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新幹線で青森県産ホタテを運ぶ 2024年問題解決への挑戦

執筆者早瀬翔(記者)
2023年06月21日 (水)

新幹線で青森県産ホタテを運ぶ 2024年問題解決への挑戦

新幹線で青森県産のホタテを運ぶ。
これまでも、同様の取り組みを行ってきたJR東日本だが、今回は前提が違う。
それが物流業界の「2024年問題」。
その解消の一助に向けて、積んだ荷物は過去最大となる600箱。
今回の実証実験の取材を通して見えてきたのは、多くの課題と、それと同じくらい大きな期待だった。

早朝の取材開始

早瀬記者

取材は朝早かった。
午前5時、県漁連の流通施設で箱詰めされる生きたホタテを取材。
養殖ホタテ日本一、ホタテ王国の青森。
新幹線だと青森から首都圏まで実輸送時間で4時間かからずに届けられる。
そのホタテを通して、今回のJR東日本の取り組みを追ってみようと考えた。

ホタテ、ホヤ、ウニ

おいしそうなホタテ、ホヤ、ウニ。朝、水揚げされたばかりのアマダイやノドグロ。生けすから取り出され、すぐにこん包されていった。
デスクの判断でテレビの放送では使われなかったが、ホタテを1ついただいた。朝早く、朝食を食べ損なった私の眠い体にホタテの甘みが染み渡り、幸せな気分だ。この取れたてのホタテを首都圏の多くの人に味わってもらいたいと、改めて感じた。
そのホタテなどの魚介類がトラックに積み込まれ、向かったのは新青森駅・・・ではなく、駅にほど近い新幹線の車両基地だ。

新幹線車両基地

今回の取り組み、これまでJR東日本が新幹線で運んでいた荷物のおよそ3倍、600箱にのぼる。
ホタテなどの魚介類をはじめ電子部品に生花まで、荷物の種類もさまざまだ。
ダイヤに追われる新幹線のホームで積み込み作業をしていては、時間もかかるし作業スペースも限られている。
そこで、車両基地での積み込みを行うことになった。

無人ロボット

トラックから降ろされた荷物は、無人の運搬車で100メートルほど運ぶ。
建物の2階くらいの高さのスロープも、これであっという間だ。
人手も時間もかけずに作業を行い、より多くの荷物をなるべくコストをかけずに運ぶ。今回の実証実験のテーマでもある。
車両基地での積み込み、そして無人の運搬車とも、JR東日本にとって今回が初めてだという。
コロナ禍も一段落して、乗客も戻りつつある新幹線、今なぜこうした実験を行うのか。

2024年問題

背景にあるのが、物流業界の「2024年問題」だ。
労働環境の改善に向けて、来年4月にトラックドライバーの時間外労働の規制が強化。輸送力の減少が懸念されている。
野村総合研究所の試算では、このまま対策を打たなければ全国で2030年には35%の荷物が運べなくなるとしていて、青森県でも44%の荷物が運べなくなるという。

ホタテなど

青森県特産のホタテなどは、多くがトラックで首都圏に運ばれて、販売されている。
しかし、輸送量が減れば、これまで通りにこうした特産品が首都圏などに運べなくなるおそれもある。
消費地から遠い青森県にとって、この「2024年問題」は深刻な問題だ。

県漁連で梱包作業を行っていた運送業者の男性。
2024年問題について、こう吐露した。

運送業者の男性
「『2024年問題』は非常に大きな問題だ。ドライバーの労働時間なんかも考えると、今のような運行は厳しいさらに、長距離ドライバーの年齢も、だいぶ高くなっていて、特に魚を運ぶドライバーは、だいぶ減っている」

新幹線に積み込み

この問題に一役買おうと行われたのが今回の実証実験なのだ。
トラックに比べ費用はかかるが、新幹線でこれまで以上に多くの荷物を一度に運ぶことで、新たな輸送手段を探ろうというのだ。

JR東日本マーケティング本部 堤口貴子マネージャー
「『2024年問題』の遠距離が非常に輸送しづらくなる、という部分で言えば、JR東日本は、これだけ長い距離のレールを持っている。そういう部分の一助を担って対応出来ていけばいいかなと考えている」

新鮮なホタテ、そりゃ人気ですよね

走る新幹線

話を新幹線に戻そう。
実証実験で使われたのは通常ダイヤにはない臨時列車だ。

5両目までは利用客、そのあとの3つの車両に荷物が積まれた。
午前9時半すぎに新青森駅を出発し、雨の中、走ることおよそ3時間。

大宮に到着

午後0時半ごろ、大宮駅に到着した。
ホームに降ろされた荷物は屋上駐車場に運ばれ、目的地ごとに分類され、トラックに乗せられ出発していく。

千葉の大型スーパーへ

このあと、私が向かったのは、千葉県のスーパーだ。
そこには、新幹線で運ばれたことなどを示すポップともに、ホタテなどの魚介類が早速店頭にならんだ。
県漁連の施設を出て8時間、青森を出て5時間あまりで並んだホタテ。
早速店を訪れた千葉の人たちが手に取っていった。

ホタテの購入者
「千葉まで来るとは思わなかった。鮮度があって、地元に行って食べているみたい」

課題、そして期待と不安

ここまでで、一連の取材は終わった。
今回の取材のなかで、多くの人に話を聞いた。
よく聞かれたのが、期待の声だ。

県漁連流通課 笹原秀行 課長補佐
「普通のトラックで配送するとだいたい一昼夜かかって、東京方面関東方面に行くが、この新幹線を使っていただければ最短で3時間半、結構なメリットはあると思う」

運送業者
「長距離に関するトラックドライバーが減っている中で、かかる時間が大幅に減ることが、やはりなにより期待される」

マックスバリュ関東 生鮮地開拓グループ 寺沢 純 マネージャー
「地元で消費されちゃってる商品とか、けっこうある。そういったものを新幹線物流でスピーディーに運んで販売するという形は客にとって受けるのではないか」

一方で、同じ人たちから課題を指摘する声もあった。

県漁連流通課 笹原秀行 課長補佐
「新幹線で運ぶためには厳重にこん包しなければならず、今回の200箱で、普段より2時間近く余分に時間がかかった。人件費がもったいないし、せっかく鮮度のいいものが、こん包作業で時間がかかってしまうのがもったいない」

運送業者
「トラックには、常温、冷蔵、冷凍と用途に分けて種類があるが、新幹線は常に常温だ。コストも、新幹線だとトラックの4倍から5倍くらいかかる」

新幹線輸送のネックはやはり、速さ、安定性ゆえのコストだ。
さらに、輸送方法を指摘する声もあった。
JR東日本は、今年度中に複数回の実証実験を行い、新幹線を使った多量輸送の実用化を目指すとしている。

JR東日本マーケティング本部 堤口貴子マネージャー
「実証実験をすることで、どこでどのくらい費用がかかるかこれから調べたい。基本は既存インフラを使ってやっていくので、増コストという形はあまり考えずに対応したい」

青森を知らしめるために

海なし県の埼玉県出身の私が青森に来て、なにがよかったと考えると、まず新鮮な魚、果物、野菜といった生鮮品が思い浮かぶ。そして、これを多くの人に、鮮度のよい状態で食べてもらいたいとも思う。しかし、果物や魚介類など、せっかくいいものがとれても消費地に運ぶことができなければ売れない。来年4月には、物流の「2024年問題」が顕在化するが、もう1年を切っている。早急な対応が必要だ。

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