プロレスラーの力で沿線を元気に――。
千葉県の房総半島を通るJR久留里線に揺られながら、車内でプロレスの試合が観戦できる「プロレス列車」が運行されました。
かねてから千葉県のローカル線取材をしたいと思っていた記者が「プロレス列車」に乗ってきました。
(千葉放送局記者 渡辺佑捺)
「プロレス列車」と初めて聞いたとき、「手すりや座席がある狭い車内でプロレスなんてできるのだろうか?」と不思議に思いました。
取材案内によると、「プロレス列車」はプロレス選手から元気をもらって、沿線の魅力もアピールしようというのが目的のようです。これまでも県内では銚子電鉄や小湊鐵道などで運行されたことがありますが、JR東日本千葉支社管内では初めての試みです。
今回は千葉県の房総を走る久留里線の木更津駅と久留里駅の間の往復あわせておよそ1時間半、大日本プロレスと新潟プロレスの選手ら17人が試合を繰り広げるということです。少しわくわくしながら取材に向かいました。
JR木更津駅の久留里線ホームで待っていると、プロレスが行われる「キハE130系」がやってきました。黄色や緑、水色を基調としたポップな車体でこの車両の写真を撮るためにホームを訪れている「撮り鉄」の人たちもいます。
列車は2両編成で、プロレスのグッズやカメラを持った予約客が続々と車内に乗り込みます。車内には、出演する選手たちの写真と名前のついたポスターが飾られていました。手すりの部分には、スポンジのカバーがつけられています。乗客はロングシートの座席に順番に座っていきました。
「選手入場です!!!」
軽快な音楽が流れ始めると、乗客が手拍子を始めます。するとホームから続々と屈強な選手たちが乗り込んできました。乗客と乗客の間の通路にはプロレスラーたちが続々と並び、車内は心なしか何度か室温が上がった感じがします。わたしは初めてプロレスラーを目の前で見ましたが、テレビで見るよりも何倍も大きく感じました。
車両のドアが閉まると、さっそく試合のゴングが鳴りました。選手たちは乗客と乗客の間の狭い通路で激しく動き回ります。乗客に拳や蹴りが当たらないよう慎重に戦うような雰囲気も感じます。
しかし車内が温まってくると、まるでそこは「プロレスリング」。選手が床やドアに相手をたたきつけたりする技を披露すると、乗客は歓声や拍手で車内を盛り上げました。車体は大きく揺れていて、一緒に行ったカメラマンたちは足を大きく開いてバランスを取り、試合の様子をカメラに収めるのに必死でした。
木更津駅から数えて5つ目の横田駅に到着すると、そこでは別の選手たちがお出迎え。乗客はサプライズ選手の登場に盛り上がりました。車内はもちろん、駅の構内でも試合が繰り広げられました。出発間際においていかれそうな選手もいて、「駆け込み乗車はおやめください!」と言わんばかりの盛り上がりでした。
さらにこんな企画も。弁当の早食い対決です。
選手たちは、「いまからじゃがいもを食べます」「おいしいです」カメラのまえで食リポをしながら、車内を盛り上げてくれます。
ユニークで陽気な選手たちの個性的なパフォーマンスに、こちらも笑わずにはいられませんでした。
映像では見たことあるんですけど、初めて生で見ました。目の前で見ることが出来て、めちゃめちゃ楽しい!!
プロレス列車はこれまでも4,5回乗ったことがあります。やっぱりふだん乗っている列車でプロレスをやるという非日常感が面白いです。間近で見られるところもとても良かったです。こういう取り組みは町おこしや人が来るきっかけにもなりますよね。
折り返しの久留里駅では、プロレスラーと乗客で記念撮影が行われました。参加者は、「キハE130系」の前や久留里駅舎の前で選手との交流を楽しみました。線路に10数人の屈強な選手たちが列車を囲んでいるのも非日常な光景でした。
山口駅長「プロレス選手から元気をもらうことができました。久留里線の沿線にきてもらえるようこれからもアピールしていきたいです」
JR東日本がことし7月に初めて公表した利用者が特に少ない地方路線の収支報告書では、久留里線は▽2019年度と2020年度の2期連続赤字で、▽100円の運賃収入を得るためにいくらの費用がかかるかを示す「営業係数」では、2019年度は久留里線の久留里駅と上総亀山駅の区間が1万5546円と、地方路線のなかで最も採算が悪くなりました。
JR東日本千葉支社 地方創生担当 佐溝貴史チーフ
「ライフスタイルの変化やコロナの影響で2期連続赤字となっており、利用者を増やすために努力していかなくてはいけないです。こうしたイベントをきっかけにして沿線を元気にしていきたいですし、千葉支社の各線も同じように盛り上げていきたいです」
鉄道開業150年を迎えたことし。ただ移動するだけではない、新たな鉄道利用を考える機会が増えてきていると感じました。ローカル線を含めた鉄道路線の沿線価値向上のため、試行錯誤する鉄道各社の姿をこれからも追っていきたいです。