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青森ミライラボ#001 "存続危機の町"に移住者増加のワケは?

執筆者角田彩子(記者)
2021年11月25日 (木)

青森ミライラボ#001 "存続危機の町"に移住者増加のワケは?

NHK青森は、人口減少や新型コロナウイルスの感染拡大による社会の変化など青森県が直面する課題についてや、その解決のためのヒントを探るシリーズを始めました。題して青森の未来を考える研究室、“青森ミライラボ”です。最初に取り上げるのは、青森県が直面する喫緊の課題、人口減少です。

“ミライラボ”スタートのきっかけに

角田彩子記者

この“青森ミライラボ”の発案者は、2021年7月に北九州から転勤してきた記者の私、角田彩子です。「行ったことがないところで取材をしてみたい」と考えることもあった私は、まず青森県とはどんなところなのか色々調べていきました。すると、進行する人口減少に歯止めをかけようと「移住政策」に力を入れていて、実際に移住者も増えていることを知ります。新しく青森に来た者の視点で“移住”について伝えるべきことがあるかもしれない。そう考えてさらに取材を深めていきました。

八戸と弘前が“消える”

青森県の人口変化と予測値

青森県が直面する人口減少はどれくらい深刻なのか、ここであらためて説明しようと思います。2015年の国勢調査では県の人口は130万余り。国の研究所の試算では、これが2045年には82万余りにまで減ってしまうと予想されているんです。現在の県内第2の都市=八戸市と、第3の都市=弘前市の人口を足すと40万近くです。30年間でこの2つの市を合わせた以上の人口が減少してしまうと考えられているんです。

これほどの人口減少が進むと、労働力不足などから地域社会を維持していくことが難しくなり、自治会や消防団などが組織できなかったり、日常的な高齢者の見守りなど地域の防災への取り組みなどができなくなってしまうおそれもあります。

“存続危機の町”今別町で移住者増加

県内の移住について、いろんな人から話を聞いていくうちに、津軽半島北部に位置する今別町には県外から移住する人が増えているという話を耳にします。興味を持った私は町について調べてみましたが、深刻な人口減少に直面していると知り衝撃を受けました。町の人口は2015年には2756人でしたが、30年後にはなんと71%も減って、798人にまで減少すると見られています。町にある唯一の高校への進学者は減少、町内に働き口も少ないことから進学や就職を契機に多くの人が町外へ転出しているというのです。
いわば、“存続の危機”に立つ今別町ですが、ではなぜ移住者が増えてきているのでしょうか。その理由を探るべく、すぐに町役場へ向かいました。

移住の決め手は…?

今別町に神奈川県から移り住んできた男性に話を聞きに行きました。

まずは、今別町に移住してきた人の声を聞きたいと思い、町役場で移住政策を担当している課に取材しました。2021年7月、神奈川県から移り住んできた男性がいると教わり、早速、話を聞きに行きます。

高野悟さん

町に移り住んできたのは高野悟さん(48)です。約40年前に両親が始めた寿司店の板前だった高野さんの趣味は釣りで、各地で船釣りを体験してきました。2020年9月、町の沖合で船釣りをした際にはマグロを釣り上げ、津軽海峡周辺の海の豊かさを感じたといいます。「人生一度きりなのでやりたいことをやりたい」と一念発起した高野さんは、津軽海峡で釣り船の営業しようと今別町に移り住んできたのです。

《今別町に移住 高野悟さん》
「メバルや鯛がとれたり、本当に春から秋までシーズン通じて魚の種類が豊富。この場所なら客に自信をもって案内できる」。

今別町の豊かな自然が移住への関心をかきたてていたのです。ただ、青森に縁もゆかりもない高野さんには、いざ移り住むとなったときに頼れる人がいませんでした。そんな中で1人の町役場職員がさまざまな相談にのってくれたといいます。

《今別町に移住 高野悟さん》
「この職員の方の存在はとても大きかったです。右も左もわからないところで、すごく丁寧に教えてくれました。互いに釣りが趣味だったので、フィーリングもすごくあいました。移住の道しるべを作ってくれました」。

“町期待の移住のスペシャリスト”

今別町の若手職員 相内峻さん

そういえば役場で移住について取材したとき、応対してくれた若手職員の方から、内に秘めた“熱量”を感じました。2020年度から移住政策を担当するようになったこの若手職員、相内峻さん(34)こそが高野さんを今別町への移住へと導いたのです。町への移住者が増えている背景には相内さんの存在があるのではないかと考えた私は話を聞かせてもらうことにしました。
青森市出身で自身も5年前に今別町に移住してきたという相内さんは、そのすぐ後に町の職員として採用されました。町の移住政策に携わりたいと考えていたことから、2020年4月までの1年間、県庁に出向してノウハウを身につけました。いわば“移住のスペシャリスト”の相内さん。なぜ、移住に情熱をかけるのか聞くと…。

