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生産緑地の“2022年問題”とは 都市部から畑が消える!?

  • 2022年6月24日

最近、不動産屋で働く友人から「ことし畑が一気になくなって、土地の価格が安くなるかも」と聞きました。どういうことか調べてみると、都市部の畑である「生産緑地」が一斉に宅地になるかもしれない“2022年問題”があるというのです。
災害時の避難や、環境保全の面でも、実は重要な役割を果たしている生産緑地。本当に姿を消してしまうのでしょうか?現状を取材しました。
(首都圏局/ディレクター 大森健生)

都市部でできる「農業」がコロナ禍で大人気!

1都3県には、5340ヘクタールもの「生産緑地」と呼ばれる畑があることを知っていますか?その広さは、東京ドーム1140個分以上とも言われています。
こうした都市部の畑では、コロナ禍以降、農業体験が密にならない身近なレジャーとして、注目を集めています。

参加者
「近所にずっと畑があったので、何か関わりたいと思っていて、(体験は)子どもと一緒にできると思ったので、やってみようかなと。外に出られるし、密にならずにいろいろできるので、いいなと思ってます」

東京・世田谷区で収穫体験をおこなっている農園では、コロナ前の利用者は10人ほどでしたが、今は100人ほどまで増えました。取材に行った日には、過去最高の200人近くが集まり、開始からわずか1時間で全ての野菜が収穫されました。

農家
榎本一夫さん

来週、再来週もやる予定だったのですが、もうほとんどきれいになくなっちゃって。大人気でありがたいです。

 

首都圏と関西の都市部を中心に、初心者でも手ぶらで野菜作りができるサービスとして、「貸し農園」を展開する企業でも、コロナ禍以降、新規契約者数が倍増。2019年は93農園でしたが、現在は125農園(今年6月時点)まで数を増やしているといいます。

人気の裏で…ことし都市部の畑が激減する!?

しかし、ブームとは裏腹に、都市部の畑「生産緑地」が急激に減少する事態が迫っています。
生産緑地がこれまで受けてきた優遇措置がなくなろうとしているのです。

生産緑地の制度が始まったのは1991年、バブルの絶頂期。
都市部の宅地開発が過熱し、農地が失われる危機にありました。生産緑地の一斉宅地化を危惧した国は、「30年間農業を続ける」などの条件で生産緑地として指定し、固定資産税や相続税の減額などの優遇が受けられる制度を作ったのです。

ことし、生産緑地の多くがその期限となる30年を迎えます。優遇措置が終わることで、税金を払えなくなった農家が農地を売却し、住宅などに変わっていくと考えられています。
都市部にある多くの生産緑地が一斉になくなると危ぶまれていることから “2022年問題”と呼ばれています。

そもそも、都市部に畑って必要なの?

都市部から畑が減ってしまう、そう言われてもなかなかピンとこないという方も多いかも知れません。しかし、都市の農地について研究している東京大学教授・安藤光義さんによると、都市部に畑があることは、農家ではない私たちにとって多くのメリットがあるといいます。

安藤教授

例えば、新鮮な農産物を供給してくれる。食料自給率という観点でも重要な役割を担っています。さらに、災害時の防災機能、教育の面でも注目されています。

 

都市農地のメリット
(1)新鮮な農作物の供給 食料自給率に寄与
(2)環境保全 生物の保護、雨水の保水など
(3)防災機能 火災時の延焼防止、地震時の避難場所、仮設住宅建設用地など
(4)教育機能 農作業体験、食育、自然とのふれあいなど

「畑を手放さないと路頭に迷う…」農家の苦悩

神奈川県・秦野駅から車で5分ほどの所に、約2500坪の生産緑地を所有する清水尊さん(86歳)。清水さんの一族は江戸時代から350年以上、この土地で農業を営んできました。

これまで、固定資産税は減額され、支払い額は清水さんの農業収入の約0.3%にあたる金額で済んでいました。

今年の11月で生産緑地の指定期限を迎え、優遇措置が解除されると、その金額は段階的に上がり、5年後には農業収入の約65%まで増額されます。
さらに、その土地で農業をせず、清水さんから親族に相続する場合、相続税は、“農業収入の約40倍”にあたる額に。それを10か月以内に払う義務が生じるのです。

清水さんは、息子や孫の世代に迷惑をかけたくないと、畑を手放す決断をしました。

清水尊さん

5年10年じゃない、何百年と続いた土地だし、手放したくないけど、後を継ぐ子がいないし、私が亡くなったとき相続税がかかってくる。とてもじゃないけど、払いきれない。家族が路頭に迷っちゃう。

