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都立高校入試の“男女別定員制” 同じ点数なのに女子だけ不合格?

  • 2021年3月25日

3月、学習塾が主催する来年度の高校入試説明会が都内で開かれていました。
生徒や保護者への説明に、気になる言葉が出てきました。

「都立高校は男子と女子で合格基準が違うことは注意してほしい。女子のほうが頑張って成績を上げないと同じ学校に入れない」

九州出身の私たちには驚きの一言。聞けば都立高校の普通科は男子と女子の定員を別に設けているのです。全国でもこんなことは東京以外にありません。今、LGBTQの生徒たちへの対応も求められる中で、一体どういうことなのでしょうか。

(首都圏局/都庁担当記者 野中夕加・ディレクター 村山世奈)

この記事に寄せられた意見をまとめた記事はこちら

全国唯一の “男女別定員制”

都立高校の一般入試は、内申点を300点満点、5教科の学力検査を700点満点に換算し、合計1000点満点の中で、得点が高い順に合格が決まります。しかし、東京は全国で唯一、都立高校の全日制普通科の定員が男女別に設けられています。
東京都教育委員会が公表している倍率を見てみると、本土の104校では男子1.43倍に対し、女子は1.48倍、島しょ部の6校では男子0.39倍、女子0.36倍と、あまり大きな開きはないように感じます。

しかし、高校ごとの合格ラインの点数について都教委に聞いてみると、「男女の合格最低点に差が生まれ、女子のほうが高くなる傾向がある」というのです。その具体的な点差は公開することはできないといいます。

そこで、高校入試の模擬試験を行う会社が出している「合格基準」を見てみました。

合格基準が男女で40点以上異なる学校も

前年の受験生の情報をもとに、何点とれば60%の合格可能性があるか示すリストです。
今年発行されたものを見てみると、

  男子 女子
杉並高校

625点

665点

駒場高校

830点

865点

足立新田高校

465点

500点

本所高校

595点

630点

南葛飾高校

415点

450点

葛西南高校

400点

435点

 

リストに載っている全日制普通科104校のうち85校は女子の合格基準が男子より高くなっています。
中には、男女の基準が同じ学校もありますが、男子の基準が高い学校は1つもありませんでした。

“女子は内申点が高い”から?

どうして女子の点数が高いのか。

都内で長年、学習塾を営む鈴木正之さんは、内申点は定期試験だけでなく授業態度や提出物などが加味され、女子のほうが高い傾向があると言います。そのため、男女別の募集だと、結果的に女子の基準が高くなるのではないかと予想します。

ただ、目の前の生徒の実力を伸ばし合格させることに力を尽くしてきた鈴木さんは、これまで男女別に定員が設けられている理由について深く考えたことはありませんでした。

いぶき学院 鈴木正之さん
「なぜ男女別で募集をするようにしたのか私も謎なので、ぜひ知りたいところです。コース制高校や専門学科は男女一緒に募集しているにも関わらずそこで大きな問題は起きていないので、普通科の男子と女子を分けていることは疑問がわいてきます。どうしてそんな制度を始めたのか。また、今も必要なのか知りたいし、その上でそれが今の時代にそぐわない制度であるならば、そこは直していく、変えていくことは必要だと思います」

受験生はさまざまな意見

説明会に来ていた生徒と保護者に話を聞いてみました。

 

「やっぱり最低合格点数が男子と女子で違うと、同じ点数でも落ちちゃう子と受かる子がいるというところで、不公平感があるなって感じました」

 

「同じ人間だから、性別関係なく学力レベルで見てほしいかなって思います。男女じゃなくて実力で平等に選んでほしい」

 

 

「びっくりしました。そんなふうに東京はなっているんだと思って。自分の出身は東京じゃないので、『平等じゃないんだ』と。男女で差をつけちゃうんだというのが正直な気持ちですね」

 

「男女で統一できるならしてほしいけど、来年受験だとしたらそんなにすぐには(制度を変えることは)無理だから。いつかは男女平等にはなってほしいです」

 

 

「(男女は)根本的なものが違うのかなと感じることもあって、考え方や学力も変わってきちゃうのかなと思うので仕方ないのかなと思いました。男女どっちも頑張るのは同じだと思うので、女子も頑張れば関係ないと思います」

 

 

「(男子が)少し有利ならちょっといいかなって感じ」

 

「女子にだけ影響があって男子にあんまり影響がないから別にいいかなって思います」

Q:もし逆で、男子のほうが合格にたくさん点数が必要ですと言われたら?

