私が「生理」を伝えるわけ
- 2024年03月07日
「なんでこんな体に…」
私が母に言ってしまった、決して口に出してはいけないことば。
あのとき、どうすれば、私は追い詰められずに済んだのか。
その答えを求めて、私は「生理」を伝えていく。
(秋田局記者 立石阿稀子)
男子には言わないほうがいいのかな
2023年12月、秋田市の国際教養大学で開かれたイベント。テーマは女性の「生理」。
主催団体のリーダー、1年生の鶴田周子さんには、重い生理痛で悩んだ過去がある。
高校時代のある日。
音楽の授業中に痛みが強くなったが、薬がない。
授業を受けられないほど悪化した。
それでも、周囲への相談はできなかった。
教室で言ったら、「男子が聞いているかもしれない」から。
鶴田周子さん
小学5年生の時に生理中に必要な物品についての授業があったんですけど、その時に女子と男子が明確に部屋を分けられて、どうして分けられたのか、分からなかったんです。
そこからなんとなく“生理は男子には言わないほうがいいのかな”と思っていました。
"生理は隠さないといけないもの"
生理の“タブー視”。
それは、筆者の私自身がずっと悩んできたことだ。
生理は、どうしてタブーになってしまうのか。
その理由を探るため、まず私自身の体験を振り返りたい。
生理が始まったのは、たしか小学6年生のとき。
帰宅後、母に伝えると、赤飯を炊いてくれ、なんとも言えない恥ずかしい気持ちになったのを思い出す。
そのとき、母に言われたこと。
お父さんがさみしがるかもしれないし、周りもびっくりするかもしれないから、“生理が始まったことは言ってはいけないよ”
意味はよく分からなかったが、「生理は隠さないといけないもの」という考えは、私の中に深く刻み込まれた。
唐突に食卓に並んだ赤飯に、父は「どうして?」と言いながら、いちばん食べていた。
半年くらいすると、生理のとき腹部に違和感を感じるようになった。
痛みの程度は毎月同じではなく、ひどいときは、保健室のベッドで休んだ。
「受けたくない授業の時にさぼっているんだ」
クラスメートに陰口をたたかれることもあった。
理由を言えないから、言い返すことはできなかった。
高校時代は自転車通学をしていたが、生理痛があるとバスを利用した。
通勤・通学時間帯のため車内は満員。立っているうちに目に見えるものが色をなくし、乗っていられなくなって、ふらつきながら途中下車したこともある。
そのときはバス停で涙が止まらなかった。
生理が土日に来ると、気持ちが楽になった。
湯たんぽを準備して、1日布団の中で過ごす。
その姿を見た母は、私の腰をさすりながら、「私に体質が似たのね、ごめんね、ごめんね」と言っていた。
一方、父はというと、私の生理痛が重いことを1年ほど前まで知らなかったそうだ。母から「頭痛みたい」などと言われ、深く詮索しないようにしていたという。
母が本当の理由を言わなかったのは、「知ったところで男性にはどうしようもないから」ということらしい。
なんでこんな体に…
社会人になり、生活リズムが大きく変わると、症状はさらに悪化した。
腰痛はグーで一日中たたかれ続けるような、腹痛は刃物で刺され続けるような痛みに変化。
3か月に1回は吐き気が出て、丸一日水分をとれない日もあった。
それでも、新人ということもあって、休暇の取得を言いだしにくかった。
時間の不規則な働き方のせいか、生理の周期が乱れ、2~3か月生理が止まったり、逆に1か月に2回あったりと、不順になった。
生理がいつ始まるか分からないため、痛み止めの薬を常に携帯するようになった。
仕事用のかばん、ペンケース、財布にまで。
当時のパートナーにも薬を持ってもらっていた。
薬が切れないか不安で、とにかく至るところに準備していた。
社会人2年目に入る前からは、生理休暇を取得するようになった。腰痛と腹痛のダブルパンチに毎月襲われるようになり、症状が重いことを上司に打ち明けたのだ。
これは、かなりハードルが高かった。男性の上司に話を切り出す、恥ずかしさ。でも、生理の症状は自分で言わないと理解してもらえないことはもう分かっていた。
生理休暇はありがたい。けれど、これは「休日」ではない。
・産婦人科に通い、子宮内膜症などの病気でないかエコーを撮って確認する。
・念入りに準備した取材に、突然の痛みで行けなくなる。
・痛みがひどいときには家の中を立って歩けなくなる。
・吐き気がでたらトイレまで四つんばいで移動して、しばらく閉じこもる。
自分の体が自分のものではないような感覚に襲われ、モヤモヤしてイライラして、この感情をどこにぶつけていいか分からず、泣きながら電話で母に言ってしまった。
「なんでこんな体に産んだの?もう子宮を取りたい。こんなことで苦労するのはもう嫌」
決して口に出してはいけないことばだったと、今は理解している。でも、あのときの私は、どうしようもなく追い詰められていた。
「生理を伝えたい」思いに共鳴
あのときの私は、何に追い詰められていたのだろう、と考える。
生理の痛み?
