生理のつらさに理解を 男子高校生の視点から描いた映像作品
- 2023年11月14日
浜松市立高校の放送部が生理をテーマにした映像作品を制作しました。タイトルは「生理は、僕にはないけれど」。1人の男子高校生が生理について学びながら、周りの人たちに理解を呼びかける内容です。男子生徒の視点から生理を描いた理由、そして作品に込められた思いを聞きました。(最後に動画あり)
■生理への認識を変えるきっかけにしたい
(女子生徒)「痛っ」
(男子生徒)「どうしたの?」
(女子生徒)「ちょっとおなか痛くて」
高校生が制作した8分間の映像作品「生理は、僕にはないけれど」。
主人公は1人の男子高校生です。
(女子生徒)「ポーチ持ってるんだから察してよね」
(女子生徒)「こっちは生理でイライラしてんのに」
(男子生徒)「生理!?」
制作したのは、浜松市立高校放送部の3人です。
主演は3年生の戸田涼太(とだ・りょうた)さん。撮影と編集は3年生の杉浦杏菜(すぎうら・あんな)さん。ナレーションは2年生の藤田円夏(ふじた・まどか)さんが担当しました。
生徒同士で生理のことを話す機会は、ほとんどありません。
体調の変化を自分から言いだしにくい雰囲気もあり、人知れず悩んでいる生徒もいます。そんな生理への認識を変えて、少しでも周りからサポートできないかと考えたのが、作品作りのきっかけでした。
(浜松市立高校放送部3年・戸田涼太さん)
「学校生活の中でそういう生理の話みたいなのは本当に全くない状態になっていて、自分の中でもそういった生理に対して言えないっていう気持ちがやっぱり大きいし、多分向こうも言ってほしくないんじゃないかみたいな気持ちがあって。この機会を使って少しでも生理というものが、重いものとして捉えられないようなものにできたらなと思いました」
映像では、実際に戸田さんたちが作品を作っていく過程が再現されています。
(女子生徒)「戸田はちゃんと生理のことについて知ってるんですか?」
(女子生徒)「月に何日あるか知ってますか?」
(戸田さん)「一日、ですよね」
(女子生徒)「違いますよ。何にもわかってないじゃないですか!」
(ナレーション)「戸田、やらかした…」
主演の戸田さん自身、生理の基本的な知識がない中でのスタートでした。
(浜松市立高校放送部2年・藤田円夏さん)
「最初は心配で心配でしょうがなくて。まさか戸田さんが(生理が)一日しかないと思っているなんて知らなくって」
自分のように、生理について多くを知らない人にも身近に感じてもらえる作品にしたい。
戸田さんたち3人が掲げた目標は「女性のつらさを理解して、男性が女性を助けたいと思える番組」でした。
■話しにくい 理解しづらい現実も
取材は生徒たちに生理についての悩みなどを聞くことから始めました。
しかし生理というテーマを伝えると、話したくないという生徒が予想以上に多く、難航しました。
(藤田さん)「インタビュー受けてくれる?って言うといいよいいよって。
でも生理についてって言うと、ちょっと難しいかもって」
(戸田さん)「男子もそういう感じですね」
(杉浦さん)「テレビで、顔出しで生理のことを話してくれる人がなかなかいなかったです」
それでも粘り強く声をかけ、生徒30人のインタビューを集めることができました。
女子生徒からは「おなかが痛くて動けないのでつらい」
「生理になると1人だけ温泉に入れなくて、すごく悲しい」といった声が聞かれました。
一方、男子生徒からは「生理の授業は男女別だったから、あまり覚えていない」
「男子はその苦労を知ることがないので、男子でよかったと思う」という反応も。
自分自身で生理を体験することのない男性に理解してもらうのは、簡単でないという現実も見えてきました。
■女性の身になって実感を伝える
どうやって生理の大変さを伝えていくか。
3人が考えたのは、戸田さんが女子生徒の身になってその実感をリポートすることでした。
着色した水でぬらしたナプキンをつけて、授業時間の50分間を過ごしてみます。
(戸田さん)
「ごわごわするし、はりつく感じもすごく気持ち悪いし、これつけて授業受けるのは無理です」
さらに奈良県の大学まで取材に行き、電気を通して生理痛を再現する装置で、腹部の痛みを疑似体験しました。
(戸田さん)
「やばいこれ、痛い!これを我慢して学校に行っている人がいると思うと本当にすごい」
(浜松市立高校放送部3年・戸田涼太さん)
