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運動部に異変!?福岡でも下がる入部率

全国のおよそ8割で今年度過去最低に、一体何が?
  • 2022年12月26日

「部活」と聞いて、汗水流し、勝つ喜びも、負ける悔しさも仲間と分かち合う、
そんな運動部のイメージが頭に浮かぶ人も多いのではないでしょうか?

でも、その運動部に入る中学生の割合が今年度、
福岡県を含む全国の37道県で過去最低になったことが分かりました。

いったいなぜ?背景を取材しました。
(福岡放送局記者 福原 健)

下がる「入部率」

「運動部」と言えば、いわゆる「スポ根」のイメージを持つ人も少なくないのではないでしょうか。

私も中学生の時は野球のクラブチームに入りながら、平日は学校の陸上部で活動する
「運動ガチ勢」でした。

しかし、今、その運動部に大きな変化が起きています。

今回、NHKは、各都道府県の中学校体育連盟などへの取材をもとに、野球やサッカーなどおよそ30競技の運動部に入っている中学生の数を調査し、全体の生徒数と比較して、割合を「入部率」として算出しました。
その結果、全国平均は下がり続け、今年度は59.6%と、初めて60%を割り込んだことが判明。

全国平均の推移

正確な記録が残る2006年度以降で見ると過去最低でした。

さらに、都道府県別で見ると、福岡県を含む37の道県で今年度が過去最低という結果に。
実に8割近くにのぼり、全国的に「運動部」離れが進んでいることが分かりました。

※都道府県ごとの入部率は文末に掲載

「なぜこんなに減少が続いているのか?」

各地の教育委員会などから多く聞かれたのが「少子化」でした。
生徒数が少なくなることで、特にチームスポーツが成立せず廃部になったり、教員数が減ることで運動部の顧問を担う教員がいなくなり、活動を維持できなくなったりするケースも増えているといいます。

クラブチームが人気!?

一方、「少子化」だけが背景ではありません。
入部率が54.6%で過去最低だった福岡県では、運動部よりも“人気なもの”があるといいます。
 

福岡市内で活動するサッカーのクラブチームです。
およそ70人の中学生が所属していますが、その多くが中学校のサッカー部を選びませんでした。

どうしてでしょうか?

中学3年生
「迷わずにクラブチームを選びました。学校の部活動ではできない練習ができるし、指導者も部活の先生と違って、教え方が上手なので」

中学1年生
「学校のサッカー部と迷いました。でも自分が上手くなるためには、もっときつい練習を重ねたほうがいいと思いました」

中田雄一郎さん

チームの代表を務める中田雄一郎さんにも聞いてみました。

中田さんによると、個々の能力に応じたきめ細やかな指導を受けられるクラブチームは、
子どものニーズに合わせようと競争が激化しているといいます。

実際に福岡県では、サッカーのクラブチームがこの20年で2倍に増えています。

中田さん
「学校だと、その競技の専門の部活の先生が何年もいるわけではないので。ことしは担当していたとしても、来年わからないという不安がある。そういう意味でも選ばれるところがあったのかなと思う」

入部率左右する「加入方式」

「なぜ学校に部活動があるのに、同じ競技のクラブチームを選ぶのか?」

教育と部活動に詳しい名古屋大学大学院の内田良教授は、部活動への加入が「任意」であることが大きいとした上で、そうした加入方式が入部率を左右していると指摘します。

名古屋大学大学院 内田良教授

内田教授
「そもそも部活動というのは生徒の自主的な活動により成り立つものと定められているにもかかわらず、半ば強制的に参加させられている。この数年は部活動の加入の仕方を見直す動きに、教員の働き方の問題も加わってきて、指導者も、参加する生徒も本当にやりたい人が参加するという流れが始まっている」

福岡県では、長年、部活動への加入が「強制」でなく「任意」となっていて、
運動部の入部率も低い水準で推移しています。

つまりこの「任意加入」という仕組みが、クラブチームやそのほかの校外活動に参加しやすい環境を
作り上げているというのです。

「強制」見直す東北地方

一方、「強制加入」を背景に入部率が高い地域が東北地方です。
トップ5に4県が入っています。

しかし、その東北地方でも、この数年の間に強制加入から任意加入への見直しが急速に進んでいます。

例えば入部率が3番目に高い岩手県では、任意加入の学校が、平成30年は1校でしたが、
去年は80校まで増えていて、それに伴い入部率は下がっています。

岩手県 二戸市立 福岡中学校

県北部に位置する二戸市の中学校では2年前から任意加入に切り替え、
現在は部活動に入らない生徒もいるといいます。

スポーツ庁などが策定したガイドラインに沿った、大きな転換でした。

岩手県二戸市立福岡中学校 筒井裕一校長

筒井校長
「部活動に親しみ、そこで友達を作ってということが、歴史的に見ても当たり前だっていう意識が保護者にも教員にもあったが、そうは言っても時代に合わせる必要があった」

「家族との時間」増えた

3年生の山井天花さんです。

山井天花さん

入学時にはサッカーをしたいと思っていましたが、あるのは男子の部だけ。

その年から参加が任意だったため、ほかの部活動にも入りませんでした。
放課後の時間は、家族で過ごしたり、勉強にあてたりしているといいます。

山井さん
「放課後は家族と過ごす時間を大切にしている。勉強できる時間も取れているので任意加入でいいと思う」

今後も減少進む

データが示す中学生の「運動部」離れ。

スポーツ庁は今後、学校から部活動を切り離し、地域に移行する取り組みを段階的に
進めていくことにしていて、入部率はさらに下がり続けるとみられています。

内田教授は、今こそ運動部のあり方を見直す時だと指摘します。

名古屋大学大学院 内田教授
「運動部離れは今後も進むとみられるが、練習の過熱化が指摘されてきた運動部の見直しが各地で進むのはいいことだ。これを機に、これまでの過酷な練習をして競技性を高めて大会に勝つというモデルを見直して、スポーツを楽しむ、レクリエーション性を高めるなどといった設計が今後必要になってくる」

運動部は無くなるのか?

生徒のニーズも変わるなか、長年続いてきた従来の運動部の形は、いずれ無くなるかもしれません。

でもそれは、運動する機会そのものが無くなるのではなく、今の時代の生徒のニーズ、
教員の働き方に合った新しい運動部のあり方を考える転換点にいるということです。

一方で、今回の取材を通じて、全国各地の校長先生などに話を聞くと、
「運動部の活動の中でしか見られない生徒の一面があるなど、生徒を知るという意味で
部活動の意義は大きい」という声も聞かれました。

入部率減少の背景には地域ごとの事情があります。

それぞれの土地、そこにいる生徒に合った「運動部」を作り上げ、生徒の成長を見守る、
そんな環境を作ることが求められていると思います。
 

※都道府県ごとの「運動部」入部率

  • 福原健

    福岡放送局記者

    福原健

    平成30年入局 
    警察やスポーツ担当を経て
    県政担当。運動しても、
    それ以上に食べてしまいます

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