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首都直下地震シミュレーション “仮住まい困難者”最大112万人? 住まいの備えチェックリストも

  • 2024年3月15日

最大震度7の揺れが襲うとされる、首都直下地震。過去に起きた地震では、新耐震基準を満たした住宅でも、住み続けられなくなるケースがありました。

そうした中、都内だけでも最大112万人が、仮設住宅などに入れず、壊れた家での生活などを強いられうることが、最新のシミュレーションから明らかに。さらに、住宅ローンに加えて、多額の負債を抱えるリスクも指摘されています。

こうした事態への備えを進めるためのチェックリストや、最低限知っておきたい制度などを取材しました。  
(首都圏情報ネタドリ! 取材班)

13人に1人が“ 仮住まい困難者”に?

被災後の住まいについて研究してきた、専修大学の佐藤慶一教授です。被害想定や、国の住宅データなどを組み合わせ、東京都を対象に、シミュレーションしました。

明らかになったのは、人口が密集する首都圏ならではの"仮住まいの不足"です。

まず、住むことが難しくなる住宅を、「全壊」や「半壊」、「焼失」と設定し、都の被害想定などから独自に算出。最大105万6000戸に上ります。

これに対し、建設が見込めるプレハブの仮設住宅は、用地などをもとに推計すると、4万戸にとどまります。

「みなし仮設」などになる、賃貸住宅は、国の住宅データなどから、49万3000戸と算出しました。

残る52万3000戸の住民が、地元の自治体が提供するプレハブの仮設住宅やみなし仮設に入れない、いわば「仮住まい困難者」になりうることが浮かび上がったのです。

戸数から人数に換算し、自治体ごとに記したマップです。

紫で示されているのは、「仮住まい困難者」が10万人以上出る自治体です。

最も多い足立区は18万2000人で、住民の4人に1人。

江東区は、15万9000人で、住民の3割にのぼります。
大田区や世田谷区でも15万人を超え、次いで、江戸川区は13万6千人になります。

都内全体では仮住まい困難者は、112万2000人。(島しょ部のぞく)

都民の13人に1人が、壊れた家に住み続けたり、被害の少ない他の地域への転居を迫られたりする恐れがあるのです。

仮住まい不足 能登半島地震での実態

大地震が発生したあと、住まいに被害があった人は、避難所、そして仮住まいへと移り、その後復興へ至ります。能登半島は現在、仮住まいへと移行をしている局面にあたります。

現状の課題を調べようと、佐藤教授は2月、石川県を訪ねました。住宅の被害は8万棟を超えています。
地震のあとに大規模火災が発生した輪島市。訪れた時は、がれきがまだ残っていました。

首都圏でも火災のリスクが高いエリアが多く、こうした被害は他人ごとではないといいます。

一方で、地震から1か月半がたち、仮設住宅の建設も始まっていました。東日本大震災などの教訓から、換気や断熱性などに配慮した仮設住宅も開発されています。

しかし3月末までに着工が予定されているのは4600戸。
大きな被害を受けた自宅で避難生活を続けている人も少なくありません。

液状化の被害にあった自宅に住み続けている男性は、不安な思いを話してくれました。

被災した
男性

余震が来ると、ひび割れたところがまたずれてくる気もするし、大きいのが来たらどうなるかわからないです。

 

「みなし仮設」などとしても使われる賃貸住宅の需要はどうなっているのか。佐藤教授は揺れによる大きな被害を免れた金沢市の不動産会社を訪ねました。すると、被害が大きかった場所からの引っ越しを検討する人たちから、問い合わせが相次いでいたのです。

不動産会社専務取締役 清水秀晴さん
「一番初めに弊社に問い合わせがあったのは、地震の翌日の1月2日。ピークの時は一週間で200組ほどのお客さんが来られていました」

