アメリカの反転攻勢 ガダルカナル島の戦い

多くの日本兵が病気と飢えで命を落とす悲惨な戦場となった

日本軍は夜間突撃を繰り返しアメリカ軍の銃弾にさらされた(画像は再現)

ガダルカナル島の戦いは、太平洋戦争開戦以来、連戦連勝だった日本陸軍が敗北を喫し、アメリカとの攻守が逆転するきっかけとなった歴史的な戦いと位置付けられています。

日本軍の将兵2万人あまりが亡くなりましたが、アメリカ軍との戦闘ではなく病気と餓えで命を落とした人が15,000人にものぼりました。「ガ島=餓島」と呼ばれた悲惨な戦場。なぜこのような事態になったのでしょうか。

日本軍が作った飛行場がアメリカ軍に奪われた

ガダルカナル島は、日本から5,500キロ離れたソロモン諸島にある、千葉県ほどの大きさの密林の島です。アメリカとオーストラリアを結んだ線上にあり、日本海軍は両国の連携を阻む前線基地として、1942年7月に飛行場を設営しました。当時、日本軍はオーストラリア領だった東ニューギニアに上陸し、オーストラリアへの攻勢を強めていました。

ところが、飛行場の完成間近となってアメリカ海兵隊の部隊が1万を超える大軍で上陸、あっという間に占領してしまいます。日本軍は奪還に乗り出そうとしますが、ここで大きな判断ミスをします。作戦計画を担う東京の大本営は、アメリカ側の反攻は早くても1943年以降と考えていたこともあり、アメリカ側の兵力を2,000人規模と誤認したのです。

アメリカ軍1万人と日本軍900人の戦い

8月、飛行場の奪回を期して送り込まれたのは、900人あまりの陸軍部隊でした。部隊はアメリカ軍の規模をつかめないまま、夜間の白兵突撃(はくへいとつげき)を行います。小銃(ライフル)の先に剣を装着し、暗闇にまぎれて敵に殺到する、日本軍が得意とする攻撃方法でした。しかし、アメリカ軍は飛行場の周辺に集音マイクを設置し、日本軍の動きを察知していました。突進してくる日本兵に対し、2方面から機関銃などを浴びせる十字砲火で応戦しました。朝になると海岸線は、日本兵の遺体で埋めつくされていました。死者は777人に及びました。

日本兵は十字砲火にさらされた
日本兵の遺体が並ぶガダルカナル島の海岸

その後、日本側は新たな部隊を投入しますが、その数はおよそ6,000人。命を賭した夜間突撃は、アメリカ兵に恐怖を与えましたが、多くの日本兵が銃弾に倒れ、激戦地は「血染めの丘」と呼ばれました。

日本軍は飢えに苦しんだ

日本軍は、精神力を極端に重視していました。陸軍の教科書ともいえる「歩兵操典」には、攻撃的精神は物質的威力をしのぎ、少ない兵力でも多数の敵を破れると記されています。こうしたことを背景に、日本軍はアジアや太平洋の広大な地域に兵士を送るものの、兵器や食糧などの補給体制は貧弱でした。ガダルカナル島が「餓島」となったのも、補給が欠けていたためでした。

アメリカ軍が撮影した日本兵の姿

10月から11月にかけて、大本営はさらに多くの部隊を島に送り、上陸した将兵は最終的に3万人を超えました。しかし、アメリカ軍は島の飛行場から軍用機を飛ばして制空権を確保、周辺の制海権も手中に収めつつありました。輸送船を次々と沈められた日本軍は、輸送に適さない駆逐艦や小型の舟艇を使うしかなくなりました。夜の闇にまぎれて少しずつ運ぶことから「ねずみ輸送」などと言われました。しかしこうした輸送では、大型の兵器は運べませんし、食糧も全く足りませんでした。

上陸した兵士はやせ衰え、そこにマラリアや赤痢などの感染症が追い打ちをかけました。ある少尉は、最後に配られた食糧は、乾パン2粒と、コンペイ糖1粒で、「生きているものと、それから腐ったものと、白骨になったものが、枕を並べて寝たまま動かない」と、その惨状を記しています(小尾靖夫少尉(当時)「陣中日誌」)。

組織の対立で撤退が遅れた

10月の総攻撃が失敗に終わると、陸軍と海軍の対立が激しくなりました。島の地上戦で苦戦していたのは陸軍でしたが、最初に島に飛行場を建設し、周辺の空戦や海戦、輸送船の護衛を担っていたのは海軍でした。撤退は失敗を意味するため、双方とも決定を先送りにし、時間が過ぎていきました。この間にも、島では多くの命が失われていきました。

大本営が撤退を決めたのは12月末、実際に撤退が行われたのは2月に入ってからでした。

1万人あまりが島を出ることができましたが、歩けない兵士は置き去りにされたといいます。

この大敗北について大本営は、部隊は目的を達したため、他の地域に「転進」したと発表し、国民に真実を伝えませんでした。

参考資料

  • 『戦史叢書 南太平洋陸軍作戦』『戦史叢書 南東方面海軍作戦』防衛庁防衛研修所戦史室 朝雲新聞社
  • 『実録太平洋戦争 第2巻 ミッドウェー海空戦からガダルカナル撤退まで』伊藤正徳 富岡定俊 稲田正純 中央公論社
  • NHKスペシャル「激闘ガダルカナル 悲劇の指揮官」(2019年8月11日放送)
  • 『失敗の本質』戸部良一 寺本義也 鎌田伸一 杉之尾孝生 村井友秀 野中郁次郎 中央公論新社

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