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東京で進む豪雨対策 最新の「地下調節池」に潜入 役割や仕組みとは?

  • 2023年10月25日

気候変動の進展もあって、首都圏でも毎年のように浸水被害が起きています。

東京23区の地下、およそ50メートルでは対策の“切り札”ともいえるトンネルが掘り進められているんです。その最新状況を取材しました。
(首都圏局/記者 川村允俊)

“環7”の地下で掘り進められるトンネル

「環7」と呼ばれる環状7号線。現場は、この地下にあります。

真下に延びる“立坑”(たてこう)を階段とエレベーターを使って降りていくこと50メートル。
水平に続くトンネルが見えてきます。

トンネルの直径は、およそ10メートルと大きなもの。
600メートルほど歩いていくと、いま掘り進めている場所があります。

使用するのはシールドマシンという掘削用の機械で、今工事している区間はおよそ5.4キロ。
ここは、大雨の際に川の水をためておくことができる“調節池”です。

東京都第三建設事務所 向山公人 工事第二課長
「地盤も硬くて、粘着質の土も出てきていて、なかなか掘り進めるのが難しい状況になっています。しかし、災害は激甚化しています。水害から都民の命や財産を守るべく、できるかぎり早く完成させて効果を発揮させていきたい」

たび重なる浸水被害・貯水施設を待ち望む人

身近な川として親しまれている都内の河川ですが、急激に水かさが上がる特徴があり、たびたび浸水被害が起きてきました。

杉並区に住む五十嵐文郎さん。自宅のすぐ近くには、善福寺川が流れています。

半地下になっている駐車場の横の物置には、泥が残ったままです。
ことし6月の大雨で、泥水が流れ込みましたが、全部を片づけることはできていません。

被害は、今回だけではありません。

罹災証明書は、少なくとも4回発行を受けたといいます。
2018年の大雨の際には、車が水に浸かって廃車になりました。

善福寺川を始めとする神田川水系の河川では、過去には氾濫も起きたほか、水位が高くなることで排水ができなくなることで起きる「内水氾濫」による被害も相次いでいるのです。

五十嵐文郎さん
「水を止めるための“止水板”を買いましたが、大雨になったら超えますよね。だから車は別のところに移動して、ちょっと高台の方に。で止水板をつけてあとはもう、神に祈るしかないという状態で、見守っている状態です」

巨大地下調節池の効果は?

大雨に対応するため、東京都はこれまでも対策をとってきました。

その一つが“調節池”です。
水位が上昇すると、取水施設を通じて水が流れこみます。下流の水位を下げる効果があります。

調節池には、地上に作るものと地下に作るものがあり、都内には現在、地下調節池が3つあります。

このうち、神田川や白子川の流域では中野区と杉並区にまたがって「神田川・環状七号線地下調節池」、練馬区には「白子川地下調節池」があります。

現在行われている工事は、この2つの貯水施設をつなぐものです。

完成すれば、全体の距離はおよそ13キロに及びます。貯水量は143万立方メートル。
小学校の25メートルプール、4800杯分に相当します。

専門家“安全度向上するが操作の難しさも”

こうした地下調節池で、都内の安全度はどの程度増すのか。
首都圏の浸水対策を研究している早稲田大学理工学術院の関根正人教授を訪ねました。

下水などの状況も加味して、浸水の状況をシミュレーションできるシステムを開発しています。

今回想定したのは、1時間150ミリの雨が4時間半にわたって都内全域に降り続いた場合。
1年に発生する確率は0.1%。現在考え得る、最大クラスの大雨です。

連結する工事が終わっていない現時点では、2つの施設は3時間~4時間ほどで満杯になることが分かりました。

都内の非常に広い範囲で緑色の30センチ前後の浸水が発生し、一部ではピンク色で示す、70センチ前後の浸水被害になるという結果になりました。

早稲田大学理工学術院 関根正人 教授
「ピンク色は人的被害がでている可能性が高いエリア。分析から、現状の施設では、気候変動が続く将来は心もとないことが分かりました。施設を連結させて貯水量を増やすことはとても重要です」

2つの貯水施設を連結させることにより、貯水効果は大幅に上がります。

地下貯水池が一つにつながることで、大雨が降っていないエリアの貯水池にも水をためることが可能になり、広い範囲で浸水リスクの低減につながると期待されます。

一方で、関根教授は施設の運用の重要性が増すと指摘しています。

例えば、練馬区に大雨が降っていた場合、南側にあたる杉並区の地下も利用して水をためることも可能です。もしいったん南側に水をためたあと、その地域に大雨が降ってしまった場合、期待した貯水量がためることができず、想定していない浸水被害につながる可能性もあるというのです。

関根正人 教授
「施設が完成すれば安心というわけではありません。川の水の流し込む量やタイミングを見極めなければならず、操作を間違うと、むしろ危険な状況を作ってしまうかもしれません」

施設ができることで安心の度合いは増しますが、完全に安全とは考えないほうがよいです。過信をせず、いざというというときに情報を得て安全な場所に避難するなど身を守る行動をしてほしいです

取材後記

地下で進む大規模な対策に期待を感じた一方、岩盤が硬いことから、工事は想定より遅れているということです。気候変動が進展すると、さらに降水量は増えるおそれがあります。早い完成を期待する一方、コストに見あうような効果を発揮できるよう、運用にも期待したいと思います。

  • 川村允俊

    首都圏局 記者

    川村允俊

    2018年入局 長野局を経て首都圏局。 長野局では台風19号の被害などを取材。現在は都庁担当。

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