 

「不平等かなって思いますね」

 

「それは仕方ないとは思う。そのなかで頑張るしかないなって」

共学化とともに始まった男女別定員制

そもそも都立高校の男女別定員制はいつから始まったのか。

戦後、男女共学制を導入するにあたって、昭和25年度(1950年度)から男女別の定員が設けられました。
それまでは旧制中学校や旧制高等女学校など、男女は別々の学校で異なる教育を受けていました。

女子が通っていた旧制高等女学校では、理数科目の授業時間が少なく、外国語も必修ではなかったため、当時は男女間に大きな学力差がありました。そのため、男子が通っていた旧制中学校を共学化しても、女子の学力の水準では入学することが難しかったのです。そうした中、教育庁から、共学制を実現するために、男女で別の枠を設けて募集するよう指示が出されます。(『東京都教育史稿(戦後学校教育編)』より)

男女別定員制は、もともと女子の教育を保障するために生まれた仕組みだったのです。

しかし、男女が幼い頃から同じ教育を受けることが当たり前になった現在、都道府県全体で公立高校の男女別定員制を残しているのは東京都だけです。どうしてなのでしょうか?

30万人の高校生 首都でどう受け入れるか

東京都教育委員会の担当者は、複雑な表情で打ち明けました。

都教委の担当者
「受験生が不公平を感じるという意見は聞いています。しかし、東京には他府県と比べることができない特殊な事情があるんです」

都内の高校に在籍する生徒は30万6千人。
2番目に高校生が多い大阪府の21万4千人を大きく超えます。

そして、30万人超の都内の高校生のうち、実に半数以上の17万2千人が私立高校に在籍しています。

都教委の担当者
「高校への進学を希望する生徒全員が就学できるようにするためには、私立高校と協調して受け入れていかなければいけません」

私立の女子校が多い東京

都立高校が男女別定員制をやめて男女比のバランスが変わると、私立に入学する生徒の男女比にも影響が出る可能性があります。都立高校に合格する女子生徒が増えると、私立高校へ進学する女子生徒が減ることが予想されますが、そこで課題として浮上するのが「私立の女子校」です。都内の私立高校233校のうち、34%にあたる80校は女子校で、その数は男子校32校の倍以上です。

東京私立中学高等学校協会の近藤彰郎会長に話を聞きました。

東京私立中学高等学校協会 近藤彰郎 会長
「男女別定員制をやめると都立高校に進学する女子が増えるでしょう。しかし、私立には女子に比べると男子の受け皿は少なく、行き場がなくなる男子が出るおそれがあります。また、生徒が減って苦しむ私立女子校もあるでしょう。それは、建学の精神があって社会のために尽くしてきた学校が無くなるということで、その学校が受け入れてきた生徒の受け皿も新たに必要になります」

都立高校も肯定的

実は都立高校の教育現場も男女別定員制を肯定的に捉えています。都立高校の校長を対象に行われたアンケート調査では、回答した82.7%が「必要だと思う」または「どちらかと言えば必要だと思う」としています。

男女別定員制を必要とする各校長の主な意見

・男女合同定員制を行うと往々にして女子の合格者が多くなる傾向があり、男子が入学できる余地を残しておくためにも、男女別定員制は意味があるのではないかと考える。

・男女比のバランスが崩れることにより、部活動によって本校を第一志望としている生徒への影響がある。

・現在の男女の募集人員にもとづいて体育の授業や行事等が計画されているので、男女比のバランスが崩れると一部の授業や行事に影響が出ることが懸念される。

(過去2年の東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書より)

一方でアンケートの中には、「性別によって合格基準が変わることは人権上問題がある」「時代に合った選抜制度を見直す必要があるのではないか」と懸念を示す校長の意見もありました。

