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死去から3年 中村哲医師のことばから考える平和

地元福岡から支え続けてきた男性の思い
  • 2022年12月20日

「私たちの小さな試みが平和への捨て石となり大きな希望につながることを祈る」。

アフガニスタンで人道支援活動に取り組んでいた福岡出身の医師、中村哲さんのことばです。2019年12月4日、現地で何者かに銃撃され、73歳で亡くなりました。

それから3年がたちました。ロシアによるウクライナ侵攻などで平和が脅かされる今、人々の命と向き合い続けた中村さんのことばから平和について改めて考えてもらいたいと願う男性を取材しました。(福岡放送局記者 宮本陸也)

「治安は最悪だって」

中村さんの地元・大牟田市に住む沖牟田龍雄さん(77)は20年以上前、中村さんの本を読んだことがきっかけで、中村さんの活動を支える福岡市のNGO「ペシャワール会」の会員になりました。

左:中村さん 右:沖牟田さん

中村さんが帰国した時には一緒に飲み会に出かけ、現地での活動の進ちょくなどさまざまな話を聞きました。飲み会では中村さんの隣に座ることが多く、たばこが大好きだった中村さんのからだを心配して、中村さんが席を立ったときにたばこを取り上げたこともあったといいます。

沖牟田さんが管理する資料室

親交を深める中で、沖牟田さんは中村さんの活動をもっと広く知ってもらおうと、自身が所有するビルの一室に資料室を作り、現地の写真や新聞記事などの展示を始めました。

亡くなる1年前に資料室を訪れた中村さん

中村さんがこの資料室を訪れてくれたときには、活動のやりがいや難しさなど根掘り葉掘り質問したといいます。中村さんが亡くなる1年ほど前のことでしたが、当時、気になったことがあったと振り返ります。

当時を振り返る沖牟田龍雄さん

「今度またアフガンに行くって言うから大丈夫やろうかって思ってね。そしたら、『いやー、今の現状(治安)は最悪なんですよね』って。なんか帰らない方がいいんじゃないかなって」。

中村さんのことばで平和を考える

中村さんが亡くなってから3年がたとうとしていたころ、沖牟田さんは「中村哲医師の追悼3周年」と題した催しを大牟田市で企画しました。中村さんの活動をテーマにした映画を上映したり、中村さんと共に現地で活動をした「ペシャワール会」の藤田千代子さんの講演会を開いたりして、中村さんが切望していた「事業の継続」の重要性を伝えました。

会場では竹灯篭が中村さんの遺影を照らす

催しの中で、沖牟田さんがこだわったのは中村さんのことばでした。ロシアによるウクライナ侵攻や北朝鮮によるミサイル発射など、世界各地で平和が脅かされる今、紛争の絶えないアフガニスタンで30年以上活動を続け、命と向き合い続けてきた中村さんのことばには、広く知ってもらうべき重みがあると思ったからです。

そんな沖牟田さんのもとに、大牟田市の書道クラブから思いがけない話が舞い込んできました。中村さんのことばを題材にした作品を催しで展示できるよう提供してくれるというのです。沖牟田さんは作品のひとつを見せてもらおうと、早速、訪ねました。

提供された作品

作品の大きさは、高さ2メートル40センチ、横90センチ。「私たちの小さな試みが平和への捨て石となり大きな希望につながることを祈る」という中村さんのことばや似顔絵が描かれているほか、アフガニスタンで川から水を引いて乾いた大地を農地に変えたことが水色や緑を使って表現されています。

松尾理恵子さん

作品を制作したのは、大牟田北高校の書道部を指導している松尾理恵子さんです。中村さんのことばを紹介するカレンダーの中でこのことばを見つけて共感し、作品にしようと考えたといいます。

「私も教育者としてたくさんの小さな試みを教育現場でやっているので、その積み重ねが大きな希望につながる。中村さんがされていたことと共通するなと思った」

アフガニスタンでは、中村さんのことばどおり、長年にわたってひとつひとつ積み重ねてきたことが大きな成果につながっています。

2022年9月に完成したバルカシコート堰
画像提供:PMS(平和医療団・日本)

ことし9月、中村さんが亡くなったあと、初めて現地スタッフだけで工事に取り組んだ取水施設が完成しました。また、10月には新しいかんがい施設に着工。中村さんの思いはしっかりと現地のスタッフに引き継がれています。

施設の完成を喜ぶ現地スタッフ
画像提供:PMS(平和医療団・日本)

さらに「ペシャワール会」では、深刻な干ばつに苦しむほかの地域でも役立ててもらおうと、中村さんが活動の中で習得した実用的な土木技術を英語や現地の言語で解説するマニュアルも作りました。今後、現地の行政機関などに配布する予定です。

英語などに翻訳された土木技術のマニュアル
ペシャワール会 村上優会長

「中村先生が言い残したこと、書き残したことから学んで現地では事業を進めている。今回、新しく取水施設ができあがったのは今後事業を継続していく上で大事な意味を持つ。中村先生は、平和は人の信頼によって築くものだと現地で実践してきたんだと思う。すぐに我々は暴力というか軍事力をもって平和がもたらされると考えがちだが、それは幻想に過ぎないのではないか。アフガニスタンをみていて、つくづく思う」

沖牟田さんも、中村さんのことばの重みが日に日に増していると感じています。

「中村さんのことばは、やっぱり自分たちの心に響くことばがいっぱいあるから、そういうのを見てみんなに感じてもらいたい。考えてもらいたい」

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