「実際に体験してみると、より生理っていうものに向き合えたなっていうのがあって。これで普段の生活をあんな感じで過ごしていられるのは、ほんとにちょっと対応とかを考えなきゃなっていう気持ちになったりしました」
体験取材を重ねる中で、生理についての理解を深めていった戸田さん。
その姿に杉浦さんと藤田さんも頼もしさを感じていました。
(浜松市立高校放送部3年・杉浦杏菜さん)
「こういう姿を見てると、私たち作る側ですけれども応援したくなるんじゃないかなと思って。自分もそうだし、周りの人も。だから番組の中に戸田さんがどんどん変わっていく過程を入れるっていうのはすごく重要でした」
(浜松市立高校放送部2年・藤田円夏さん)
「戸田さんの性格なのかわからないですけど、学ぼうとしてくれている姿勢がすごく見えて。生理のことを一番知らない立場から番組を作っていくのは本当に大変だったと思います」
■細かな表現まで気を配って
編集では、男女の対立を生まないよう、言葉の表現にも気を配りました。
例えば会議のシーンで入れたこのナレーション。
(ナレーション)「戸田、やらかした…」
当初は「この男、やらかした…」と表現していました。
しかし、「男性だから知識がないわけではない」という顧問の先生の指摘を受けて、戸田さん個人の体験に基づく表現に修正しました。
また生理は女性の中でも症状の個人差が大きいため、見た人が違和感を抱かないよう、専門家などの意見を聞いて内容に反映させました。
6カ月かけて、ようやく作品は完成。
今年の「NHK杯全国高校放送コンテスト」のテレビ・ドキュメント部門では、456作品中の上位10作品に選ばれ、優良賞を受賞しました。
■発信することで変わった意識
3人の活動は少しずつ広がりはじめています。
9月下旬、生理に関する問題解決に取り組む浜松市が開いた座談会に招かれ、市の職員などと意見を交わしました。
(浜松市職員)「男の子から生理って言うのはすごく勇気がいると思うので、びっくりしました」
(参加した男性)「(相手に)知識があるだけで安心感というか、実際にしゃべっていいんだって話になってくるので、最初の一歩を踏み出したのは素晴らしいと思う」
浜松市では10月から、誰もが必要な時に生理用品を手に入れられるよう、実証実験として一部の公共施設のトイレにナプキンを無料で配布する装置を設置しました。
戸田さんたちはこの取り組みを事前に取材し、作品の中で紹介。
浜松市立高校のトイレにもその後装置が導入され、生徒たちが実際に使えるようになったのです。
(浜松市立高校放送部2年・藤田円夏さん)
「気持ちが全然違います。前までは生理周期がだんだん近づいてくると、突然来ると心配なのでたくさん予備を持ち歩くんですね。ナプキンでポケットがパンパンになるくらい持ち歩いてたんですけど、(今は)あるから大丈夫だっていうふうに思えるようになりました。急に来た時も大丈夫、あそこのトイレに行けばあるんだって思えるのは本当に大きいと思います」
さらに学校の文化祭では、およそ60人を前に作品を上映。
生徒同士の会話でも、生理という言葉を使うことへの抵抗感が減ってきたといいます。
(浜松市立高校放送部3年・杉浦杏菜さん)
「番組を作ってから、生理痛つらくて休みますみたいな連絡も結構来るようになったし、生理っていう言葉を使いやすくなった、みんな普通に言えるようになったなと感じます」
■生理のつらさを受け止めてくれる社会へ
高校の家庭科の授業では、今後この作品を生徒たちに見てもらい、性別を問わず生理に対する理解を深めていきたいとしています。
生理をタブー視するのではなく、正しい知識と思いやりを持って接することが当たり前になってほしい。戸田さん、杉浦さん、藤田さんが描く未来です。
(浜松市立高校放送部3年・杉浦杏菜さん)
「男性も女性も全員が知るってことが大切だなと思っています。まず生理を知ること、それからやっぱりつらい時につらいって言えるような、それを当たり前に構えていられる社会になってほしいなって思います」
(浜松市立高校放送部3年・戸田涼太さん)
「取材の中でも悩みを聞く場面が本当にたくさんあったんですけど、ここまで悩みの幅が広いのかっていうのをすごく感じました。この番組をきっかけにしてどんどんそういったデリケートな問題が改善に向かっていって、少しでも生理ということが話しやすい環境になったらいいなって思います」
(動画はこちら。公開は2024年1月13日まで)