《今別町の移住担当 相内峻さん》
「とにかく今別町がなくなって欲しくない。放っておくと厳しいので、町外から移住してもらわないといけない。そのためにできることはなんでもやる」。

移住者と一緒に地元の人に相談に行くことも。

実は相内さん、今別町の職員になる前は営業担当の社員やファミリーレストランの店長として働いていました。そうした経験もあってか、モットーは“型破りに行こう”だというのです。そして、自分が移住したときの経験から、移住者の“心細さ”もわかるといいます。相内さんは移住者に対して、とことん親身になることを心がけています。釣り船を始めたい高野さんと一緒に、町に移り住んで漁業に携わっている人のもとへ行って相談にのってもらったこともありました。

《今別町の移住担当 相内峻さん》
「悩みがあるときって、役場が開いている時間だけじゃないと思うんです。夜だって不安になることがあると思うので、そういったときに頼ってもらいたいです。不安を少しでも解消できるように、役場職員としてではなく、町民のなかの知り合いみたいな感じで頼ってもらえればと思っています」。

“東京で就職”よりも今別町を選んだ若者も

移住者・岡田和也さん

「相内さんがいなかったら、今別町に移住することのハードルは高かった」。

今回の取材で出会ったもう一人の移住者・岡田和也さん(23)も相内さんの存在が、今別町への移住を決断した際の決め手の1つになったと感じています。
2021年に、関西地方の有名私立大学を卒業したばかりの岡田さんは、東京の企業などから採用の内定を得ていましたが、社会人生活を今別町でスタートさせることを選びました。

岡田さんが今別町に移り住むきっかけとなったのは、町に江戸時代から伝わり、県の無形民俗文化財にも指定されている伝統の踊り「荒馬(あらま)」です。
岡田さんは大学ではサークル活動で伝統芸能の研究などをしていました。その活動の一環で「荒馬」に参加すると、その楽しさとともに「町の人の温かさ」に魅了され、今別町で暮らすことを考え始めたといいます。

《今別町の地域おこし協力隊 岡田和也さん》
「大学2年生の時に初めて荒馬のお祭りに参加したのですが凄い楽しかったんですよね。それから私自身「荒馬」に携わりたい、そしてこの伝統行事を残したいなと思うようになりました。同時に町の役に立ちたいなと」。

相内さんと岡田さん

岡田さんの思いを知った相内さんは、なんとかして今別町に来て働いてもらえないかと考えました。そして思いついたのが、岡田さんに町役場の臨時職員=「地域おこし協力隊」として働いてもらうことでした。相内さんは、すぐさま「地域おこし協力隊」の活動内容に「荒馬」の保存活動を加えるよう調整しました。“「荒馬」を守り伝えていく活動に携わることができる”。岡田さんは2021年6月から「地域おこし協力隊」として働いています。

《今別町の地域おこし協力隊 岡田和也さん》
「人生1回しかないと考えたときに、いい加減な気持ちで働くよりなにか人の役に立ちたいという思いが強くなりました。今はとにかく何でもいいからやってみようという気持ちでいて、ボランティアで清掃などの活動に参加したときに、『ありがとう』と感謝されると、今別町に来てよかったなとつくづく感じます」。

増える移住者!今後は

移住者に寄り添う姿勢を貫く相内さん。成果も着々とあがってきています。今別町では4年間、県外から移り住んだ人は1人もいませんでしたが、相内さんが移住担当となった2020年度は4人が移住してきているのです。
相内さんは、町をPRし、移住者を呼び込むことに力を入れていきたいと話します。そのために、青森県が関係する移住のイベントにはすべて顔を出したいと意気込んでいます。

《今別町の移住担当 相内峻さん》
「今は人口減少の流れをいかに緩やかにしていくかっていうところです。私自身、今別町が好きで『旧今別町』と言われたくないので、担当外のことでもできる限りのことはやりたいと思っていますし『とりあえず相内がいれば何とかなる、してくれるんじゃないか』みたいな感じの気持ちで頼ってもらえるような職員にはなりたいです」。

取材を終えて

今回取材をした今別町では、相内さんという1人の職員の人柄によって移住者が増えていることを知りました。その後、全国の移住者の声をまとめた国の資料を見ていると、移住の決め手について「担当者が親切」「対応が懇切丁寧だった」「移住の最終的な決め手は担当者」といった意見が数多く寄せられていたことも知りました。今別町だけでなく、全国的にも移住者を呼び込むためには“担当者の人柄”が重要になっているということに驚きました。
相内さんは今別町の移住政策について「今やっと制度が整いつつあり、県内の他の地域とようやく肩を並べられるようになったと思います。今が正念場で引き続き移住者のための支援を継続させ、移住してきた人が今別町に定住したいと思ってもらえるよう、制度を構築していかないといけないと思います」と話していていました。より多くの移住者を引きつけるためには、充実した制度、そして移住者と向き合う行政の担当者が必要となっているのだと実感しました。こうした視点で取材を継続していきたいと思います。

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執筆者 編集部
2021年11月19日 (金)