急増する梅毒の“なぜ?” 聞いてみた
- 2022年12月21日
性感染症の「梅毒」の感染が、かつてないペースで広がっています。どうしてそんなに増えているの?対策は?専門家に聞きました。(福岡放送局記者 米山奈々美)
梅毒感染者 福岡では去年の1.5倍に
性感染症のひとつである梅毒。いま、感染者が急増していて、福岡県内では11月20日までに468人と、すでに去年1年間の1.5倍に上っています。(12月11日時点では、515人)
全国でも12月4日までに1万1,917人と、1999年に統計を取り始めて以来初めて、1万人を超えました。
なぜこれほど増えているのか。専門家に聞きました。
日本性感染症学会九州支部の副支部長、鷺山和幸医師です。鷺山医師のクリニックでは、ことしに入って11月末までに診察した患者は28人で、去年1年間の患者数をすでに超えたといいます。
「特にここ2,3年非常に増えています。感染者に話を聞くと、性風俗産業、特に最近はデリバリーヘルス(派遣型風俗)を利用したと言う方が非常に多くなった印象があります」
国立感染症研究所が行った、全国の感染者についての調査結果を確かめてみると、男女別の感染者数では、男性は、女性のおよそ2倍となっています。
また、直近6か月以内に性風俗産業との関わりがあったかどうかについては、「あり」と答えたのは男女ともにおよそ4割でした。一方で、注目されるのは、「なし」と答えた人。男女ともにおよそ3割に上ったんです。
SNSや新型コロナの影響も…
これについて鷺山医師は、SNSを通じた不特定の人との性行為の増加が背景にあると指摘します。
「パートナーの数が多い人ほどやっぱりかかりやすい。マッチングアプリとか言ったそういったSNSを利用して、相手を見つけているという方が多いようです」
また、新型コロナの影響も感染者増加の背景にあると見ています。
「今の時代、受診控え、例えば発熱外来も来ないでくださいとか、できるだけ自分でセルフケアをしてくださいとか、そういう意識があって。特に症状は軽いやつは放っておこうやとなってしまう。梅毒は感染しても痛みとかが少ないですから、そのまま放って、受診しない人も少なくないです」
不安に思ってもきちんと検査しない。あるいは、感染の疑いすら持たない。こうした人たちがきちんと治療しないまま感染を広げてしまうケースが見られるといいます。
痛みがない…放っておいていいの?
では、ここで改めて、梅毒の症状などについて確認していきましょう。
梅毒は、性行為やキスなど性的接触によって広がる細菌性の感染症です。
3週間ほどの潜伏期間を経て、陰部や口、のどなどの感染した部位に小さなしこりができます。このしこり、痛みはなく、しばらくすると消えてしまうんです。
しかし、自然に治ることはありません。放っておくと、手のひらや足の裏、体全体に赤い発疹ができ、症状が悪化すると、命を落とすこともあるといいます。
その名も「偽装の達人」
梅毒は「偽装の達人」とも呼ばれていて、いったん症状が消えている間も感染力は衰えていません。
妊娠中の女性が感染すると、胎盤を介して胎児にうつる「先天梅毒」となる可能性もあり、注意が必要です。
治療法としては抗菌薬が有効で、飲み薬や注射によって治療することができます。
とはいっても、まず大切なのは感染しないこと。予防法について医師は…
「梅毒の予防の基本は、コンドームを正しく使うということです。行政も無料検査を準備していますからぜひ受けて頂きたいと思います。おかしいと思ったら、早く専門医に受診して治療を受けてください」
福岡県内の各保健所で行われている無料の検査は、匿名で受けることができます。実施している曜日や時間、予約か必要かどうかなどは福岡県のホームページなどで確認して下さい。
取材を終えて
痛みもない、小さなしこり。違和感を感じても、仕事も忙しいし…とそのままにしていたら消えてしまう。でも、感染力は衰えないという「偽装の達人」のやっかいさを感じました。大事な人を守るためにも、正しい知識を持って予防に努めることが大切だと思いました。