プロレスラーが記念撮影しているのは、JR久留里線。房総半島の中ほど、木更津から上総亀山を結ぶローカル線です。
JRは沿線の活性化を促すイベントを打ち出してきましたが、一部区間の1日の平均乗車人数は50人程度で、赤字路線として存続が危ぶまれています。
5月からは地域の交通体系をどうするか、県と市、JRなどが「協議」を始めました。久留里線の一部は廃止されるのか。これまでの議論をまとめました。
(千葉放送局記者・渡辺佑捺)
9月6日、君津市で開かれた「第2回 JR久留里線沿線地域交通検討会議」。
千葉県、君津市、JR東日本の担当者、そして、交通システムの専門家や沿線住民の代表者らが出席しました。
きょうは君津市から住民説明会について共有をしてもらうとともに、住民の声を踏まえて議論をしていければと思います。
会議のあと、検討会議の出席者が協議の内容を報道陣に説明しました。
本数が少ないために久留里線を利用しづらく、車を使っている住民のような、潜在的な利用ニーズを把握するため、地元住民へアンケートなどの調査を行うことになりました。
調査結果がまとまった段階で、次回の検討会議を行うことが決まりました。
調査の方法は決まっておらず、君津市とも相談しながら、時期などとともに検討していきます。
JR久留里線は、木更津駅から房総半島内陸部にある久留里駅、上総亀山駅までを結ぶ全長32.2キロの路線です。
終点の上総亀山駅から先に乗り換えできる路線はなく、行き止まりとなっていて、「盲腸線」とも呼ばれます。
1912年の開業以来、地域の生活の足を担ってきましたが、近年は人口減少や交通網の多様化で利用が落ち込み、赤字が続いてきました。
特に深刻なのが、久留里駅から先、上総亀山駅までの区間です。経営は次のような状況です。
▼1日あたりの利用者数の平均
1987年度:823人 → 2021年度:55人(30年余で9割減少)
▼営業の収支(2022年度)
収入:約100万円 ⇔ コスト:約2億8100万円
▼「営業係数」(100円の運賃収入を得るためにかかった費用)(2019年度)
1万5546円(※JR東日本の路線の中でワースト)
久留里線の利用を促そうと、JR東日本はさまざまなイベントを実施してきました。
去年11月には「プロレス列車」を運行。
木更津駅~久留里駅の往復の1時間半、「大日本プロレス」と「新潟プロレス」の選手たち17人が車内で試合を繰り広げました。
このほか、地酒を車内で楽しむ企画なども打ち出しましたが、これまでのところ、利用者の大きな増加にはつながっていません。
こうした中、ことし3月9日、JR東日本千葉支社で支社長(当時)が久留里線の今後について記者会見を行いました。
久留里駅~上総亀山駅の区間について、沿線地域の総合的な交通体系に関する議論を行うための「協議」を千葉県と君津市に申し入れました。
申し入れの主な内容は次の通りです。
▼久留里線は、1987年4月に日本国有鉄道から承継したあと、利用者数の減少が続き、2021年度の木更津~上総亀山間の平均通過人員は1日あたり782人と、会社発足時から約7割減少。特に久留里~上総亀山間については1日あたり55人。
▼将来の沿線人口は減少する予想で、久留里線の利用者はさらに減少も予想される。
▼利用者にとって、利便性が向上する交通体系のあり方を総合的な観点から検討する必要がある。
▼これまで効率的な運営のため、駅体制の見直しやワンマン運転化などのコストダウン施策を実施してきた。
▼一方で、新型車両を導入し、「JR久留里線活性化協議会」を立ち上げ、イベントなどで利用促進の取り組みなどを継続的に展開してきた。こうした沿線地域の活性化などについては、さまざまな方面から引き続き貢献していく。
▼こうした状況を踏まえ、沿線自治体などとともに、久留里~上総亀山間について、沿線地域の総合的な交通体系に関する議論を行いたく、協議の場の設置の検討をお願いしたい。
申し入れを受けて、5月11日、「第1回 JR久留里線沿線地域交通検討会議」が開かれました。
この「協議」では、JR東日本から路線の現状や課題について説明があり、出席した住民の代表は、住民向けの説明会の開催を求めました。
また、地元からは路線の存続を求める要望が出されています。
5月17日、沿線住民などの約30人の有志グループ「久留里線と地域を守る会」は、路線の存続を求める約5600人分の署名と要望書を、JR東日本千葉支社に提出しました。
要望書では、▼路線の存続、▼久留里駅~上総亀山駅の列車の本数を増やすこと、▼久留里線のあり方についてJR東日本千葉支社としての考えを示すことなどを求めました。
地元の人にとって通学や通勤など生活に必要な交通機関です。存続を求めて今後は自治体にも働きかけていきたい。
また「守る会」は、地域住民の声をさらに取り入れてもらおうと、自分たちを「協議」のメンバーに加えるよう要請する文書を君津市長宛てに提出したほか、現在は非公開となっている「協議」を公開することなどを求めています。
「協議」に基づいて開かれた地域ごとの説明会でも、存続を求める声が相次ぎました。
6月1日、君津市の亀山地区で開かれた最初の住民説明会には、約70人の住民が出席しました。
JR東日本の担当者は、1日の利用者数が平均55人にとどまること、採算がJR東日本の路線の中でワーストだということなどを説明しました。
しかし、住民側からは…。
この区間が廃線になれば通勤や通学の交通手段がなくなる。
廃線ということになると我々の業界としても厳しくなる。観光業にとってアクセスは重要なものなので、存続を求めたい。
これに対し、JR東日本の担当者は「意見を聴いた上で改めて総合的な観点から検討していきたい」と述べました。
説明会は7月12日に松丘地区、15日に久留里地区でも実施され、3日間であわせて220人の住民が参加しました。
住民からは、ほかにもさまざまな声が上がりました。
利用者がいないというのは、本数が少ないので、乗ろうと思っていても乗れないからだ。(※上総亀山駅行きの便は1日8本程度で、5時間半ほど間隔がある時間帯も)
廃止するにしても、代替交通手段を適切に考慮していただかないと困る。
時間が合わず、久留里駅まで送り迎えをしている人がいたことも考慮してほしい。(※木更津駅~久留里駅間はおおむね1時間に1本)
Suicaが使えるようにしてほしい。(※久留里線は木更津駅を除いて利用不可)
新たに始まった県・市・JRなどによる「協議」は、会議の目的を「現在の沿線地域における現状や課題を共有し、今後の地域交通のあり方に ついて検討すること」としています。
あくまで「協議」は、路線を存続させるかどうか決めるものではなく、沿線地域にとって久留里線がどうあるべきか、考えていくものだといいます。
存続か?廃止か?最終的な判断がどのようなプロセスで行われるのか、まだ不透明なのが実情です。
千葉県の担当者は、「今後も関係者間で協議を進め、沿線地域における久留里線のあり方について議論を深めていく」としています。
地方鉄道の存続が各地で課題となる中、久留里線をめぐる「協議」の行方を、今後もお伝えしていきます。