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都立高校男女別定員撤廃は 令和6年度入試から 背景は 影響は

  • 2023年9月13日

全国の公立高校で唯一、全日制の普通科の入試で設けられている都立高校の男女別の定員について都の教育委員会は来年度(令和6年度)の入試からすべて撤廃することを決めました。なぜ来年度から?受験生などへの影響は?取材しました。

定員の見直しをしてきたが…

都立高校は全国の公立高校で唯一、全日制の普通科の入試で男女別の定員が設けられていて、女子はより高い点数をとらないと合格しにくい傾向のため、都の教育委員会は段階的に撤廃する方針を決め、定員の見直しを行ってきました。

こうした中、教育委員会が今年度(令和5年度)の入試の結果を分析したところ、定員の見直しだけでは、一部の高校で、合格圏内の点数だった女子生徒が不合格になっていたことが分かりました。
このため教育委員会は、11日、校長などを含めた協議会を開き、全日制普通科の入試がある108校すべてで来年度(令和6年度)の入試から男女別の定員を撤廃することを決めました。
令和6年1月から2月にかけて行われる一般と推薦の入試から対象になるということです。

都教育委員会の担当者
「入学者の男女数の差が極端にならないように定員を設けてきたが、性別の差による不公平感への指摘があるのは事実なので、今回の決定をした」

なぜこの仕組みが残っていた?

都立高校入試を待つ受験生 1957年(昭和32年)撮影

この仕組みが残っていた背景について都の教育委員会は「東京ならではの事情がある」と説明しています。

都内では、現在、およそ30万人いる高校生の半数以上を私立高校が受け入れていますが、そのうち3割は、女子校です。戦後、女子の教育の機会を保障しようと多くの女子校がつくられたことが主な理由です。
このため、私立高校の男子の枠は、女子より少ない状態になっていて、都立高校の男女別定員がなくなり都立に入る女子が増えると、都立に入れなかった男子を私立が受け入れきれないおそれがあるとして、70年以上にわたって、この制度が残されてきました。

しかし、この制度では、仮に同じ点数をとっても、男子生徒が合格となる一方、女子生徒は不合格となるケースが相次ぎ、女子の合格最低点が男子より高くなっていて、「不平等だ」と指摘する声があがっていました。
これを受けて、都の教育委員会は、男女別定員の撤廃に向けた議論を平成26年から本格的にはじめました。そしておととしからは、「一気に制度を変えると混乱が起きる可能性がある」として、段階的に男女合同の定員を導入していて、おととし(令和4年度)の入試では都内すべての学校で定員の10%を男女合同の定員とし、前回(令和5年度)の入試では、定員の20%に拡大していました。

なぜ来年度から?

都教育委員会で、前回の入試をもとに男女合同の定員とした場合の結果を推計して合否を比較したところ、都立高校108校のうち92%にあたる99校で同じ結果になり、男女別定員を完全に撤廃した場合の影響は限定的だと分析しました。

一方で、残る9校では、もっとも差が大きい学校では、男女別定員の場合に比べて女子生徒の合格者は23人増えるとされ、男女の合格最低点の差も、51点となるところもあり、女子生徒が依然として不利な立場になっているケースがあることが分かりました。

これらの分析の結果、都教育委員会は「なるべく早く対応する必要がある」として、令和6年度の入試からすべて撤廃することを決めたということです。

進学塾の関係者「受験生へ大きな影響なし」

都立高校の男女別の定員が来年度の入試から撤廃されることについて、高校受験の進学教室の担当者は、受験生への大きな影響はないとみています。

教室で進路指導にあたっている冨田健介さんはジェンダー平等の観点からも歓迎すべきことだと受け止めています。今後、過去のデータを参照しながら男女合同の定員の場合の合格ラインを計算して生徒や保護者に共有し、指導にあたりたいとしています。

河合塾Wings教育情報課長 冨田健介さん
「都立高校では段階的に男女合同の定員を導入するなどしてきましたが混乱はなく、基本的に大きな影響はないと考えています。保護者や生徒にも説明してきているので、戸惑いもなく、冷静に受け止めていると思います。引き続き、それぞれの生徒が志望校合格に向けて努力を続けることが大切だと思うので、生徒や保護者に情報提供をしながらサポートしていきたい」

私立学校の関係者「生徒にとって何が一番最適か考えて」

都内の私立中学校や高校で作る団体の会長は、「いまの仕組みが時代に合っているのかを確認し生徒にとって何が一番最適かを考えるべきだ」と述べました。

東京私立中学高等学校協会 近藤彰郎 会長
「いまの仕組みが時代に合っているのか確認していく必要があります。公立高校、私立高校のどちらかが得するという判断ではなく、生徒にとって何が一番最適かを考えるべきで、ここ数年、入試の分析を続けてきた結果、さほど影響はないことがわかったので、合意に至りました」

一方で、今後の懸念として私立高校の経営面を主に挙げました。

「私立の女子校の経営にある程度影響するなど、今回の方針が私学にどう影響を与えるのか、東京都にも考えてほしいという姿勢は変わりません。不安なところはそれぞれの私立学校であると思いますが、何をしたらいいか考える努力と、この学校の教育を受けたいと望む子どもたちを満足させる努力が求められると思います」

ジェンダーに詳しい専門家「是正は歓迎も遅かったのでは」

教育現場のジェンダーについて研究してきた専門家は、都立高校の全日制の普通科の入試では女子がより高い点数をとらないと合格しにくい傾向にあったことについて次のように述べました。

日本女性学習財団 村松泰子 理事長
「これまでは教育機会が男女で均等ではなく、女性のほうが不利となる実態もあった。都内の教育マーケットは複雑で、私立高校とのバランスを考えての対応だったとも言えるが、経済的な事情で都立にしか進学できない生徒は女子にもいるので、定員で差別するのは不平等だったと思います」

そのうえで、都が来年度の入試から都立高校の男女別の定員についてすべて撤廃すると決めたことについては、こう指摘しました。

「対応が是正されることは歓迎しますが、遅かったのではないかという思いです。定員という枠組みそのものがようやく平等になるので、今後はさらに学校教育のなかで男女の役割といった無意識の男女差別がないか点検していくなど、中身の部分で変革していく努力が求められると思います」

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