冬の時期、乾燥で肌のトラブルを心配する人も多いのではないでしょうか。
今、肌が「つるつる!」「すべすべ!」になると評判の入浴剤が話題となっています。
群馬大学が開発した入浴剤で、臨床試験の結果、アトピー性皮膚炎の症状を緩和する効果もあったそうです。この入浴剤が生まれた背景には、群馬のやっかいものの存在がありました。
(前橋放送局/記者 千明英樹)
群馬県伊勢崎市にある日帰り温泉施設です。大学が開発した入浴剤を使ったお風呂が人気を集めています。
つるつるですよ、顔だけじゃなく足の先まで。
ほかの温泉も行きますけど、ここが一番。
遠いけどここまで来てしまう。
利用客へのアンケートでは、ほとんどの人がその効果を実感していて、ほぼ100%の人が「また利用したい」と答えました。
多くの人が「つるつる」に感じるのは訳がありました。
大学の研究で、入浴剤の主な成分のうちマグネシウムとカルシウムの含有量が、人気の化粧水とほぼ同じだということがわかったのです。
この研究をした群馬大学大学院の板橋英之教授です。環境化学が専門で、群馬県が抱えるあるやっかいな課題の解決に向けた研究の中でこのデータにたどりつきました。
その研究とは、群馬県有数の温泉地、草津温泉。そこから流れ出す強い酸性の川の対策です。
この川の水を生活で使えるようにしようと、昭和39年から24時間、休むことなく石灰を川にまいて中和する取り組みが行われています。
ただ、課題もあります。川の水にわずかに含まれる有毒なヒ素などが石灰によって沈殿し、下流のダムにたまるため取り除く作業に年間2億5000万円かかっているのです。
安全でコストのかからない中和方法がないか。
長年の課題の答えを見つけ出そうと板橋教授の研究室は、4年前から実験を繰り返してきました。
そうした中、板橋教授はこんな発言にはっとしたと言います。
学生が、実験をすると「手がすべすべになるんです」と言ってきたんです。それを聞いたときに、「君、何の実験やっているんだ」と思いましたが、思いもよらないことに展開した。
当時、実験で使ったのがこの「サンゴライト」と呼ばれる天然鉱物です。数千万年前のサンゴなどが堆積してできたもので、研究室にたまたま置いてあったものでした。
価格が高いため、中和剤として石灰の代わりに使うことにはなりませんでした。
ただ板橋教授は学生が口にした「すべすべになる」という、その効果を生かせないかと考えました。人気の化粧水と成分がほぼ同じだったことから、美容の面での活用ができないかと考えたのです。
河川の中和ではすごく高いものになってしまいますけど、化粧品の材料であれば、それほど高くはない。
板橋教授は今、美容の効果からさらに医療にも生かせないかと研究を重ねています。
群馬大学病院の協力を得て、症状が比較的軽いアトピー性皮膚炎の患者13人への臨床試験を実施しました。2週間ずつ、普通の風呂とサンゴライトの入浴剤を入れた風呂に入ったあとの皮膚の状態を比較しました。
医師の所見結果です。
棒グラフが短いほど、発しんやかぶれが少ないことを示しています。
患者自身が答えた評価結果です。
こちらも、棒グラフが短ければ、かゆみなどが収まっていることを表しています。
入浴剤を入れた風呂につかることで、アトピーの症状が緩和されたというこの結果は、日本皮膚アレルギー学会にも発表されました。
群馬のやっかいものと、研究の気づきから生まれた発見。
板橋教授はさらに研究を進め、困っている人たちの役にたてていきたいと意気込んでいます。
群馬大学大学院 板橋英之教授
「どの成分が具体的に肌にどう作用しているのかっていうまではまだ解明には至っていません。それを突き止める。そうするとその成分をうまくもっと増やしてあげれば、アトピー性皮膚炎の患者さんにとってより効果の高いものが生まれる。そこまで目指してやっていきたい」
今回、アトピー性皮膚炎の症状の改善が見られたのは、軽症の患者を対象にした臨床試験だったということです。板橋教授は、次はより症状が重い患者の人にも試してもらって効果を検証したいと話していました。
この入浴剤。現在は群馬県や栃木県にある一部のコンビニエンスストアや、インターネットで販売しています。販売直後から人気で、今も品薄の状況が続いているということです。
アトピー性皮膚炎でお悩みの人は多いと思いますし、これからの季節は乾燥するので肌のトラブルも心配する人も多いのでないでしょうか。一度、試してみるのもいいかもしれません。