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薬剤師も足りない 地方の医療現場を取材

執筆者小原敏幸(記者)
2023年11月27日 (月)

薬剤師も足りない 地方の医療現場を取材

医療現場での医師や看護師の不足はこれまで全国的にも問題になってきましたが、実は薬剤師も不足しています。

地域薬剤師偏在指数

厚生労働省が今年、病院や薬局の業務量などに対し、薬剤師の数が足りているか調べた指標では、福井県で最も数値が低く、次いで青森県がワースト2位。
主に地方で薬剤師の数が必要数を満たしていない状況が示されています。
その中でも公立病院では、薬剤師の人材確保に苦慮しているといいます。
どういった実態があるのか、青森県内の病院を取材しました。

リスクが上がっている状態

三沢市立三沢病院

三沢市にある市立三沢病院。
外科から産婦人科まである地域の総合病院です。

常勤の薬剤師は3人

この病院内にある薬局では、常勤の薬剤師3人で、外来患者向けの薬の調剤や入院患者向けの注射薬、抗がん剤の準備などを担っていて、地域医療には欠かせない存在です。

1日あたり約100人の調剤

1日あたりおよそ100人分の調剤業務があり、8人の薬剤師の配置が必要ですが、取材した当時(10月)は、非常勤を含めて半数しかいませんでした。

混注作業

新卒者の募集も続けていますが、10年以上応募がないといいます。
「後に回している仕事を忘れないように急ぎの仕事をするのが大変です…」と薬剤師のひとりは、忙しい業務の合間に取材に応じてくれました。

薬の説明

この病院では、助手を雇ったり、調剤する機械を導入して業務の負担軽減を図っています。
しかし、処方ミスを防ぐための薬の最終確認や患者への説明は薬剤師が直接行う必要があり、綱渡りの状態が続いているといいます。

柳川明子 薬局長
「薬剤師ができる最低限のことを守って業務を行っているというのが現状です。手が空いたら次の業務、手が空いたら次の業務というふうにして、やらなければいけないところがやっぱり負担にはなっていると思います。それによって、リスクが上がっているというのも事実です」

薬剤師不足の地図

薬剤師不足は、青森県内のほかの病院でも起きています。
NHKがことし10月、県内にある市町村が運営する22の公立病院に取材したところ、半数以上の12の病院が薬剤師の数が足りていないと回答しました。

薬剤師の人気の就職先は?

青森大学

その理由を探るために訪ねたのが県内で唯一薬学部がある青森大学です。
毎年20人から30人の薬剤師を県内外に送り出しています。
学生に希望の就職先を聞いてみました。

「地域の連携がとれることや健康に関して活動ができるところとして、どちらかというと薬局を希望しています」

病院ではなく民間の薬局で勤務したいという声もありました。
この大学では過去5年間の卒業生のうち、民間の薬局に就職した人の数は、病院の2倍と薬局が就職先として人気となっています。大学は初任給に差があることが背景の一つと分析しています。

青森大学薬学部 水野憲一 学部長
「給料が薬局の方が高い、そして、業務内容にしても薬局の方が結構自由度が高いというところも要因なのかと思います。大学としては、地域の薬剤師がなかなか足りない状況の中で、地元で薬剤師を増やしていくというのが使命だと思っております」

公立病院で薬剤師不足理由は?

薬剤師不足の現状

取材してわかってきた公立病院での薬剤師不足のポイントは大きく3つあります。

まず1つ目は、県内には薬学部は青森大学1カ所で、この限られた学生を民間の薬局と公立などの病院で取り合っているという構図になっていることです。

そして2つ目が、民間の薬局側も人材確保に必死だということです。
薬局側にも取材をしてみると、チェーン店のドラッグストアの様に、各地域に店舗を展開していくためには、各店舗に薬剤師が必要で、経営を維持するために人手の確保が不可欠だというのです。

そして、3つ目が給与格差です。
薬局と比較して初任給が低い公立病院では、給与額を上げるためには、給与規定を改正するなどの様々な手続きが必要で、単に薬剤師が足りないからといって給与を上げることは難しいというのが実情だといいます。

学生支援で薬剤師確保

こうしたなか、病院や自治体が学生向けの支援策を打ち出して、薬剤師の確保につなげようという動きもあります。

むつ市総合病院

むつ市など5つの市町村の一部事務組合が運営するむつ総合病院です。
この病院でも薬剤師が不足していたため、一定期間病院で働くと返還する必要がなくなる修学資金の貸与制度を5年前に設けました。

竹内さん

制度を利用し、地元に戻ってきた竹内啓太郎さんは、中学生のころ母親が病気で亡くなったことをきっかけに薬剤師を目指し、薬学部に進学しました。

竹内さんは制度を利用して、月額5万円を3年間、あわせて180万円を借りました。薬学部は卒業まで6年と費用もよりかかるため、ほかの奨学金とともに利用できるこの制度は魅力的だったといいます。

竹内啓太郎さん
「制度を利用してすごく助かりました。薬学部なので国家試験も含めて、授業でもそれなりに勉強する時間は必要にはなるので学生生活の助けになりました」

竹内さんと助手

この病院では、これまでに10人がこの制度を利用し、竹内さんを含む2人が卒業後にこの病院で働いています。

「その制度に背中を押されたというところもあります。育ってきた地元の医療に貢献するということで、自分の知識なり技量なりを少しでも役立てていけたらいいなという思いで今も仕事をしています」

病院は制度の利用者を増やすことで、薬剤師不足の解消につなげたいとしています。
こうした取り組みについて、専門家は一定の成果が出れば、似たような不足の現状にある自治体でも取り入れることが有効だと指摘した上で、大都市と地域での薬剤師の偏在格差も踏まえて不足の解消に向けて必要なことについて次のように話していました。

日本薬剤師会 安部好弘 副会長
「奨学金制度やIターンUターン制度、研修の制度、それから薬学部で地域枠を作ろうとか、薬学部がない都道府県では東京の薬学部に頼んで地域枠を作ろうとか、その地域の状況に応じて施策をつくって地域の医者、看護師、歯科医師、薬剤師、行政など様々な人が話し合って行っていくことが重要だ」

【取材後記】
冒頭紹介した市立三沢病院では、薬剤師を確保しようと来年度から、一定期間働ければ返済が不要になる学生への修学資金の貸与制度について、貸与額を月額最大10万円にまで拡充する予定です。薬学部は6年制なので最大720万円が返済不要になるという支援策のため、特に県内で学ぶ薬学部生にとっては、魅力的な制度だと感じました。
一方で、今回、県内で取材した病院からは「薬剤師は足りているが、必要最低限で業務を回している」という声や、「そもそも医師や看護師も不足していて稼働している病床を減らしている」などの切実な声が聞かれました。地方で適切な水準の医療が受け続けられるよう、行政や医療関係者が話し合って有効な対応策を考える必要があると改めて感じました。

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