「緩和」で差の是正を目指すが…

男女で合格最低点に差が出てしまう状況を是正するため、東京都教育委員会は、平成10年度(1998年度)の入試から一部の学校で「緩和」制度を設けています。定員の9割までは男女別に合否を決め、残り1割は男女の区別なく得点順に決める制度です。緩和を行うかは学校の任意で、令和3年度の入試(2021年度)は42校が実施しました。

男女の合格基準が異なる出来事といえば、平成30年(2018年)に東京医大など複数の大学医学部の入試で女子の合格基準を男子より厳しく設定していたことが発覚し、大きな波紋を生みました。

都教委の担当者に、単刀直入に尋ねました。

Q:全体のバランスをとるためとはいえ、男子より高い点数を取っても不合格になってしまう女子がいることはどう考えますか。

「定員を事前に示しているので、女子はこの人数、男子はこの人数と分かった上での受験は適正だという認識です」

不必要な男女区別は避けるべき

教育現場のジェンダーについて研究してきた東京学芸大学名誉教授の村松泰子さんは、性別によって進学の機会が変わることは、事前に公開していたとしても公平ではないと指摘します。

東京学芸大学名誉教授 村松泰子さん
「都立高校と私立高校をあわせてバランスをとっているとしても、経済的な事情で都立にしか進学できない生徒は女子にもいます。都立の男女比が変わることが私立の存続に影響して生徒の行き場が無くなるのだとしたら、そこは他の方法で私立をサポートすべきではないでしょうか」

さらに、入試で男女を区別することは、入学後の学校教育にも影響があるといいます。

村松泰子さん
「入学時に男子・女子と分けられていると、先生や生徒自身が、無意識に「男子は」「女子は」と区別して物事を考えかねません。ジェンダーの問題は、“制度”と“意識”の両面があって、男女別定員制は“意識”への悪い影響にも繋がるのではないでしょうか。また、男女に二分することは、性的マイノリティの生徒たちにも戸惑いを与えます」

変わる環境

男女別定員制がなくなると私立高校へ影響があると話した東京私立中学高等学校協会会長の近藤彰郎さん。
一方で、教育は時代の変化にあわせて変わる必要もあるといいます。

都内の私立高校の状況は近年、大きく変わっています。この20年で急速に共学化が進んでいるのです。

近藤さんが校長を務める私立高校も、創設から80年以上続けてきた女子校をこの春から共学に変えます。これからは男女が協働する時代であり、若い頃から男女がともに学び、お互いに理解しあうことが重要だと考えたからです。

近藤彰郎 会長
「かつてより私立に男子生徒の受け皿が増えていることは確かです。そういう意味では、都立高の男女別定員制も今の時代にあった形を考えていくことは必要です。ただ、急に変えると大きな影響を受ける学校もあるので、どんな影響が出るかデータをきちんと検証していくべきです」

併設する中学校は3年前から 高校はこの春から共学に

取材後記

「私が受験するときに制度を変えるのは無理だから、別にこのままでいいかな」
印象に残っている女子受験生の言葉です。一生に一度しか経験しない高校受験。そのときに違和感を持ったとしても、多くの人は受験に集中し、入学後は新生活があるため、これまで大きな問題になってこなかったのかもしれません。

一方、取材を進めるうちに色々な疑問がわいてきました。校長のアンケートにあるように男女比が偏ると教育現場に影響が出るのか?心と体の性が異なるトランスジェンダーの生徒は?
取材に応じた塾講師や、教育委員会、私立高校の校長は、皆、教育は時代の変化とともに見直す必要もあると話していました。今の世の中にあった制度は何か。それを考えることは私たち大人の使命です。

「これってジェンダーギャップ?」投稿募集
都立高校の男女別定員制について、受験生や保護者、卒業生からの声を募集しています。
また、身の回りで感じる「ジェンダーギャップ」についての疑問や意見もぜひお聞かせください。

投稿はこちらから

  • 野中夕加

    首都圏局都庁担当 記者

    野中夕加

    大分県出身 2010年入局 松江局と広島局を経て去年9月から都庁担当

  • 村山世奈

    首都圏局 ディレクター

    村山世奈

    長崎県出身 2015年入局。 沖縄局で戦争や米軍基地問題を取材し、2019年から首都圏局で災害や新型コロナを取材。

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