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車いすでぶどう狩りできます 群馬 沼田 観光農園の試み

  • 2021年11月26日

寒暖差の大きな気候を生かして、ぶどうの栽培がさかんに行われている群馬県沼田市。秋になると、たわわに実ったぶどうを求めて多くの観光客が訪れます。そんな沼田市内では、車いすの人もぶどう狩りを楽しめるようにした、ぶどうの観光農園があります。この農園を作ったのは、自らも病気で歩けなくなった女性でした。
(前橋放送局/映像取材 黒田友)

“車いすでぶどう狩りを楽しめる”観光農園

沼田市北部にある、ぶどうの観光農園「福田ぶどうマルシェ」。この農園では、車いすの人もぶどう狩りを楽しめるようになっています。

一般的なぶどう畑は、大人の頭の上ほどの高さに実がなる「棚栽培」が多いですが、ここでは垣根の形に木を育て、地面から1mほどの高さに実がなる「垣根栽培」でぶどうを育てています。

この方法だと、車いすでも手が届き、ぶどう狩りを楽しむことができるのです。

 

僕みたいな車いすを使う人間でも、ぶどうがとりやすい高さにあります。車いすでも問題なく楽しめるっていうのが、すごくありがたいしうれしいです。

病気で車いすの生活に…

この農園の園主、福田智美さん(43)です。福田さんも車いすで生活しています。以前は医療関係の研究の仕事をしながら、夫の靖さんと都内で暮らしていました。しかし、将来は自然の中で人と接する仕事をしたいという憧れから、夫婦で4年前に沼田市に移住し、2年前にこのぶどう園を開園しました。

福田さんは元々、車いすを使っていたわけではありません。沼田市に移住を予定していた時期の約8か月前、脊髄の病気で、足が思うように動かなくなったのです。

マラソンやスキーが趣味でしたが、自分の足で歩けなくなり、大きなショックを受けました。

福田智美さん
「歩いている人を見ると、なんで自分は歩けないんだろうって考えてしまって。リハビリをやっても元の歩ける生活に戻れるわけじゃないし。自分は何ができるんだろうって諦めつつ悲しいという気持ちでした」

“障害があっても楽しむことができる”

突然の車いす生活となり何も考えることはできませんでしたが、靖さんの後押しもあり、福田さんは予定通り、沼田市へ移住しました。
本来は、夢に向けての楽しい毎日のはずでしたが、車いす生活で、できなくなったことばかりが頭に浮かび、地元の農家でぶどうの栽培研修を受けていた際も、暗い気持ちのまま過ごしていました。

そうした中、視覚障害者向けの旅行ツアーを手伝う機会があり、その時に見た参加者の様子に心を動かされたといいます。

福田智美さん
「視覚障害者の方たちが、説明や少しの介助を受けながら、すごく積極的に旅行を楽しんでいる様子に驚きました。その様子を見て、目が見えないから何もできないではなくて、障害があっても楽しむことができるんだと思ったんです。落ち込んで何もせずにいると、それで終わってしまう。少しずつ自分でできることを増やしていきたいと思いました」

それから、ぶどう栽培に積極的に取り組むようになり、気持ちも少しずつ前向きになっていきました。

「車いすでもぶどう狩りできます」

そうして約1年4か月の栽培研修を終え、夫婦でぶどうの観光農園を開園しました。開園にあたって、福田さんは農園のホームページにあるメッセージを載せました。

「車いすでもぶどう狩り出来ます

福田さんは、自分も含めた車いすの人が、ぶどう狩りを楽しめるように、ぶどう畑に1人で上り下りできる緩やかなスロープや、車輪がスムーズに動かしやすいようにアスファルトで舗装した駐車場などを整備しました。

車いす専用のトイレも畑のすぐ横の売店の中に設置しました。

福田智美さん
「車いすの人でもぶどう狩りを楽しんでもらえるよってお知らせしたくて載せました。車いすだと設備が整っていなくて、出かけることをあきらめることもあります。ここはそうではなく、気兼ねなく遊びに来られるような場所にしたいんです」

“人生で初めてぶどう狩りを体験した!”

ことし9月下旬。初めてぶどう狩りをするという車いすの女性客が訪れました。

 

車いすの私がぶどう狩りをできるなんて思わなくて、きょうは本当にうれしいです。園内もスロープなど、車いすの私にも動きやすい作りになっていて、園主の方が、車いすだからこそ、車いすユーザーの気持ちをわかってくれている感じがしました。

ぶどう狩りが一歩を踏み出すきっかけに。
福田さんは、車いすの人にとって、ここでのぶどう狩りの体験が前向きな気持ちになるきっかけになればと考えています。

福田智美さん
「『車いすだから自分にはできない』と思っていたことができる。それが楽しさとか生きがいにつながっていくと思うんです。『こんなことできたな。次はあんなことができるかな』って思ってもらえる小さなきっかけになればうれしいなと思います」

車いすの人の気持ちを少しでも後押ししたい。ぶどう園には福田さんのそんな願いが込められています。

取材後記

突然の病気で車いすの生活になった福田さん。大きなショックを乗り越えて、前向きにぶどう園を営む様子に、私自身も背中を押される思いでした。

福田さんはインタビューの中でたびたび「何か一つできると、それが次に何かしようかという気持ちにつながる」と話をしていました。それは多くの人にとって共通することではないかと思います。
バリアフリーというと障害がある人に向けた設備の充実のことを考えてしまいますが、本当の目的は、障害があっても自由に物事に取り組み、誰もが前向きに生きる意志を支えるものであると感じました。

こういった取り組みを今後も伝えることができればと思います。福田ぶどうマルシェの今期の営業はすでに終了しています。次は来年9月ごろの予定です。

  • 黒田 友

    前橋放送局 映像取材

    黒田 友

    群馬県内各地のニュース取材などを担当。

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