周囲の無理解?
仕事への支障?
恥ずかしさ?
どれも合っているようでもあり、それだけではないようにも思える。
言語化するのが仕事の記者なのに、ことばにできない悩みを抱えたまま「いつかは生理を伝えたい」とだけ、漠然と思っていた。
そんなときに出会ったのが、生理のイベントを企画した大学生たち。
何が何でも取材したいと思った。
早速、主催団体のメンバー14人に話を聞いた。
「生理のことをもっとオープンに話したい」
「私は自分から口にするのは嫌…」
「老若男女問わずみんなが知っておくべき」
「お互いの体のつくりも知らずに男女平等ってあるの?」
「(症状緩和に使う)低用量ピルへの偏見をなくしたい」
意見も、参加した動機もさまざま。それでも共通していたのは、「話したい人が、話したいときに、話せる場所があってほしい」という思い。
そのためにも、まずは男性を含めた多くの人に「知ってもらうこと」が大切。
生理についてゼロから学べるよう、イベントのタイトルは「生理のあいう」に決まった。
「男だから」「恥ずかしい」
イベント当日。
まずは生理痛の症状の種類から始め、低用量ピルの効果と副作用を説明。
海外で人気のある生理用品の展示も行った。
ただ、彼女たちが目指したほどの反響はなかった。
「男だから」という理由で通り過ぎる男子学生。
「恥ずかしい」と避けていく女子学生。
「生理について話そう」というフリートークは、人が集まらずに成立しなかった。
それでも、イベントを終えたリーダーの鶴田さんは、次を見据えていた。
鶴田周子さん
イベント1回で『意識』そのものを変えるというのはすごく難しい。
生理に対してオープンに話したい人たちがいるということだけでも知ってもらえたら。
今後も定期的にイベントや情報発信を行うことで、段階的に改善していくと思う。
「意識」はどこから
「もっと話そう」と呼びかけた鶴田さんたちに立ちはだかった、「意識の壁」。
その正体が知りたくて、鶴田さんが最初に「壁」を感じた原体験を掘り下げてみた。
生理用品についての授業で、男女が別室に分けられたという、小5の体験談だ。
文部科学省に取材すると、学習指導要領では、生理の授業は「男女別に行う」とは書かれていない。
しかし、これを読んでいる多くの方は、男女別や女子だけで授業を受けた覚えがないだろうか。
それを問うと、文部科学省の担当者は「考えられる可能性」として「小5の林間学校などの事前学習で、必要な持ち物の中に生理用品が含まれ、その案内を女子だけにすることがある」と教えてくれた。
「生理のことを話していいのは女子だけ」という意識がすり込まれるには、十分ではないだろうか。
もっと話せるように、伝え続ける
家庭で、学校で。
生理が始まる前から、私は意識の深いところに「生理はタブー」とすり込まれてきた。
生理の悩みは、話さなければ分かってもらえないのに、話そうとすることがまたストレスになる。
タブーだから、意識の奥底から拒否反応が出るのだ。
でもきっと、できることはある。
生理についての発信がもっと増えれば、「話してもいいんだ」と思える女性が出てくるかもしれない。生理を知ることから遠ざけられてきた男性が、身近な誰かを大切にしようと思うきっかけになるかもしれない。
この記事を見た人が、パートナーと生理のことを話し合ってくれるかもしれない。
鶴田さんたちの勇気ある発信が、そのことを私に教えてくれた。
生理について、もっと話せるように。
私は生理を伝え続けたい。
(記事の内容は3月8日「おはよう日本」で放送予定)