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謎解きフェイクゲーム「レイのブログ」今井善太郎さんらが開発 SNSとのつきあい方楽しく学ぶ

  • 2024年3月12日

偽の救助要請や偽の寄付サイト、偽のニュースサイト…。
東日本大震災や能登半島地震のような災害時、混乱に便乗したフェイク情報の拡散が相次いでいます。中には、誤った情報を信じ込ませて詐欺を働くケースも。
平常時からフェイク情報にだまされない方法を学ぶ必要性が指摘される一方、こんな声も。

「大事だけど自分ごとと思えない」「退屈で学ぶ気にならない」

そんな中、大学生3人組が開発した、ある「謎解きゲーム」が注目を集めています。
参加者は「楽しかった」と口々に話しながら、フェイクを見抜く方法を学んでいました。
(首都圏局/ディレクター 藤松 翔太郎)

4つの謎を解け! 遊んで学ぶフェイク対策

講師
「このブログには誤情報や偽の情報が紛れています。自分で調べて見抜けると、謎が解けます」

1月、「謎解きゲーム」を通じて情報とのつきあい方、メディアリテラシーを学ぶ授業が、都内にある日本語学校「渋谷外語学院」で行われました。参加したのは、アメリカや中国などからの留学生たち。フェイク情報を用いた詐欺被害なども増える中で、身を守る方法を学ぼうと参加しています。

参加者

怪しいところみつけた?

参加者

見つけられない。

助け、呼ぶ?

講師

もうヒントもらっちゃう?早いんじゃない?

え~

参加者同士でチームを組み、どのグループが最初にすべての謎を解くことができるか、競いながら進められます。 

ゲームの舞台はある中学校。
生徒のカバンから見覚えのない封筒が見つかるところから「謎解き」が始まります。

封筒には、クラス名簿とQRコードが印字された紙。そして、「レイ」と名乗る人物からの挑戦状が。
そこには、「”私”を見つけてください」とのメッセージが書かれています。

参加者が自身のスマホでQRコードを読み取ると、「レイのブログ」というサイトにつながります。
「父とドライブ」、「最近ハマっているもの」などのタイトルで始まる4つのブログにはそれぞれ「うその情報」が紛れています。それを探し出すことで、”レイの正体”に迫っていくという設定です。

「うその情報」には、実際にSNSなどで拡散されたフェイク情報の特徴が織り込まれています。
情報が正しいのか、間違っているのかを検索サイトなどを使って調べながら謎を解きます。謎を解く過程を通して、日常の中でも情報の真偽を確かめることができる方法を自然と学んでもらうのがねらいです。

この参加者たちが最初に挑戦したのは「アジア終了のお知らせ」というタイトルのブログ。

開くと、「日本は65歳以上の人口比率が世界で最も高い」「ランキング上位3国がアジアの国になった」という趣旨の架空の記事が出てきました。この中から、誤情報を探します。
参加者たちが「世界の高齢化率」について検索サイトで調べると、確かに「1位日本、2位韓国、3位シンガポール」という記述の記事が出てきました。

しかしそこには落とし穴が。よく見ると、この記事は「2020年までのデータ」を元に書かれていて、”古いデータ”が使われていました。

この「古いデータが使われている」という特徴は、意図的か否かは別として、フェイク情報が記載された記事に見られる特徴の一つです。「ランキング」や「データ」という一見、分かりやすく覚えやすい情報は鵜呑み(うのみ)にしやすい傾向にありますが、その情報の中にフェイク情報が紛れている可能性があること、そして見破る際には一度立ち止まり、データが更新されていないかを確認することが必要、ということを謎を解く過程で学ぶことができるような仕掛けになっていました。

実際に参加者たちが、更新されたデータがないかを改めて確認したところ、2022年のデータを元にした65歳以上の人口比率が出てきました。

参加者

あ、1位日本じゃないかも。モナコだ


そこには「1位モナコ、2位日本、3位イタリア」と書かれていて、ブログの記事に誤りがあることが判明。レイの正体を見抜くキーワードの一つを入手した参加者は残り3つの謎解きにのめり込んでいきました。

大学生3人が謎解きゲームを作った理由

謎解きゲームを開発し、授業で教えているのは、慶応義塾大学に通う3人組。
学生グループ「ClassroomAdventure」の今井善太郎さん、古堅陽向さん、堀口野明さんです。

