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現役の駅員「できることに限界も…」痴漢対応の現場とは

#本気で痴漢なくすプロジェクトNO.8
  • 2022年6月17日

「警察ではない私たちは、犯人だと判断したり、同意なく連行したりもできない。現場でできることには限界がある」
毎日ホームに立つ現役の駅員のことばです。
鉄道の駅や車両で起きる痴漢被害を前に、現場ではどのような対策をとっているのか。取材を進めると、分刻みのダイヤに追われる中、対応に苦慮する駅員の姿が見えてきました。
(首都圏局/記者 岡部咲・金魯煐)

痴漢・盗撮被害に遭った、または目撃したことはありますか?
あなたの体験やご意見をこちらの 投稿フォーム にお寄せください

鉄道各社の取り組みは

昨年、都内で検挙された迷惑防止条例違反(痴漢など)は約1400件にのぼりますが、そのおよそ半数は鉄道の駅や車両内で発生しています。

警視庁HPより

鉄道各社は、相次ぐ被害を防ごうと、女性専用車両を導入したり、駅構内や一部の車両に防犯カメラを設置したりするなど対策に取り組んでいます。さらに毎年6月には、警察と連携して「痴漢撲滅キャンペーン」を一斉に展開。駅構内に啓発ポスターを掲示し、「痴漢対策を強化しています。お困りの方やお気付きの方は、駅係員にお知らせください」などと呼びかける放送も流しています。JR東日本の担当者は、「被害にあったら、車内にある『SOSボタン』をちゅうちょなく押してほしい」と話します。
 

駅員から「自分で捕まえて」と…

番組の投稿フォームに寄せられた意見でも、「駅員さんに助けを求めた」「駅員さんが警察に通報してくれた」など、痴漢被害に遭ったとき駅員を頼ったという声が多く見られました。
一方で、こんな声も。

40代女性
駅員に話したら「私たちは警察じゃないんだから自分で捕まえて」と言われてしまいました。

女性
犯人を捕まえて、本人は認めているのに謝らず、駅員の方も何も言ってくれませんでした。怖い思いをして捕まえたのに、警察に突き出してくれるわけでもなく、そのまま解散した。

現役の駅員 “できることに限界も…”

駅や電車で被害が起きたとき、現場の駅員はどのような対応をしているのでしょうか。首都圏の私鉄で働く30代の男性駅員に聞きました。

電車とホームの監視を担当する男性。痴漢被害が発生しても、まずは「お客様どうしのトラブル」として対応せざるを得ないと話します。

現役の駅員
「私たちにとっては被害者・加害者どちらもお客様であるので、痴漢被害が発生した場合、どうしても双方の話をよく聞くところから始めないといけない。さらに私たちは警察ではないので、犯人だと判断することもできず、同意なく連行することもできません。話を聞こうとして逃げられてしまうこともあります」

また、朝晩のラッシュ時には、分刻みのダイヤを遅れずに運行するため、細かくスケジュールが定められているといいます。個人の意見としたうえで、駅員一人ひとりの立場では、できることに限界があると明かしました。

「女性専用車両も導入しているし、ポスターや放送で注意喚起し、警察とも連携していて、やれることは出尽くしている。被害者の要請に応じて、警察への通報もしますが、被害申告があって初めてこちらも動けるので、対応が後手に回ってしまう。限られた人員で職務に追われる中、これ以上の予防は正直難しいと思います」

その場で迷わず110番を

警察庁で性暴力の被害者支援などに取り組み、現在、慶應大学に出向している小笠原和美教授は、痴漢被害に遭ったり、目撃したりした場合は「迷わず110番を」と強調します。また、加害者に逃げられてしまった場合でも、通報することで検挙につながる可能性があると指摘しています。

慶應大学 小笠原和美教授
「鉄道会社には警察のような捜査権限がありません。駅員に助けを求めるとともに、迷わず110番していただきたい。警察は呼ばれれば来ますので、被害に遭った、見かけたというその時点で相談してほしい。犯人が逃げてしまったというケースはたくさんありますが、犯人の年齢や特徴、乗車駅など断片的な情報でも、積み重ねることによって1人の人物を浮かび上がらせることはできる。110番して情報を教えていただくと、その後の捜査で非常に有効です。また、目撃したけれど被害者が立ち去ってしまったという場合でも、一般人からの目撃通報ということできちんと記録に残すこともできます」

“一人ひとりが痴漢を見逃さない”

小笠原教授は、鉄道会社が、啓発ポスターを駅構内だけではなく車両内に掲示することや、110番通報を促す放送をすることなど、さらなる対策に取り組むことが被害防止に有効だと指摘しています。そのうえで、私たち一人ひとりが、被害を目撃したときに見て見ぬふりをしないことも大事だといいます。

「被害に遭って声をあげたけれど、誰も助けてくれなかったとか、駅員さんに言ったけれど『加害者がその場にいないと対処できない』と言われてしまったとか、自分の声を周囲に受け止めてもらえず、それ以降、誰にも相談できなくなったという方が多くいます。このような周囲の対応が、『痴漢は日常茶飯事だから我慢するもの』というような認識を醸成しています。被害を訴えることを諦めさせない社会にするためにも、私たち一人ひとりが痴漢を見逃さない、被害者をきちんとサポートすることが重要です」

被害撲滅に立ち上がった企業

痴漢被害をなくそうと、アクションを起こした企業があります。
若者向け化粧品の企画・販売などを手がける都内の企業が、顧客である中高生が抱える社会問題を解決したいと、CSR活動の一環として痴漢抑止を呼びかけるポスターを作成。入学シーズンとなる4月に合わせ、取引先である大手アパレルショップや量販店に協力を呼びかけ、全国のおよそ40店舗で掲示をしました。

ポスターは多くの人の目にとまるように、若者に人気のイラストレーターが描いた女子高校生のイラストに「痴漢は犯罪で、悪いのは100%加害者です」というメッセージを添えました。
 

「サン・スマイル」鹿島結さん
「自分たちの学生時代にあった痴漢被害が、今の時代もまだなくなっていないんだと大きな衝撃を受けました。毎日の通学途中に嫌な思いをしたり、痴漢のせいで自分の好きなファッションを楽しめなかったりする中高生のために、大人として、企業として、発信をしなければと思いました。痴漢を許さない社会をつくり、10年後、20年後の次の世代には、『かつて痴漢なんて犯罪があったんだよ』と言えるようになりたい」

今後も「#本気で痴漢なくすプロジェクト」として痴漢についての取材を継続していきます。
痴漢被害に関するご意見をこちらの投稿フォームにお寄せください。

  • 岡部 咲

    首都圏局 記者

    岡部 咲

    宮崎局、宇都宮局を経て、現在は教育などを担当。痴漢被害を継続して取材。

  • 金 魯煐

    首都圏局 記者

    金 魯煐

    通信社記者などを経て2022年入局。 ジェンダーやSRHR(性と生殖に関する健康と権利)について取材。

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