくれて、客を集められる』というようなステレオタイプな見方をしてもマーケティングが成功していた時代があった。今は、それぞれの世代や属性の価値観を理解して、その生き方を応援するような発信ができないマーケティングは成功しない」


【スポーツ業界のジェンダー問題】

元サッカー選手で、現在、順天堂大学スポーツ健康科学部でスポーツとジェンダーの関係について研究している野口亜弥助教です。

名称の変更だけではなく、どのようなイベントの内容になるのか、企画、立案の段階から多様な視点で議論していくことが重要だと指摘しました。

野口亜弥 助教
順天堂大学スポーツ健康科学部

野口助教
「イベントの中身も抜本的に見直して多様性を考えてやっていこうという話なのかどうなのかが、名称変更だけではわからない。どんな人がイベントを企画しているのか、誰がピンクのユニフォームを配るという意思決定をしているのか、その中に女性たちを含め多様な意見が入っているのかといった、意思決定のプロセスを深く見る必要がある」

さらに、スポーツ業界は男性優位、さらに異性を愛する男性が多くを占める中で、知らず知らずのうちに偏った見方をしていると指摘します。 

野口助教
「スポーツ業界では異性愛の男性の視点で魅力的だと思われる女性像が期待されてしまうことはよくある。そもそもスポーツ業界に関わる人たちは圧倒的に男性が多く、女性に機会を与える状況やシステム、ルールになっていたのかというところはこれまでもずっと課題だ。男性側も自分たちが作ってきたものが偏っていると気づかないといけない」


【みなさん、どう思いましたか?】

今回、NHKで「タカガールデー」の名称変更について報じると、ネット上ではさまざまな意見が寄せられました。

「そこまで配慮が必要なのか?」

「そもそも『タカガールデー』という名前の何が悪いの?変える意味がわからない」

「この動きには賛成。球団の姿勢は評価する」

「いったい何に配慮しているのか」

プロ野球では、「レディー」や「ガール」といった名前をつけ、ピンクのユニフォームやグッズを配布・販売するといったイベントを展開してきました。

イベントの名称はもちろん、内容について、固定的な観念にとらわれず、一度立ち止まって考え直す時が来ているのかもしれません。

  • 中村成吾

    NHK福岡

    中村成吾

    奈良県出身 2020年入局 2021年から福岡のスポーツ取材を担当

ページトップに戻る