(左:古堅陽向さん 中:今井善太郎さん 右:堀口野明さん)

彼らは学校で一緒にプログラミングを学ぶ同級生。ある共通した思いがありました。

中学や高校で自分たちが受けてきたメディアリテラシーの授業が「退屈だ」と感じていたことです。

今井善太郎さん
「僕らはこの前まで高校生だったので、それぞれメディアリテラシーの授業は受けたことがありました。でも、おもしろくなかったから授業を聞いていなかった。先生たちは『SNSは絶対危険だから使うな』とか『君たちにはまだ早い』みたいな言い方をするけど、みんなは使っていたので、どう使いこなすかということを教えてほしかった。ファクトチェックとかフェイク対策はテストにでるわけでもないし堅いテーマなので、大事なことなのに学ぶ気にならない。楽しく学べるのがいちばん大事だなと思って、自分たちの得意分野を持ち寄って作ってみることにしました」

大事なのに、つまらない。共通した問題意識を持つ3人が、自分たちにできることがないかと考え開発したのが、謎解きゲームを使った授業でした。

漫画やアニメが幼いころから大好きだったという堀口野明さんは、絵を描くことが得意。
母の日には、母親に絵を送ることも多いという彼は、謎解きゲームの中に出てくるキャラクターや教室などのデザインをすべて手作業で行っています。

動画配信を行う両親の影響で、動画編集にのめり込むようになったという古堅陽向さんは、映像編集を担当。ゲームに登場する音声もメンバーや友人で自撮りし、アニメと重ねていきながら、参加者が自然と謎解きの世界観に没頭できるよう模索を続けています。 

授業全体の演出とゲームを実装するプログラミングを担当する今井善太郎さんは、自分だったらこのゲームで「つまらない」と感じないか、気持ちが途切れないかなどをメンバーで正直に意見を出し合いながら、授業の最後まで興味を持ち続けてもらえる工夫を凝らしています。

3人は経験を積むため、情報の真偽を確かめる「ファクトチェック」のスキルを競う大会にも出場。
2022年の日本大会で優勝したのち、世界大会では4位になりました。

この大会をきっかけにメンバーのうち2人は、事実検証の実践や情報リテラシーの普及に取り組む非営利組織「日本ファクトチェックセンター」のインターンシップにも参加。実際に世の中に氾濫するフェイク情報の検証などを日々行いながら、謎解きゲームを授業に取り入れています。
3人が行う謎解きゲームを使った授業は、1年前から始め、全国の中学校や高校、大学などから声がかかるようになりました。

目白大学 授業の様子

授業をするたびに発見があるという3人は、参加した人たちにおもしろかったところだけでなく、つまらないと感じたり、集中できなくなったりしたポイントも合わせて聞くようにしています。そして、すぐにゲームの内容や授業の進め方で改善をはかりながら、よりおもしろいと感じてもらえる授業を追求しています。

今井さん
「大会に参加したときから感じているのですが、ファクトチェックという作業自体が、結構謎解きに近いなと感じていて、自分で調べて間違っているポイントを見つけたときは楽しいと感じるし、もっとみつけたくなるという感覚があります。参加者の人の反応とかを見ながらここをもう少しおもしろくできそうだなとか常に改善を意識して、とにかく楽しさを追求するようにしています」

留学生がフェイク情報や詐欺のターゲットに?

これまで日本の中学生から大学生に授業を届けていた3人ですが、その取り組みは世界からも注目を集めています。「この謎解きプログラムはフェイクニュースに対する持続可能で全く新しいアプローチだ」として米Google社からの招待を受け、去年12月にシンガポールで行われたメディアサミット「Trusted Media Summit2023」に登壇したのです。

日々、世界中でフェイクニュースなどの検証にあたるファクトチェッカーや各国のメディアが集う場で、取り組みを紹介し、英語版もリリースしました。アメリカや台湾にある高校で授業を行う準備も始めていて、活躍はグローバルに広がっています。

世界各国から、日本語を学びに来た留学生の指導に当たる教師は「フェイク情報を使った詐欺などで被害にあう留学生が増えている」という危機感があると言います。

渋谷外語学院 小林哲子さん
「例えば留学生は日本で銀行口座を作っているのですが、帰国するときに『その口座を売ってくれ』と言われて、知らないうちにいわゆる特殊詐欺に利用されるというケースを聞いています。また、オレオレ詐欺の留学生版みたいなことも起きていて、言語の問題もありますし、留学生は限られた情報源しかみていないので、『オレオレ詐欺がはやっているよ』や『フェイク多いよ』という注意喚起の情報があっても、それを知らないまま引っ掛かっちゃうということがあるので心配していました」