「2022年問題」 食い止めるための応急処置

生産緑地が一斉に売りに出された場合、不動産市場の混乱や都市環境の悪化などを引き起こす可能性があり、国も食い止めなければいけない課題だと認識してきました。

これを防ぐため、5年前に生産緑地と同等の優遇措置を継続する制度が生まれました。
申請すれば、10年間、営農を続けるなどの条件で、期限を延ばすことができます。
国土交通省の調査によると、現時点で、生産緑地を持つ全国の農家の約90%が「継続する」と答えています。
しかし、その多くは、先の見通しが立っていないといいます。

農家 榎本一夫さん
「先祖の土地を守っていかなければいけない。私は親から受け継いでいますので、なるべく大事にしなければいけないと思っています。おかげさまで跡取りがいますので、なんとか(期限を)延ばしました。いなければ無理ですね。農家の先輩たちもほとんど亡くなって、宅地になっているところが多い。自分が亡くなれば、畑も無くなるかもしれません」

都市部の畑をどう残す?

昨年、農林水産省が3大都市圏の住民2000人を対象に行ったアンケート調査によると、「都市の農地を残していくべき」という声は70.5%に上りました。

しかし、農地の維持を農家の手に委ねているだけでは、都市部の農地はいずれ全て無くなってしまうと、安藤教授は警鐘を鳴らしています。

安藤教授

今の制度のままでは、農地は私有財産であるため、個々の農家の事情によって失われていってしまう。いずれ、全ての生産緑地がなくなってしまう可能性もあります。

現在の制度では、期限を迎えた生産緑地は、所有者から申し出があった場合、市区町村が買い取りをして有効活用するのが原則です。しかし、ほとんどの自治体が財政的な余裕がなく、買い取りは全体の1%未満にとどまっています。
安藤教授は、国や都道府県が財政支援を行い、都市部の農地を買い取ることも進めるべきだと指摘しています。

畑を守るのは“農家じゃない”人々

その上で、都市部の畑を守るために、農家と農地を守りたい住民がつながることが重要だとして、2つのポイントをあげています。

(1)農地を開いていくこと
(2)地域のコミュニティーが作られること

2018年以降に農地を巡る法改正が進み、「農地を開き」やすくなっています。
これまで難しかった“農業者以外”への生産緑地の貸し借りが容易になり、後継者不足を解消する一手になると期待されています。
また、直売所・農産物の加工施設・農家レストランの設置などができるようになり、私たちとの距離が近づくチャンスも増えました。

都市部の畑を地域の人たちとの接点にすることに成功しているところがあります。
練馬区の生産緑地では、“収穫祭”と銘打って、近隣住民に畑作業や炊き出しの体験をしてもらうことで人気を集め、去年は8000人が参加しました。
収穫祭で使う鍋やイス、調理器具などは、災害時にも役立つため、結果として“地域の防災力”を養う訓練にもつながっているといいます。

 

農家
加藤義松さん

イベントを行うことで、普段畑に入らない人々が、初めて畑に入る経験をするなど、敷居を下げる効果もあります。地域の人は「緑」と「食」と「防災」に非常に興味を持っているようで、「安心感につながる」と言ってもらえるのが嬉しいですね。

 

安藤教授

農家には、お金の問題以上に、代々継いできた農地を大切にして、なるべく守っていきたいという意地と誇りがあります。守り続けてもらうためにも、直売所で野菜を買った時には、農家さんに「おいしかった」と声をかけてほしいです。何気ない呼びかけから、話が発展する可能性もある。農業をやめる農家を減らすためには、農家とのコミュニケーションが大きな役割を持っているのです。

取材後記

取材を始めた当初は、「生産緑地がなくなってしまうのは、すべては相続税や固定資産税など税金の問題で、土地を持つ当事者だけが関係する話なのでは」と感じていました。実際土地をどうするかについては農家の方々の判断によるものが大きく、放送をしても何が変わるのだろうと悩みました。しかし実際の農家の方に話を聞くと、都市農地はこれまで長い歴史の中で、私たちのような人々の社会要請、そしてその度に変更される制度に翻弄されてきたと感じました。かつては「農地より宅地にするべきだ」と叫ばれていたのが、「都市農地は守るべきだ」と風向きが変わったいま、自分たちには一体何が出来るのか。この放送や記事を通して、そんなことを感じていただけると嬉しいです。

  • 大森健生

    首都圏局 ディレクター

    大森健生

    東京都出身 2016年入局。 札幌局で戦争や領土問題などを取材、2020年から首都圏局で戦争や文学をテーマに取材を続ける。

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