被災者が直面する、住まいの問題。佐藤教授は、首都直下地震では一層深刻になると考えています。

専修大学 佐藤慶一教授
「かなり早い段階から多くの方が賃貸住宅を探されている。首都直下地震では数が多くなるから、対応のマネジメントが大変問題になると思います」

住宅ローンに加え 多額な修繕費の負担

首都直下地震が発生すると、仮住まいの問題に加えて、住まいを再建する際にも大きな負担がのしかかってきます。

都市の直下で起きた、8年前の熊本地震。住宅に加えて多くのマンションが被害を受けました。

分譲マンションに住んでいた奥田俊夫さんが直面したのは、修繕費用に関わる問題です。

外壁のヒビや、渡り廊下の破損など、複数の被害が出ましたが、自治体のり災証明では、構造には深刻な影響がない「一部損壊」とされました。

奥田さんたち住民は資産価値など、今後の影響を懸念。業者に修繕工事を依頼しました。

すると、当初提示された見積もりは、1億2000万円に上ったのです。

被害が軽度とされたこのマンションの場合、地震保険の区分では「一部損」とされ、支払われたのは契約金額の5%にあたる750万円にとどまりました。

大規模修繕のための積立金2650万円をあてても、8600万円ほどが不足したのです。

「半壊(半損)だと7500万円(契約金額の50%)の保険金が出ますが、うちの場合は一部損壊(一部損)ですので…。なんとかならなかったかなと思うけれど、制度上、しかたなかったです」

住民たちは、工事の内容を絞り込むことで、費用を9000万円にまで圧縮。

それでも1世帯あたり150万円の新たなローンを背負うことになりました。

奥田俊夫さん
「最初に地震が起きたときには、まず“命を守る”。その次は復旧ですが、やっぱり最終的に金が出てくるのです。何もないときに、きついけど資金を貯めていくというのは必要かもしれません」

マンションの“復旧工事”で訴訟に?

さらに、住まいの復旧にあたって、マンションならではの難しさに直面した人もいます。

熊本市内から転居した70代の夫婦は、終(つい)のすみかにしようと購入したマンションが、地震で被害を受けました。

一階部分が激しく損傷し「全壊」と判定。およそ4000万円の住宅ローンを払い終えた直後でした。

このマンションでは、住民の多くが同意し、復旧工事を行うことを決定。ところが思わぬ事態が起きました。

大きな被害を受けたマンションの復旧工事は、部屋の所有者の4分の3以上の合意があれば行えます。

一方で、決議に賛成しなかった所有者は、部屋の買い取りを請求することができます。この権利を一部の人たちが行使して、裁判を起こしたのです。

今まで一緒に住んでいた人が…それも、同じ被災者なのに。

ずっと頭にありました。どうしようか、どうしようか、どうしようか、と。

さらに、マンションの被害が当初の見込みより大きいことが判明し、解体を決断。

行政の補助制度などを利用したため、解体費用の負担はほとんどありませんでしたが、夫婦は老後を見越した資産を失うことになりました。

災害復興法学が専門の岡本正弁護士によると、もしものときのために、「まず知っておいてほしい」という制度が3つあるといいます。

一つ目は、住宅の被害を判定し、公的な支援を受けるための出発点となる、り災証明書。

二つ目は、被災者生活再建支援金。自宅が被害を受けた場合に支給されます。

基礎支援金と加算支援金があり、最大で300万円の現金を受け取ることができます。

三つ目は、被災ローン減免制度(自然災害債務整理ガイドライン)。自宅が被災して壊れても「ローン」は残りますが、制度を使うことで、災害前のローンの減額や免除ができます。自治体が支給する支援金などに加え、預貯金を500万円まで手元に残すこともできます。ブラックリストに登録されることもありません。

弁護士 岡本正さん
「全く知らずに悩むのと、何かしらの手段があると知っているのでは、大きな違いだと思います。被災した場合どんな支援が受けられるのか、誰もが被災しうる日本では国民全員に知識の備えが必要だと思います」

生活再建に関わる詳しい制度はこちら
災害で自宅が被災 支援金を受けるには…生活再建のポイント

あなたの家は大丈夫?防災チェックリスト

被災後の暮らしについて、具体的に考えるきっかけになるツールとして使えるチェックリストがあります。岡本さんが、他の専門家や東京都と共に「東京仮住まい」プロジェクトで取りまとめたものです。

弁護士 岡本正さん
「このチェックリストで△や×がついたら、大災害のあとに住まいの問題で苦労する可能性が高くなります。もし今の住まいに住み続けられなくなったら、広域避難、仮の住まいが必要になることを自分ごととして考えるきっかけにしてほしいです」

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