福井 全国シェアNo.1を次々開発 時代を先駆けた中小企業の戦略
- 2023年04月21日
みなさん、福井県にはオンリーワンの技術を持ち、国内シェアNo.1を誇る商品を製造する会社が51社もあるってご存じですか。そのなかでも、今回ご紹介する会社は、シェアNo.1商品を3つも開発しています。従業員75名の中小企業が、なぜ大きな成果を上げることができたのか。時代を先取りした2つの開発戦略に迫ります。
雪の中から看板商品がお出迎え
福井市内にあるその会社を訪ねました。敷地内で我々を出迎えてくれたのは・・・
40を越える数のカーブミラー。こんなたくさんのカーブミラーを一度に見たのは生まれて初めてです。決して、「工場内がカーブだらけ」というわけではなく、さまざまなタイプのカーブミラーの耐久性を試すため、屋外に展示しているんだそうです。そう、このカーブミラーこそが、この会社の国内シェアNo.1獲得、第一号の商品なんです。
さっそくその作り方を見せていただきました。まず、我々の目の前に出てきたのはガラスでも金属でもなく、なにやら半透明の四角い板。75cm四方のアクリル製の一枚板です。
この板を専用の機械に入れ、熱を加えて押し出すとカーブミラーの鏡と同じ曲面状になりました。でも、このままでは何も映りません。
ここから先はこの会社の企業秘密。ある特殊な方法で霧状にしたアルミを曲面の凹側に吹き付けると、アクリル板にモノが映るようになるんです。このアクリル製の鏡によって、軽くて割れにくく、大きさも自由自在のカーブミラーを作れるようになりました。いまでは国内シェアの7割を誇ります。
ニッチをねらって時代を先取り<戦略1>
1970年創業のこちらの会社、もともとは家庭用の浴槽や水槽の製造・販売を目的に起業しました。当時受注していた製品の一つが、カーブミラーの裏板でした。ところが、その納品先の企業がカーブミラーの生産から撤退することに。それならばと、カーブミラーの開発を始めたのが、先代社長の海道長さんでした。アクリル鏡の生産設備を整え、1975年にはカーブミラーの一貫生産に乗り出します。これがまさかの大ヒット。誰も手をつけていない分野での商品開発には、大きなチャンスが眠っていることに気づいたといます。
副社長 海道洋子さん
父はあえてニッチなんだけど誰も作らないもの、要するに市場がちっちゃくても競争相手がいないものを作ろうという形で、商品をいろいろ開発・販売してきました。
これじつは、2000年代にビジネストレンドとなった「ブルー・オーシャン」という戦略と同じ考え方です。ブルー・オーシャンとは、競合相手のいない未知の市場を穏やかな海に例えた言葉です。対する「レッド・オーシャン」はすでに成熟した市場。商品開発の余地は少なく、企業同士が激しく価格競争する様は、さながら海賊同士が血で血を洗う海のよう。
家庭用浴槽の生産というレッド・オーシャンから、カーブミラーの一貫生産というブルー・オーシャンへと漕ぎだした先代社長は、みごとに時代を先取りしていたのです。
強みをニッチに再投入<戦略2>
この会社が次に国内シェアNo.1を獲得したのが、ホテルやレジャー施設向けのジャグジーなどに使用される特殊な形状の浴槽です。ここにも、カーブミラーの製造で培ったアクリル製一枚板の成型技術が使われています。
さらに、3年の研究を重ねて成功したのが透明なアクリルパイプの大型化です。水族館の水槽などに使われています。継ぎ目がないため耐久性が非常に高く、魚もクリアに見えると評判です。この大型アクリルパイプが3つ目のシェアNo.1です。アクリルの加工という一つの強みを発展させ、ブルーオーシャンを開拓することによってこの会社は「小さな大メーカー」になったんです。
小さな大メーカー 次のねらいは
次なるヒット商品を目指して、ニッチな開発は続きます。こちらは、カーブミラーの技術を応用し、鏡を貼り合わせて作ったディスプレイのための製品です。
商品に手を伸ばすと・・・ つかむことができません。実物があるのはこの黒い入れ物の中で、上に置いてあるように見えるのはその鏡像です。今後、時計や宝石など、小型で高級な商品を扱う店舗に営業をかけていきたいといいます。
海道副社長
こういうチャレンジ精神がとっても大事だと思いますので、もの作りの楽しさを共有して、販売につなげていきたいなと思ってます。
シェアNo.1を次々生み出す原動力、それは巧みな経営戦力以上にこの旺盛なチャレンジ精神にあるのかもしれません。
他にも、福井県には全国シェアNo.1の企業がたくさんあります。下の「あわせて読みたい」では「除雪トラック」「警察紋章」のシェアNo.1企業を紹介しています。こちらもぜひ、お楽しみください。