実際に、この授業を受けていた参加者に身近にフェイク情報の被害がないかを聞いてみると。
「スマホのショートメールに届いたリンクを開いてしまい危うく詐欺の被害にあいそうになった」
「引っ越そうと住宅の情報を探していたときに、ウソの住宅情報が大量に送られてきた」

など学生たちの身近なところにも、フェイク情報による被害が忍び寄っていました。

授業に参加したアメリカからの留学生
「日本は安全な国という感覚があるので、日本人から声をかけられたり日本語での情報だと信じてしまいやすいと思う。他の国にいるときより気を抜いているかもしれない。ですから、フェイクに引っかからない方法を学べる今回の授業とかはもっと増えてほしい」

謎解きで学ぶ「動画」「投稿」に潜むフェイクの見抜き方

謎解きの過程で解く問題には、フェイク情報が入ったテキスト記事だけでなく、動画やSNS投稿に潜むフェイクについても取り上げられています。
この留学生たちが挑戦しているのは動画の検証です。

SNSで拡散されるフェイク情報の中でも、投稿文に動画を添えて発信するケースもあり、文章だけのものよりも信じてしまいやすいとの指摘もあります。実際、災害発生時には被災した場所での映像などとして、津波の映像や火災の映像など「臨場感のある映像」が投稿されることがありますが、中には、数年前に全く別の場所で撮影されたものやAIを使って制作されたものなどが確認されていて、注意が必要です。

授業の中では「国道5号線」で撮影したものという趣旨の文章と共に動画のリンクが添えられています。
参加者はこの動画が、本当はどこで撮られていたのかを確認します。
スマホで動画を視聴する際、一時停止ができるため、何度も動画を停止しながら、映っている店の看板や交差点などの名前が入ったか所がないか、チェックしていきます。

留学生

この駅?この駅?青物…

ホテルの看板に書かれていたのは「青物横丁駅」という駅名。この情報を地図アプリに入力し撮影場所を検索。すると、この動画は「国道15号線」であることが明らかになりました。

さらにこの授業では、「いつの写真か」を確認する地図アプリの機能についても紹介されていました。
たとえば、スマホでグーグルマップを使い、「高輪ゲートウェー駅」付近を検索。実際の場所を画像で見ながら確認できる「ストリートビュー」を開くと、下のような再開発が行われているビルが出てきます。そして、この画面を長押しなどすると「他の日付を見る」という項目が青字で出てきます。

(左:2024年3月 右:2022年10月)

これは、「ある地点の○年前の姿」をさかのぼってみることができる機能です。「2024年3月時点」で出てきたビルは、同じ場所の「2022年10月時点」の画像ではまだ見当たらず、青空が広がっています。
このように、フェイク画像を確認する際には、どこで撮られたかに加え、同じ場所でも現在と過去で全く違うものが存在しているケースもあるため、「いつ撮影されたものか」をアプリの機能を使って、さかのぼって確認することもできるということが伝えられていました。

今井さん
「怪しげな情報があった、疑う、調べるというスキルは持ってほしい。実際ゲームでだまされた経験がある人や、ゲームの中でフェイクの情報を見つけた人は、これから意識するようになると思うし、そうした習慣を築いてほしいなと思っています」

ふだん、目にする画像や情報にフェイクが混ざっているかもしれないと、すべて確認していくことはとても大変なことですし、ほぼ不可能に近いことだと思います。しかし、例えば友人や家族、フォロワーなどにシェアするなど、自分以外のだれかに伝える、という場合だけでも、一度立ち止まって確認をしてみるということも大切です。
事実かフェイクか確認したいと思う場面がいつ訪れるかわかりません。そんな中で、謎を解くという「遊び」を通して、確認したいと思ったときに使える「武器」を増やしておくという取り組みは、今後のネット社会を生きる上でとても大切なことのように感じました。

  • 藤松 翔太郎

    首都圏局 ディレクター

    藤松 翔太郎

    2012年入局。仙台局、福島局、報道局を経て現所属。 がん、フェイク情報、原発事故などを継続取材。

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